6月27日と28日に東京大学(東大)で開催されたシンポジウムにおいて理化学研究所(理研)の平尾副本部長の特別講演があり、その中で「京」コンピュータに関して、8.162PFlopsを達成してTOP500 1位となった今回のシステム規模は672ラックと述べられた。拙著の記事では、548,352コア、68,544チップであり、1筐体に96チップが搭載されているので、714筐体と書いたのであるがこれは間違いであった。672筐体では1筐体あたりのチップ数は102個となる。

富士通の「京」コンピュータの筐体。上下に各12枚のシステムボードがあり、中央に電源とI/Oボードが搭載されている

中央の部分の拡大写真。右側に6枚のI/Oボードが見える

実は「京」の筐体には24枚のシステムボードと6枚のI/Oボードが搭載されており、システムボードだけでなくI/Oボードにも各1個のSPARC64 VIIIfxプロセサが搭載されているという。Top500のLINPACKの計算中はI/O動作は不要なので、この6個のプロセサも計算に回したと考えると、プロセサ数は4個×24枚+6個=102個で計算が合う。

そして、LINPACKの計算のサイズ(解いた連立1次方程式の元数)は10,725,120である。これは3位のJaguarの5,474,272の約2倍であり、2位の天河1Aの3,600,000の3倍近い元数になっている。総計算量はおおよそ元数の3乗に比例するのでJaguarの8倍、天河1Aの20倍の計算を実行したことになる。

そして、この計算に要した時間は100,711秒(約28時間)と発表された。ということは、少なくとも測定時には28時間連続で動いたということである。東京工業大学(東工大)の松岡教授が世界のスパコン状況の特別講演で、天河1AのMTBF(Mean Time Between Failure:平均故障間隔)は6時間と述べていたが、それに比べるとより大規模である"京"が28時間動いたというのは優秀である。計算すると天河1Aの測定時間はほぼ京の1/7程度であり、4時間程度で終わっているはずである。これなら6時間の平均故障間隔でも終了できるサイズであると考えられる。

また、東工大のスパコン「TSUBAME2.0」の開発を行った松岡教授が海外のスーパーコンピューティングの状況に関する特別講演を行った。

米国はRoadrunnerシステムで1PFlopsには一番乗りを果たしたが、その後、中国の天河1Aに抜かれた状態で、それが今回、"京"に抜かれ、米国最大のJaguarシステムが3位に転落してしまったという状況である。

しかし、NCSAに設置される10PFlopsのBlue Waters、20PFlopsを目指すBlue Gene/Qを使うSequoia、同じく10~20PFlopsのMira 、Titanなどのシステムが2012年には相次いで稼働する予定であり、再びトップを奪還する可能性が高い。また、2011年6月のTOP500でも次の図に示すように、リストされたシステムの総Flopsでは米国はダントツである。

国別のTop500に含まれるスパコンの総Flops性能比

この図を見て、もう1つ気づくのは日本と中国が2位、3位を占め、韓国も8位に入っているというアジア勢の躍進である。

中国は、次の図にように、2011年から2015年までの第12次5カ年計画で何台かのPFlopsシステムと少なくとも1台の50~100PFlopsシステムを建造する計画であり、それに続く第13次5カ年計画では1~10EFlopsという目標になっている。

中国のExaScale計画

一方、ヨーロッパはBullやEurotechなどのメーカーがあるが、スパコンハードに関してはあまり強くない。しかし、PRACEと呼ぶEU全体のスパコン環境の整備プログラムで、Jugeneと呼ぶ1PFlopsのBG/Pシステムを2010年に導入し、2010年5月に導入されたGENCIシステムは2011年10月に1.6PFlopsに増強される予定である。ということで、国別の総Flops性能では、日本、中国に続いて独、仏、英がならんでいる。

また、次の図に示すように2012年~2013年も継続的にスパコンを整備する計画となっており、英国のIPベンダであるARMのプロセサを使うスパコンも計画されている。

ヨーロッパのPRACEでのスパコン整備計画

各国のペタ級スパコンの開発予定をまとめたものが次の図である。

今後のペタ級スパコンの稼働予定

ExaFlopsには億単位のプロセサコアが必要であり、これだけの並列性を本当に利用できるのか、消費電力をどうやって抑えるのか、大量のハードウェアの信頼性をどうやって確保するのかなど多くの挑戦が残っている。

米国エネルギー省のロードマップ

しかし、米国エネルギー省は、これらの課題を解決し、2015年には100~200PFlopsのシステムを開発し、2018~2020年に1ExaFlopsを目指す。システム構成としては1TFlopsのノードを100万個という案と10TFlopsというノードを10万個使用する案が上がっており、消費電力は20MWをターゲットにしている。

このような海外の状況を踏まえて、松岡教授は、次のようなスライドを示した。

エクサに向けての松岡教授の処方箋

スパコンのすべてのシステムを自前で作るのは大変であり、世界の流れにも合わない。日本としてはキーとなる部品や技術に絞って開発を行い、それが無いと他国も先端スパコンを作れないというものを持つべきであるとする。そして、ロードマップはどうするか、何を自主開発し、どこは標準部品を使うかを検討するワーキンググループを早急に立ち上げ方針を確立する。そして、開発に当たってはハード・ソフト・アプリのCo-Design体制の確立を行うべしという処方箋である。