日本、そして世界においても定着した「Jホラー」という言葉が生まれたきっかけとも言える『リング』シリーズや『女優霊』などの作品で脚本を担当した脚本家 高橋洋。彼が満を持して脚本・監督したホラー映画『恐怖』のDVDが2010年12月22日にリリースされる。高橋洋が最新作『恐怖』で描きたかった新たな恐怖とは何か。

高橋洋

1959年生まれ。早稲田大学在学中から8mm作品を監督。『暗い部屋のロミオとジュリエット』(1977年)で脚本家デビュー。『女優霊』(1996年)、『リング』(1998年)、『リング2』(1999年)などの脚本を担当しJホラーブームの牽引役となる。他の脚本作品に『インフェルノ 蹂躙』(1997)、『蛇の道』(1998年)、『新生 トイレの花子さん』(1998年)、『リング0 バースデイ』(2000年)、『発狂する唇』(2000年)、『血を吸う宇宙』(2001年)、『おろち』(2008年)など多数。監督作品に『ソドムの市』(2004年)、『狂気の海』(2007年)などがる

原点に帰り『恐怖』を描く

――『女優霊』や『リング』の脚本を担当された高橋さんがホラー映画『恐怖』を監督したということで、Jホラーシアターの最後に真打登場という感もあります。

高橋洋(以下、高橋)「Jホラーシアター(※)には立ち上げの頃から関わっていて、元々6本のうちの1本を監督する予定だったのですが、『女優霊』と『リング』3本の脚本を書いて"怖い"と思うことはやりつくした感があったんです。清水崇監督が『呪怨』シリーズで新しい恐怖の流れも作ったし、それで良いと思っていたのですが、プロデューサーの一瀬さんから"『呪怨』の先にある恐怖が見たい"と言われ、挑戦することになりました」

●Jホラーシアター……映画プロデューサー 一瀬隆重によるホラー映画ブランド。高橋洋監督『恐怖』、清水崇監督『輪廻』、中田秀夫監督『怪談』、黒沢清監督『叫』、鶴田法男監督『予言』、落合正幸監督『感染』の6作品を送り出した。

――『呪怨』のさらに先にある新しい恐怖というと、かなりハードルが高いですね。

高橋「そうですね。これまでの先の新しい恐怖を見せるには、一度難しい事にチャレンジしなければならないと思い『恐怖』ではそれにトライしました」

――小中理論(※)でJホラーの新しい形が定義され『リング』が登場したあと、『呪怨』のような容赦のない霊の呪いというのがブームになりました。その流れの中で高橋さんは『発狂する唇』、『血を吸う宇宙』、『狂気の海』などで、あえて恐怖の域を超えて、笑いにたどり着きました。そんな高橋さんが『恐怖』でやろうとした恐怖表現はどのようなものだったのでしょうか?

●小中理論……脚本家の小中千昭氏が自作品の中で実践したといわれる、幽霊に関する様々な映像表現のルール。これを中田秀夫監督、高橋洋監督、黒沢清監督などが参考にして、Jホラーを進化させてきたといわれている。

高橋「自分の原点に帰るということでもありますね。自分にとって何が怖いのか、『女優霊』や『リング』のもっと以前からある恐怖を表現しようとしました」

「この世界の向こう側がある」という恐怖

――高橋さんの根源的な恐怖ですか。

高橋「難しいですけど、この世界は、何か外側があるんじゃないかという認識が僕にはあって、それを『恐怖』では表現したかったんです。わかり易く言うとあの世なんですが、あの世が本当にあるかわからないし、"あの世です"といって三途の川を表象化しても既成の想像力の中に収まってしまう。それでは面白くない。でも、外側があるという感じは常にある。僕らが幽霊を見て、何者かわからないのに怯えるというのは、この世の物ではないと直感するからです。そういう"外側があるという感じ"が襲って来るというのをどのように表現するか、四苦八苦しました」

『恐怖』

古い16mmフィルムの中に出現した白い光を目撃した姉妹 みゆきとかおり。17年後、死の誘惑にとりつかれたみゆきは失踪する。みゆきの行方を追うかおりは、脳のシルビウス裂という部位を刺激する実験を繰り返す脳科学者の母親 悦子と再会するのだった

次のページでは高橋監督が映画における恐怖について語りつくす。