計測機器の大手ベンダAgilent Technologiesの日本法人であるアジレント・テクノロジーは2月16日、デジタル・オシロスコープ(デジタル・オシロ)の低価格モデル「Infinivision 3000Xシリーズ」(3000Xシリーズ)とエントリ・モデル「Infinivision 2000Xシリーズ」(2000Xシリーズ)の販売を開始したことを発表した。この発表に先立つ2月14日、アジレント・テクノロジーは、報道機関向けに新製品説明会を開催し、製品の特徴や販売態勢などを解説した。

アジレント・テクノロジーの代表取締役社長兼電子計測本部長を務める梅島正明氏

始めにアジレント・テクノロジーの代表取締役社長兼電子計測本部長を務める梅島正明氏が登壇し、新製品の位置付けを説明した。3000Xシリーズと2000Xシリーズは単なるデジタル・オシロではなく、4種類の計測機能を1台の筐体にまとめた多機能測定器である。

具体的には、「デジタル・オシロスコープ」、「ロジック・アナライザ」、「プロトコル・アナライザ」、「ファンクション発生器」を1つにまとめている。さらに、入力信号波形の取り込み速度(波形更新頻度)を1秒当たり最大100万回(3000Xシリーズのみ。2000Xシリーズは最大5万回)と、同社従来製品の10倍に高めた。波形更新頻度を高めることで、間欠的に発生する信号波形をとりこぼす確率が、さらに低くなった。

「Infinivision 3000Xシリーズ」のハイエンド品「MSOX3054A」の外観。ディスプレイは8.5型WVGA(800×480画素)のカラー液晶パネル

2008年2月時点におけるアジレントのオシロスコープ製品一覧。2000年代前半までアジレントはオシロスコープ製品、特にミッドレンジ以下の比較的安価な価格帯のモデルにはあまり積極的ではなかった。しかし2000年代半ばから、積極的に下位モデルを市場に投入し始める。2008年にはハイエンドからローエンドまでの製品系列が出そろっていた

新製品説明会で示されたアジレントのオシロスコープ製品一覧。3000Xシリーズと2000Xシリーズは、「DSO5000シリーズ」と「DSO1000シリーズ(DSO3000シリーズの後継品種で2009年5月に発売された)」の後継品種になる。オシロスコープ最大手であるテクトロニクスの定番オシロ「3000シリーズ(現行製品はDPO3000シリーズ/MSO3000シリーズ)」を強く意識した製品だ

Agilent TechnologiesでOscilloscopes Business, Digital Test DivisionのMarketing Development ManagerをつとめるJun Chie氏

続いてAgilent TechnologiesでOscilloscopes Business, Digital Test DivisionのMarketing Development ManagerをつとめるJun Chie氏が、3000Xシリーズと2000Xシリーズのハードウェアを解説した。

これまでにも同社のデジタル・オシロは、高い波形更新速度を特徴としてきた。最大10万波形/秒の更新速度を誇る機種が珍しくない。これは、独自にデジタル・オシロ用ASIC「MegaZoom III」を開発し、搭載してきたからだ。波形更新速度は、アナログ波形をデジタル・データに変換した後、波形メモリのコントローラ(メモリ・マネージャ)からプロッタにデータを転送する速度に制限される。従来のデジタル・オシロではメモリ・マネージャとプロッタが別の半導体チップであったため、データ転送速度が100MB/s~200MB/sに抑えられていたという。このため、波形更新速度を高めづらかった。

しかし「MegaZoom III」では同じ半導体チップ内にメモリ・マネージャとプロッタを集積しているので、データ転送速度が1GB/sと高い。このため、波形更新速度を大きく向上できた。

そして3000Xシリーズと2000Xシリーズでは、ASIC「MegaZoom IV」を新たに開発、搭載した。データ転送速度は4GB/sに高まり、100万波形/秒(3000Xシリーズの場合)という極めて高い波形更新速度を実現できた。

さらに「MegaZoom IV」は、波形発生回路やシリアル・デコーダ、ハードウエア・トリガ、マスク機能、グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)回路などを集積している。このため、ファンクション発生器やシリアル・デコーダなどとして機能するとともに、操作性が大幅に向上した。

一般的に知られている、デジタル・オシロの内部ブロック

Agilent Technologiesが独自に開発したASIC「MegaZoom III」を搭載したデジタル・オシロの内部ブロック

Agilent Technologiesが新たに独自開発したASIC「MegaZoom IV」を搭載したデジタル・オシロの内部ブロック

Jun Chie氏の説明の後は、会場が別室へと移され、国内販売代理店各社の代表者による挨拶と、実機のお披露目、実機によるデモンストレーション、先行して実機を評価したユーザーによるライトニングトークが実施された。

3000Xシリーズと2000Xシリーズの国内販売代理店

特に興味深かったのは、先行ユーザーによるライトニングトークである。半導体回路設計ツール(動作合成ツール)の開発企業であるオーバートーンで取締役開発部長を務める井倉将美氏が、「DSOX3054A」の使用感を報告した。医療機器用のIPコア開発に活用したという。

まず、パルス数をカウントする作業では、「DSOX3054A」のパルスカウント機能を活用することで、従来は10分ほどかかっていた作業が数秒で済むようになった。それから長周期で発生する信号が高周波信号に重なっている部分を観測するときに、セグメントメモリ機能(波形メモリの分割機能)を活用することで、従来は30分~60分を要していた作業が、10秒程度で完了した。

ハイエンド品「MSOX3054A」によるデモンストレーション。シリアル・デコード機能を動作させているところ

オーバートーン株式会社で取締役開発部長を務める井倉将美氏が3000Xシリーズのハイエンド機「DSOX3054A」(アナログ4チャンネル入力機)の使用感を報告した

さらに評価が高かったのはマスク機能である。マスク機能は従来、ミッドレンジでも上位機種に装備されていた機能で、マスク機能を必要としているために高価な機種を選択せざるを得ないことがあったという。マスク機能がない場合は信号品質の確認に1日を費やしてしまうことが珍しくない。ところがマスク機能を有する「DSOX3054A」では、同じ作業がわずか1分ほどで完了する。

「DSOX3054A」を活用した結果、IPコア開発を短期間に完了し、本来の納期よりも1カ月も前倒しで顧客に納品したとする。また「DSOX3054A」は計算処理が非常に高速であり、操作していてストレスを感じないと評価していた。例えば平均化処理を実行させると、従来機種では波形が表示されるまで待たされることが少なくない。これが「DSOX3054A」ではほぼ瞬時に表示されると、称賛していた。

オーバートーン株式会社の概要

「DSOX3054A」を評価した結果のまとめ。丸1日を要していたマスク試験が、わずか1分ほどで完了した

3000Xシリーズはアナログ入力周波数帯域が100MHz/200MHz/500MHz、チャンネル数がアナログ2チャンネル/4チャンネル、デジタル16チャンネル(ロジック・アナライザ機能を装備した品種のみ)。性能や機能などの違いによって14品種がある。

2000Xシリーズはアナログ入力周波数帯域が70MHz/100MHz/200MHz、チャンネル数がアナログ2チャンネル/4チャンネル、デジタル8チャンネル(ロジック・アナライザ機能を装備した品種のみ)。性能や機能などの違いによって12品種がある。

3000Xシリーズと2000Xシリーズの主な性能

3000Xシリーズの品番と価格(税抜き)。数値は左から品番、アナログ帯域、アナログチャンネル数、デジタルチャンネル数、参考価格

2000Xシリーズの品番と価格(税抜き)。数値は左から品番、アナログ帯域、アナログチャンネル数、デジタルチャンネル数、参考価格

2000Xシリーズの本体裏面。外形寸法は幅380.6mm×高さ204.4mm×奥行き141.5mm、重量は3.85kg(3000Xシリーズと共通)