宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月5日、金星探査機「あかつき」(PLANET-C)が実施する軌道上噴射テストについて説明会を開催、詳細を明らかにした。予定している噴射回数は2回。これがうまくいけば、当初予定していた金星の観測軌道へ投入する見通しが得られることになる。

「あかつき」の模型を使って説明するJAXA宇宙科学研究所・宇宙航行システム研究系の石井信明教授(JAXAの中継映像より)

OMEが使えるかどうかで最終軌道が変わる

「あかつき」は2010年5月に打ち上げられた日本初の金星探査機。同年12月、金星周回軌道に入るための逆噴射を実施したものの、機体の姿勢が大きく乱れたことにより噴射を中断、減速が足らずに金星を通過してしまった。このとき何が起きたのか、詳しくは6月末に調査報告が出ているので、それに関しては別記事を参照して欲しい。

現在、「あかつき」は太陽を周回する軌道を飛行中。2015年に金星に再会合するためには、今年11月に軌道変更を実施するのが都合が良いが、「あかつき」の軌道制御エンジン(OME)はスロート(一番細くなっているところ)付近で破断し、ノズルの大部分が失われていると推測されている。軌道変更にこのOMEを再び使うことができるのかどうか、それを調べるのが今回の噴射テストの目的である。

OMEの噴射テストの結果から、2通りの方針のうち1つを選ぶことになる

もしOMEが使えそうなら(ケース1)、計画通りの金星周回軌道への投入が可能となる。ノズルがなくても、スロートが残っていれば燃焼室の圧力は維持でき、推力の発生は可能。もちろん万全とは言えないが、昨年の噴射で異常が発生したあとも、定格の6割である300N程度の推力は確認されていた。早めに噴射が中断し、推進剤(燃料+酸化剤)が十分残っていたことも幸いした。

しかしOMEが使えないとなると状況は厳しい(ケース2)。本来、軌道制御用ではない姿勢制御エンジン(RCS)を使うことになるが、推力が小さい上に、燃費も2液式のOMEに比べると良くない。RCSでは不要になる酸化剤(RCSは1液式なので燃料のみを使う)を捨てて探査機を軽くしたとしても燃料が足らず、金星の周回軌道までは投入できるものの、観測に適した軌道までは到達できない。

ただし、もしOMEが使えるということになっても、依然として耐久性には不安が残る。長時間の噴射に耐えられるのか。さらに壊れることはないのか。これについて、現時点では何とも言えないが、軌道変更のチャンス(近日点)は今年11月だけではなく、来年6月にもある。11月にもしOMEの破損によって失敗したとしても、ケース2に切り替え、来年6月に再チャレンジすることも可能だろう。

2回の噴射テストで制御ロジックを構築

噴射テストはまず、1回目を9月7日に実施する。この時はまだ横推力などの姿勢外乱がどのくらいになるのか分からないため、噴射時間は2秒に抑える。

OMEの噴射で懸念されているのは、姿勢外乱の大きさである。OMEはスロート付近で破断していると考えられており、その影響によって燃焼ガスは軸方向だけでなく横方向にも漏れる可能性がある。これが横推力となり、探査機の姿勢を乱す原因となるのだ。

1回目のテストで外乱の強さを定量評価。それを受けて制御のパラメータを決定し、9月14日に実施する2回目の噴射テストで検証する。噴射時間は20秒を予定しており、RCSで姿勢を維持しつつOMEで推力を出せるかどうかを試す。昨年のOME噴射中に異常が起きたときにも横推力が観測されていたが、これと同程度の大きさであればRCSの姿勢制御能力で抑えられる見通しだ。

噴射テストの考え方。9月中に2回実施する

ちなみにこの噴射テストを9月に実施するというのは、11月の軌道変更に向けて検討する時間が必要ということもあるが、軌道傾斜角の変更にちょうど良いタイミングであったという理由もある。これはもともと再会合のために必要なものだったので、噴射テストでついでに実施すれば大事な推進剤を無駄にしなくてすむ。そのため、2回の噴射テストはOMEを軌道面に対して上下方向に向けて実施する。

噴射の開始時間は2回とも11時50分(日本時間)の予定で、同日夕方までには結果が分かる見通し。ただしこの時に分かるのは噴射したかどうかくらいで、推力や外乱がどのくらいだったかの評価はデータを詳しく解析してからになる。前述のケース1と2のどちらで行くか、決定するのは今月末~10月頭くらいになる見込みだ。

11月の近日点で400秒程度噴射、遠日点を金星軌道近くにまで下げる

同日会見したJAXA宇宙科学研究所・宇宙航行システム研究系の石井信明教授は、「なるべく早く、金星観測が実施できる軌道に投入できるよう、全力を尽くしたい。昨年の金星投入に失敗したあとも、探査機の健全性は確認できている。エンジンに関しては地上試験で様々な可能性を検討してきた。そのデータを有効に活用しながら、万全の体制で臨みたい」と意気込みを述べた。