ユビキタスは5月10日、都内で記者発表会を開催、2011年3月期の事業方針について説明を行った。今回の発表会は、2010年4月1日付けで社長に昇格した家高朋之氏(Photo01)の初のお披露目の場ともなった。

Photo01:同社代表取締役社長の家高朋之氏。前職は同社のCFOであった。ちなみにそれまで同社社長だった川内雅彦氏は、同日付で代表取締役会長に就任された

編集注:家高氏の高の字は正式には"くちだか"ではなく"はしごだか"となります

さてまず昨年度(2010年3月期)であるが、景気の悪化にも関わらず、売上高/経常利益共に過去最高の水準となった(Photo02)。これは同社が一般のソフトハウスなどと違い、ロイヤリティ収入を主要な収益源としていることに関係しており、今後もこの方向性を維持してゆくとしている。

Photo02:細かな部門別売り上げ比率などは、今週中に詳細な数字を公開予定ながら現時点ではまだ公開できないとの事

その同社収益源であるが、大別して3本の柱がある。現時点で最大の収益源となっているのが、Network Framework(NF)である。実際デジタルTVとかSTB、主要な家庭用ゲーム機などは何れもネットワーク対応となっている。ただ現状は単にネットワーク対応となっているだけで、同社の社名でもあるユビキタスネットワークを構成するほどには、まだ活発に使われていないのが現状でもある。そこで、より広範にNetwork Frameworkを広げるという意味で、ColdFireやH8S/V850といったMCUに対応した"Ubiquitous Network Framework Trial Pack"を4月22日に発表した。これにより、MCUのコネクティビティを高めるというニーズを掘り起こしたいという狙いのようだ。ただ後述するように海外展開を今後考える上では、このラインナップはやや日本向けに特化している嫌いはある。が、現時点では同社の主要顧客の殆どが国内であり、先ずは足元から固めてゆきたいとの事だった。

Photo03:具体的に言えばニンテンドーDSに同社のNetwork Frameworkが搭載されているとか

Photo04:同社はルネサス テクノロジ(現ルネサス エレクトロニクス)との協業実績もあり、そのあたりも関係しているのだろう

収益の新たな柱がDeviceSQL(DB)である(Photo05)。かつては携帯電話とか、昨年のET2009ではパイオニアのDJ機器への実装例などが紹介されていたが、最近ではデジカメ向けのニーズが非常に高まっているという。今年は引き続きこのデジカメ向けのシェア拡大に努め、売上高で2割程度まで持ってゆきたい、という見通しが語られた(Photo06)。

Photo05:今はまだ特定のメーカーのデジカメに全面的に採用される、というところまでは行っていないとか。なので、これからは採用機種を増やしてもらうとか、まだ未採用のメーカーにとりあえず1機種でもいいから採用してもらうなどの取り組みを続けるとの事

Photo06:ちなみにDeviceSQLは現状検索は高速だが、Insert/Update/Deleteはさほどでもないため、これの高速化を図るとか、開発時のコンパイル速度を4倍に引き上げるといった改良が行われているとの事

そして同社が3本目の柱として強く期待しているのが、昨年ET2009で発表したQuickBoot(QB)である。QuickBootそのものの説明は以前こちらで行ったので省くが、国内のみならず海外でも非常に引き合いが強く、特にSDK発表以降は非常に多くの関心をあつめているという。すでにQuickBoot関連については、引き合いが多すぎて開発陣の手が廻らなくなりつつあるという(Photo07)。といっても、急に開発部門の人数を増やす事もできないため、パートナー企業との協業を行うことを想定しているという(Photo08)。

Photo07:単に興味があるというだけではなく、具体的に「こういう案件で使えないか」といった引き合いが数多く寄せられているそうだ

Photo08:グラフはあくまでも概念図で、具体的な数値があるわけではないが、少品種で出荷量の多いデバイスは同社が直接サポートし、多品種のケースではパートナー企業にサポートをお願いするという形で負荷分散を図る形にしたいそうだ

この第一段が、本日(5月10日)発表されたAtmark Technoとの協業である(Photo09)。元々QuickBootはAtmark TechnoのArmadilloシリーズ上でデモが行われるなど、同社の製品には移植しやすい。そこでこれをリファレンスとすることで、Armadilloをそのまま使う顧客にはすぐにQuickBootが利用できるほか、両社共同でOESFなどを通じて標準化の取り組みを行うことも明らかにされた。

Photo09:当然この協業の中で、Atmark Technoが自社の顧客に対してQuickBootのインプリメントの支援や技術サポートなどを行ったりすることもありえるだろう

この標準化にちょっと絡むのが、QuickBootのNetWalkerへの実験的な移植である(Photo10)。Photo07にも少し出てくるが、今年はQuickBootを普及のための足固めの年と位置づけ、収益の柱になるのは来年以降を予定しているという。ただ、「今期中に量産製品の出荷を目指したい」(家高社長)ということで、単にArmadilloの上で動作するだけでなく、もう少し量産製品に近いものへの移植を行ってみた、というのが今回のデモである。リリースなどにはQuickBoot+Androidとあるが、実際にはQuickBoot+Ubuntuという構成で、パワーオン後2秒程度でアプリケーションが起動することが示された(Movie01)。

Photo10:ちなみにハードウェアはまったく市販のものをそのまま購入してきて、ユビキタスが独自にQuickBootをインプリメントしたものだとか。とりあえず3週間ほどでなんとか動くものは出来たが、まだドライバの最適化などが済んでいないそうである

これに関して同社開発部 開発担当部長の橋本健一氏によれば、移植そのものはそれほど難しくないが、通常のLinuxのドライバはSuspend/Resumeの際には電源がOffにならない(つまりレジスタの値が保持されている)事を想定して書かれたものが多く、QuickBootの様に完全に電源が落ちることを前提とした動作ではドライバが正常に動作しないため、これの対応が必要になるとか。今回のケースだと、NetwalkerのフレームバッファドライバとかUSBキーボードドライバがこれに相当しており、今回はとりあえずパッチをあててこれの対策を行っているようだが、逆に言えばこのあたりが最適化されるともっと起動時間は短くなる筈との事。先にAtmark Technoとの協業のなかで標準化の話が出たのもこのあたりが絡んでおり、現状のLinuxのドライバはこのあたりの改修が必要になるため、QuickBootに対応できるドライバの標準化を進めることで、インプリメントを容易にしたいということのようだ。

もう1つ、本日リリースが出たのがLG Electronicsとの協業(Photo11)である。これはLGが行っている'Collaborate & Innovate'という活動のパートナーとして同社が認定された(家高社長によれば「恐らく最初のパートナー」との事)そうで、今後LGの製品に、ユビキタスのソリューションが幅広く搭載される可能性が出てきているとの事だった。

Photo11:表現は「評価開始」であるが、事実上幾つかの製品への採用を前提としての、技術レベルの深い議論が行われているとか

同社は今後、今回紹介した3本の柱を育ててゆくと共に、新たな成長エンジンとなる4本目の収益源を模索しつつ、また日本国内だけではなく海外進出を考えてゆく、との方針が最後に示された。