デジタルハリウッドは、粟津順監督をゲストに迎え、映画『プランゼット』公開記念イベント「『進化する新時代特撮』映画公開までの道のり」を開催した。

学生時代から「ネガドン」まで

粟津順監督

粟津監督は1974年愛知県出身。愛知県立芸術大学大学院修士課程修了。VFXアーティストとして映画『ゴジラ×メカゴジラ』などの制作に携わる。独立後、2005年に発表した自主制作CG映画『惑星大怪獣ネガドン』でアルス・エレクトロニカのCGアニメーション部門優秀賞受賞など、国内外で高い評価を受ける。

まず、本講義では粟津監督の学生時代のCG作品『マガラ』前後編を上映。学生時代の作品であるにも関わらず、その完成度の高さに参加者は驚かされたことだろう。また粟津監督は、押井守監督の映画『アヴァロン』を見て、「映像全編にカラコレをかけて1カットずつ調整したという質感に驚きました」と語り、その後の自分の映像制作方法に大きな影響を与えたことを明かした。そして、粟津監督を一躍有名にしたのが自主制作CG映画『惑星大怪獣ネガドン』だ。「一人での作業だけに、モチベーションが下がりやすいんです。一番苦しかったのは7割方完成した頃。作品の全体像が想像できると作品への興味が急に薄れてきて…。やりたくないと思いつつも乗り切りました。よく専門学生時代の先生に悩みを聞いてもらいましたね」

CG作品『マガラ』

自主制作CG映画『惑星大怪獣ネガドン』

作品のポイントは"CGでありながら昭和を感じさせる質感"。これは、画像の輝度の変更、細かい汚しや傷やゴミ、グレイン、黄色味を加えるなどを行い、昭和30~40年代のフィルムの質感を出す「粟津フィルタ」によって作り出されている。「大学時代、日本画専攻だったこともあり、CGらしいCGが好きではなかったんです。プロダクションに務めていたときに、実写背景にCGキャラクターを合成する作業が多く、フィルム中心の思考だったこともあるかもしれません。CGの欠点を払拭してフィルムの質感を出し、さらに経年劣化した感触を加えられないかと1年以上試行錯誤して完成させました」

「After Effect」のカラコレを何パターンかテストし、レイヤー濃度を調整し、色相や彩度などのエフェクトごとにレイヤーを重ねながら調整を続けた。完成したCGを一括加工でき、それらしく見えるフィルタになるよう工夫したそう。「一味加えることでより作品が個性的になりますから、やはりレンダリング後の作業は大切だと思います」

映画『プランゼット』の制作と表現

そして、「粟津フィルタ」など、これまでの技術を進化させて完成させた作品が映画『プランゼット』。実際の制作は、コミックス・ウェーブ・フィルムス内に組まれたチームで行われた。「大人数の仕事は楽しいですね。仲間通しでの意見の違いなどもありましたが、克服する過程で絆が強くなりましたから。"監督"として大変だったのは作品のコントロール。外注含め100人程スタッフがいたのですが、イメージの伝達がうまくできず、常にデータをやり取りしながら確認していました。チームでの制作には、コミュニケーションが重要なことを再確認しました」

映画『プランゼット』

舞台は2053年、謎の生命体により壊滅状態となった地球。主人公・明嶋大志は、最後の反撃に出るべく計画された作戦「プランゼット」のロボット搭乗員として、妹・こよみを残し戦いに出る。激動の世界に生きる兄弟のドラマと、人類滅亡の危機を救う作戦を描く壮大なSF作品だ

制作ツールは「Autodesk 3ds Max」(一部Maya)と「AferEffect」。キャラクター制作においては「東洋系の人物なのでかわいく、かっこよく造形するのが大変」だったそう。顔は元々CG表現の難しい部位だけに、CGディレクターの宮原眞氏の苦労は相当なものだった。「写実的すぎず、アニメーション過ぎずという大変なオーダーをしていたので(笑)。私は細部より全体のバランスを重視して、常に客観的に見るようにしていました。また骨格表現が重要な作業をする場合は、デッサンなど最低限の解剖学的知識が必要だと思います。骨格はそう変わらないですから」

主人公・大志も、中性的な顔立ちなため、質感を表現するのが難しかったと語る。また衣装はあえて黒にし、他を明るい色にすることで逆強調を狙った。このような配色や陰影の重要性を知る際に、かつて学んだ日本画が役立っているそう。さらにアニメーションでは、キャラクターはモーションキャプチャ、それ以外は手付けとの使い分けがなされている。「モーションアクターが舞台役者の方だったので、イメージを伝えるために数回リハーサルを行いました。ロボットの動きで重視したのは気持ち良さ。アクションシーンが気持ちよくなければ意味がないので、リアルさよりも動きの緩急を重視してとオーダーしました」。そのほか、映像製作の際に注意したポイントとして「空間を描く時、手前と奥の距離感が正確に表現されないとCGは気持ち悪くなるんです。フルCGなので、少しでも気持ち悪さを払拭してスムーズに見てもらいたくて」と語った。

特撮好きの監督は、見る人の五感とアナログ感を大切にしながら最先端のCG映像を制作する。「自分はCGが好きだし、コツコツとCGを作り上げる場を見ながら現場で制作していきたい。今後もCG表現の可能性をもっと追求したい」。そう締めた粟津監督の、前作から大きく進化した最新作。ぜひ映画館の大画面で鑑賞してほしい。

映画「プランゼット」はテアトル新宿ほかで全国公開中。

(C)Jun Awazu/MEDIA FACTORY/CoMix Wave Films