SAP共同CEOのBill McDermott氏。「よくあるシリコンバレーのM&Aではない」と宿敵Oracleとの違いをアピール

「業界に大きな変化が起こっている」「モバイルでわれわれはナンバー1になる」 - 独SAPは8月19日、先に買収を完了した米Sybase買収についてこう語った。この日、米ボストンと独フランクフルトで同時開催したプレス発表会で、SAPはSybase買収後の戦略や方向性を明らかにした。

SAPがSybase買収計画を発表したのは2010年5月12日、その後規制当局の承認を得て、7月30日に買収を完了した。金額は約58億ドル。同社が2008年に買収を完了した仏BusinessObjectsに次ぐ規模となる。

この日、ボストンではSAPの共同CEOのBill McDermott氏、CTOのVishal Sikka氏、SybaseのCEOであるJohn Chen氏が、フランクフルトではSAPの共同CEO、Jim Hagemann Snabe氏が登壇した。買収発表時から明らかにしていたように、Sybaseは今後も独立した企業として運営されロードマップも継続する。営業部隊も別だが、お互いの顧客にクロスセルも行うという。Sybase CEOのChen氏はSAPカンパニーSybaseの社長として続投し、SAPのボードメンバーに就任する。

Sybase CEOのJohn Chen氏。Sybaseは今後、SAPカンパニーとして独立して運営される

SAPは、Sybaseの買収はモビリティ、インメモリによるビジネス分析、エンタープライズ情報管理(EIM)という自社フォーカス分野を強化すると説明する。

この日、3分野の中で最もフォーカスしたのはモビリティだ。スマートフォンやiPadなどのタブレット登場により、モバイルはエンタープライズへと用途を拡大しつつある。「モバイルは新しいデスクトップだ」とMcDermott氏。Sybaseは「Unwired Platform」などのビジネス向けモバイルプラットフォームを持ち、SAPとは以前から提携関係にある。2社はこの提携に基づき、「Sybase Mobile Sales for SAP CRM」「Sybase Mobile Workflow for SAP Business Suite」などのアプリケーションを提供しており、買収により技術統合を進める。

具体的な計画としては、9カ月以内に2社技術を組み合わせ、ビジネス向けモバイルプラットフォームをリリースすることを発表した。「SAP NetWeaver」のモバイル技術、「SAP BusinessObjects Mobile」、SybaseのUnwired Platformを組み合わせた開発/実装プラットフォームとなり、オープン性、SAP Business Suiteへのアクセス、分析機能の統合などを特徴とする。「あらゆる端末がSAPを利用できるようになる」とSnabe氏は語る。顧客やパートナー企業は新しい機能を容易に開発できるという。これにあたり社内に新しいチームを立ち上げる準備を進めており、SDKも提供する。

SAP共同CEOのJim Hagemann Snabe氏は「ゲームの流れが変わる瞬間だ」とコメント

モバイルの重要性について語ったSnabe氏は、モバイルからアクセスできるだけでなく、位置情報などモバイルならではの特徴を生かした新しいイノベーションの可能性にも触れた。

インメモリ/ビジネス分析は、この日は大きなテーマとならなかったがSAPのビジョンである「On Demand, On Premise, On Device」で大きな役割を持つ。長期的に大きな差別化にしていく狙いがあると思われる。

この日明らかにした計画としては、SAPの持つインメモリコンピューティング技術とSybaseのデータ管理サーバを組み込むことだ。すでにSAP BusinessObjects BIはSybaseのカラムベースのデータベース「Sybase IQ 15.0」、リレーショナルデータベース「Sybase ASE 15.0」で認定されており、今後は財務サービス、小売などの業界向けに最適化した高性能ビジネス分析アプリケーションを提供するという。

SAP CTOのVishal Sikka氏

具体的な計画として発表されたのは以上だが、CTOのSikka氏はインメモリ技術の将来性に大きな期待を見せる。

現在エンタープライズの障害となっているのは「蓄積された膨大な量のデータをどうやって分析するか」とした上で、ハードウェアやネットワークキャパシティの進化により、業務アプリケーションやBIに接続できるようになった、と続ける。「それも、リアルタイムで、モバイルから」とSikka氏。「データにリアルタイムでアクセスし、リアルタイムで処理し、リアルタイムで分析結果を得られる。これにモバイルが加わることは大きなチャンスをもたらす。SAPとSybaseが合体することで、さらに大きくリードできる」(Sikka氏) - ここでは、SAPのオンデマンド「Business By Design」も含まれる。

EIMでは、Business Suite、BusinessObjects BI、BusinessObjects Data Services、SAP NetWeaver WarehouseなどのSAP製品をSybase ASE向けにポーティングし認定する。これにより、データ統合、マスターデータ管理、CEP(Complex Event Processing)、モデリングなどを含むEIMを提供するという。ポーティングは2011年半ばに完了の予定という。SAPはデータベースとして「MaxDB」を持つが、自社製品もSybase製品も継続する意向のようだ。

共同CEOのSnabe氏は、ライバルの米Oracleとの違いを示しながら、統合スタックではない点をアピールし、「複数のスタックを持つが異機種混在環境を実現する」と述べる。また、「モバイル端末とインメモリがエンタープライズを変える」と述べ、SAPの新しい方向性を再度強調した。

買収が完了した後、SAPが戦略を実行できるかどうかが注目される。

Snabe氏は「iPad」「iPhone」を取り出し、SAPにおけるモバイルの重要性をアピールした