Googleにとって"Doodle"とはどんなもの?

Googleが昨年から開催していた、小中学生を対象にしたホリデーロゴ(Doodle)のデザインコンテスト「Doodle 4 Google」。2月20日に行なわれた表彰式では、約6万8千点の応募作品の中から川島寛乃さんの『日本の祝日』がグランプリに選ばれた。コンテストの審査員を務めた同社ウェブマスターのデニス・ホワン氏と川島優志氏は、作品のレベルの高さに驚いたと話す。結果発表に先立ち、多くのDoodleをデザインしてきた両氏に話を伺う機会を得たので、改めて本コンテストの意義について聞いた。

Google シニアウェブマスター マネージャー デニス・ホワン氏(左)と同社 シニアウェブマスター・アジアパシフィックマネージャー 川島優志氏

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──Doodleの始まりについて教えてください

デニス 始まりは、1998年に(Google創業者の)ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンが「バーニングマンフェスティバル」というイベントに参加した際のことです。砂漠の真ん中で開催されたヒッピー的なイベントなのですが、Googleにはまだ社員が彼らしかいないので、参加中はサーバの管理者が不在になってしまう。そこで「自分たちはホリデー中」ということを示すロゴをGoogleのトップ画面に掲載したんです。それがDoodleの最初です。

Googleのトップページの登場した最初のホリデーロゴ

このロゴがユーザーに好評だったので、「これはいい」と続けることにしました。当時はサンクスギビングやハロウィンのときに、どこかで見つけてきた写真などをGoogleロゴに載せていました。そんな時期に私がインターンとして入社して、大学でアートコースを専攻していたことから、Doodleのデザインを任されるようになったんです。

──Googleにとって"Doodle"はどんな意味を持つのでしょうか

デニス Doodleを定義することは難しいのですが、ひとつは「ユーザーの立場で考える」というGoogleが大事にしていることを示す意味があると思います。Googleの考え方のコアには、ユーザーが本当に求めているものは何か? ということをデータをよく見て考えるというものがあります。ホリデーロゴも「ユーザーとつながっている感じ」を作りたいと考えてのもの。バレンタインデーだったり七五三だったり、ユーザーが祝日を祝うときに一緒に祝いたいと思っています。

もうひとつは、Googleという会社にユーモアを付け加える意味……かな。Googleという会社のイメージについては、「冷たい」というのは言い過ぎかもしれませんが、エンジニア集団でコンピュータのことばかり考えて……という印象を持っている人はたくさんいると思います。でも、ホリデーロゴを載せることで、人間らしさだったり、そこで働いているのは人間なんだと気付いてもらえるようになった。実際にそうした感想をもらったこともあります。

──会社のロゴに手を加えることに抵抗はありませんか

デニス コカ・コーラやスターバックス、マクドナルドなどの企業では、世界各国どこでも同じロゴを使っています。これはコーポレートアイデンティティをデザインするうえで大事なことです。デザイン界の常識ではロゴを守ることは大事なことであり、崩すことを厳しく禁じているケースがほとんどです。当然、Google社内でもホリデーロゴについては議論がありました。

ただ、Googleの文化には、「慣習に対して本当にそれが正しいのか意義を問う」「イノベーティブなことをやりたい」というものがあって、サーゲイやラリーも、(Doodleは)悪いことでもないし続けようと支持しました。その結果、今では「祝日なのにロゴが変わっていない」と指摘されるまでに(笑)。他の会社でも、企業ロゴやその周辺を変えてみるという動きが見られるようになりましたね。

──そうしたDoodleを子どもたちが描くことにどんな意義があるのでしょうか

デニス Doodle 4 Googleは2005年にテストケースとして英国で開催しました。PRやマーケティングの目的ではありません。当時すでに英国では大きなシェアを占めていましたし、どうすれば(Googleを使ってくれる)ユーザーコミュニティに対してリターンできるかを考えたのがきっかけです。

あくまでもアートのコンペティションであることを慎重に強調しました。子どもたちへの(Googleを浸透させる)マーケティングだと思われたくなかったからです。目的は、子どもたちに創造性を養ってもらうこと。Googleのような非常に多くの人が訪れるページのトップに作品が掲載される、ということをモチベーションにして、子どもたちが楽しんでアートに取り組めるようにしたい、と考えました。

このテストケースは成功でした。作品が選ばれた子どもたちはヒーローになれるし、オンラインでも多くのユーザーが投票に参加してくれた。それ以降、この方針に従って他国でも開催しています。

──日本で初めてDoodle 4 Googleを開催する運びとなった背景を教えてください

川島 これまで日本で開催しなかったのは、(検索分野における)マーケティングで勝つためにやっていると思われるのがイヤだったんです。Googleにとって日本は世界でも巨大なトラフィックを占めるのですが、実現に踏み切れなかった。でも、(Doodleの存在を知った)日本の子どもたちから、「自分たちもホリデーロゴを描きたい」という手紙や作品が届くようになってきた。描きたい! と思ってくれる子どもたちがいるなら、日本でもぜひ開催しようということになったんです。

(実際にスタートして)6万8千点という、関係者が驚くほどの作品数が集まりました。これだけ多くの子どもたちが作品を寄せてくれて、開催して本当によかったと思います。

──日本の子どもたちの作品はどんな印象ですか

デニス 正直に言うと、これまで14回開催してきた中で、もっとも印象的ですばらしい作品が集まっていました。最終審査に残った30人も、誰が一番になってもおかしくないクオリティ。その中から一枚を選ぶというのは……。ほかの国で審査にこんなに時間がかかったことはないんです。かなり疲れました(笑)

Doodle 4 Gogoleに寄せられた作品はこちらで確認できます。

作品からは子どもたちの日本への愛を感じました。フグやコイだったり、静岡の茶畑をイメージしたものだったり、他の国にくらべて回答が成熟しているという印象ですね。クリエイティビティというのは人から教わるものではなく、自分で感じて学んで獲得していくものだと思います。日本の子どもたちの作品を見て、非常に高いクリエイティビティを感じました。子どもたちも、考えて創造性を獲得していくことができたのではないでしょうか。

川島 他の国の子どもたちだと──好きな建物を描くなど──表面的でストレートな表現が多いんです。もちろん日本でもそうした作品は多いのですが、深いところに立ち入って、どうして日本が好きなのかと考える子どもも多い。たとえば、九州地区でダルマを描いた生徒は、ダルマそのものより、そこに込められた「七転び八起き」という日本人の心を描いたとコメントしてくれました。クリエイティビティや感性を評価したらいいのか、アートを評価したらいいのか、審査の力点をどこに置くのか非常に悩みましたね。

──Doodle 4 Googleの今後の展開について教えてください

デニス 米国だと、Doodle 4 Googleはニュースなどでも広く報道されていて、多くの人に認知されているイベントだと思います。また、Googleに作品が送られる前に、地区や学校によって代表選考会が開催されていて、その段階で非常に盛り上がっているんです。作品には世界中だれでもオンラインで投票することができるので、グローバルなイベントにしていきたいですね。日本の子どもたちみたいに上手に描かれるとジャッジが大変ですけど(笑)

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ホワン氏と川島氏は、多忙な日々を送る中、"20%プロジェクト"(業務時間の20%を自由に使える社内ルール)としてDoodleに関わっている。川島氏は、米国人以外では初のDoodleデザイナーであり、Google日本版に掲載されるDoodleはすべて彼の手によるものだ。ホワン氏は、日本でDoodleを浸透させた川島氏の功績を高く評価する。Doodle制作の苦労について川島氏はこう話す。

「ホリデーロゴは一発勝負。ユーザーがGoogleのページでそのロゴを目にするのは一生でその日だけです。アート作品には徐々に味わいが理解できるものがありますが、ホリデーロゴは見た瞬間に『いいな』と思ってもわらないといけないので大変に難しい。どれだけシンプルにストレートに伝えるかということに非常に神経を使っています。テーマを選ぶ際にも、ユーザーに親近感を持ってもらえるかを気にしますね」。

テーマ選びのリサーチにはデザイン作業よりも多くの時間を費やすという。Doodleは、日付が変われば元の姿に戻ってしまうし、文化的な背景に考慮して掲載地域が限定されるものもある。Doodleに出会う機会は多くはないが、その一期一会がGoogleに対する印象を変えてきた。プロフェッショナルたちの地道な作業によって生み出されたDoodleにも興味がある方は、各国のDoodleをまとめたギャラリーも訪れてみてほしい。