SAPPHIRE Now 2010

業務アプリケーション最大手の独SAPが、オンデマンドに本腰を入れる。この市場は米Salesforce.comなどの新興ベンダが開拓した市場で、業務アプリケーション王者のSAPは自社より規模が小さい先行者の後を追うことになる。SAPが5月19日まで開催した「SAPPHIRE Now 2010」のラウンドテーブルやパネルから、オンデマンドの戦略とパートナーや顧客の声を集めた。

今年のSAPPHIREでSAPは「Business ByDesign 2.5」を発表、7月末に6カ国で一般提供を開始するとした。日本を含む世界市場での提供については、2011年以降としている。

だが、SAPがBusiess ByDesignを発表したのは2007年のこと。一般提供が大幅に遅れており、SAPのイメージにも打撃を与えた。

そうした経緯もあり、2月に新しい共同CEOが就任後、最初に意気込みを見せたのがオンデマンドだ。SAPPHIREでも、共同CEOのJim Hagermann Snabe氏は「(オンデマンドは)SAPの生まれ変わりにあたって礎石となる」「ナンバー1を目指す」と語っている。

Business ByDesignは、ビジネスに必要な機能を集めたスイート。顧客は自社ニーズに合わせて容易に利用できる。最新版ではマルチテナントを導入、顧客はマルチテナントかシングルテナントを選択できるようにするとしているが、価格など詳細はまだ公開されていない。

早期導入顧客の独Original 1はベンチャー企業。ITシステムを整えるにあたって、低コスト、透明性、拡張性を必須条件とした。「価格がよくわからないブラックボックスのようなITはいらない」とCFO兼管理ディレクターを務めるGerald Wenzel氏は説明する。また、アップグレードやメンテナンスなどの作業も回避したかった。そこでBusiness ByDesign導入を決めたという。まずはCRMの導入を決定、2月に実装作業を開始し、3月には運用に入った。まさに「プラグ&ラン」だったとWenzel氏は言う。今後、財務など他の機能に拡大する計画だ。

4Gチップベンダ仏Sequans Communicationsはベンチャーながら、米国、シンガポール、台湾、インド、中国、イスラエル、英国と世界各地に拠点を持つ。小規模企業だが、最初からフルスコープの高機能ソリューションを求めていた。社内開発は非現実的であり、オンデマンドソリューションを最初から決めていたようだ。2008年10月にスタート。段階的に世界の拠点でローンチしているという。

パートナーでは、システムインテグレーターの独Data 1の話を聞くことができた。同社で事業開発マネージャーを務めるMatthias Bender氏は、「われわれのポートフォリオで、中規模企業向けのERPとしてはBusiness ByDesignだけ」と、Business ByDesignを絶賛する。その理由は、「ディストリビューションモデル」「Business ByDesignの機能そのもの」の2つだ。

中規模企業は、完全なオンプレミスERPを導入するレベルではないにしても、人事、CRM、営業支援、財務とそれぞれの業務でアプリケーションを必要としている。Business ByDesignはエンドツーエンドでプロセスが統合されており、完全なソリューションとして顧客に薦められるとBender氏。SAPの中規模企業向けの「SAP Business One」の場合、少し手を加えようとすると追加のモジュールやライセンスが必要になる。「Business Oneは、中規模企業の中でも規模が大きい企業ならよいかもしれないが」と述べた。

Bender氏が顧客と話す中でBusiness ByDesignの課題と感じていることは"信頼"だ。デモを見た顧客の反応は上々で、SAPブランドなので関心を持つ企業は多いが、(オンデマンドを)完全に信頼してよいものかと躊躇しているという。だが、「SAPがBusiness ByDesignを大々的に宣伝しはじめた。これで市場のイメージは変わるだろう」とBender氏は期待を語った。

では、SAPの戦略はどうだろう? Business ByDesignの提供の後、SAPはどのような計画なのか?

SAP共同CEOのJim Snabe氏

SAPは今後、プラットフォーム・アズ・ア・サービス(PaaS)に拡大する戦略だ。2010年にSDKを提供し、開発者がSAPのプラットフォーム上で動くアプリケーションや拡張機能を開発できるようにするという。PaaSについて、SAPのSnabe氏は「SAPにとって大きなチャンス」と述べる。

「ビジネス運用のための土台として、ビジネスプロセス技術を含むプラットフォームを提供すると同時に、その上にエコシステムを構築するレイヤも提供する」とSnabe氏。特徴は、土台でプロセスの一貫性とデータの一貫性を確実にしている点だ。Business ByDesignは、堅牢なプラットフォームで、オンデマンド向けのモダンなインフラを持つ。この特徴はPaaS戦略で重要となる、とSnabe氏。パートナーに同じSOAアーキテクチャを提供することで、Business By Designのエクスペリエンスを強化する機能を開発できる。これにより、エコシステムを加速する。Snabe氏は、「次世代のオンデマンドプラットフォームになる」と語った。

SAPは6カ国で限定提供してきたBusiness ByDesignの顧客数を約100社としている。今後、どのぐらい巻き返すことができるか。結果によっては、業務ソフトウェア市場におけるSAPのポジションも変わってくるだろう。