日本のソフトウェア開発者、とりわけ.NET開発者にとって使いやすい"帳票ツール"はどれか。この観点で商用製品を選ぶときに、おそらく最初に名前が挙がるのがグレープシティの「ActiveReports」である。

.NETネイティブなコンポーネントとして提供されている同製品は、.NETのスキルさえあれば使いこなすことが可能。Visual Studioを使って開発を進められるうえ、特別な使い方を学んだり、独自スクリプトの書き方を習得したりする必要がない。

八巻雄哉――2003年グレープシティ入社。Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev Jan 2009 - Dec 2009。PowerToolsシリーズのテクニカル・サポートを担当する傍ら、製品開発やマーケティングにも従事。現在は、WPF/SilverlightとPowerToolsシリーズ普及のためにエバンジェリストとして活動中。

また、専用のデザイナも用意されており、細かい調整をビジュアルに行える。デザイン情報をスタイルとして管理できるなど、開発作業をサポートする機能も豊富だ。もちろん、各種バーコードの組み込みや、多様な形式(PDF / Excel / HTML / RTF / TEXT / TIFF)のファイル出力もサポートしている。

そして、何より大きいのが、日本の帳票文化に対応した機能を多数搭載している点である。顧客のこだわりもスムーズに取り込める"行き届いた"機能の数々が、ActiveReportsの最大の特長であり、販売/開発を手掛けるグレープシティが最も力を入れてきた部分だ。

元々、米国企業のData Dynamicsによって開発されたActiveReports。「それが今日のかたちになるまでには、いろいろなことがあった」と、グレープシティ ツール事業部 テクニカルエバンジェリストの八巻雄哉氏は振り返る。その内容は、一般のシステム開発案件にも役立つものであり、かつさまざまな場面に応用できるTIPSが多く詰め込まれているので、ここでご紹介していこう。

※ 現在は、Data Dynamicsから買収し、グレープシティが開発から販売まですべてを手掛けている。

方眼紙のように使うExcelに「クレイジー!」

以前、梅田弘之氏のインタビューでも触れたが、日本ほど文書に罫線を引きたがる国はほかにないという。

そのため、米国製コンポーネントであるActiveReportsを国内で販売するにあたっては罫線機能の強化が不可欠。Data Dynamicsに協力を要請したが、「なぜ、自由度の高い罫線機能を付ける必要があるのかを理解してもらうのは大変だった」と八巻氏は言う。

「例えば、日本の開発現場には、Microsoft Office Excelのセル幅を小さく設定して、方眼紙のような感覚で使っているところもありますよね。確かに、縦横へ自由に罫線を引けて見やすいドキュメントになるのですが、米国人にそのことを話すと、大方、クレイジーという反応が返ってきます(笑)」

米国では、レポートが主な文書形式であり、そこに罫線を引くケースはあまり見られない。特に「上下方向の罫線は滅多に使用しない」(八巻氏)という。それに対し、日本人はあちらこちらに罫線を引いて境界を作るのを好む。その結果、表計算ソフトのExcelをイレギュラーなかたちで応用するまでになったようだ。

このあたりの感覚を理解できない米国人開発者に日本向けの機能追加を依頼しても、うまくいかないことが多かったという。そこで、グレープシティでは、日本文化に対応した機能をグレープシティ側で開発させてもらえるようData Dynamicsと交渉。承諾を得て、ActiveReportsの"日本化"を進めていった。

グレープシティが開発した"日本化"機能としては「外字対応」や「QRコード」などが該当する。それぞれの機能が搭載されるまでには特別なエピソードがあり、その詳細が『ジャーナルITサミット~2009帳票開発』で語られる予定なので、興味のある方はぜひ参加してほしい。

バグフィクスにはユーザーも協力!?

以上のような文書形式もさることながら、米国と日本の間には、「商用ソフトウェアの利用姿勢という点でも非常に大きな文化の違いが見られる」(八巻氏)という。

日本のユーザーは、ベンダーに対して完璧な品質を求める傾向にある。「お金を出して買うのだから、バグなどなくて当然だ」という意識の人がほとんどのようだ。

一方、米国は品質に対して非常におおらか。たとえ商用製品であっても、「バグは修正してもらえばよい」と考える人が多く、「不具合を報告できる手段があって、それに対応してくれる体制が整っていれば良い」という風潮があるようだ。

「米国のユーザーは、一緒に製品を良くしていこうという意識が強いのかもしれません。そのことが"ユーザーコミュニティ"が盛んな理由の1つでもあると思います。そのため、日本と米国ではベンダー側の対応も大きく違っていますね」(八巻氏)

例えば、日本のベンダーは新しいOSがリリースされると敏感に反応し、動作確認テストを実施して、問題がなければ対応環境に記載する。しかし、米国のベンダーは「問題があったならば直すよ」という姿勢で、動作を保証するケースはほとんどない。事前に問い合わせを受けても「何か不具合があったわけでもないのに、なぜそんなことを聞くんだ」とさえ思うのだという。

「そのような雰囲気の中で作られた製品をそのまま日本で販売するわけにはいかないため、グレープシティでは独自の観点で一からテストを実施しなおし、日本のユーザーに満足してもらえる品質を確保していました」(八巻氏)

こうした日米の違いについて、八巻氏は「一概にどちらが良いとも言えない」と前置きしたうえで、「厳しいユーザーによって育まれた"品質を追い求める姿勢"は日本の大きな強みになる」と語る。事実、グレープシティが手を入れたActiveReportsは海外のユーザーにも評判が良いという。

*  *  *

ActiveReportsには、そのほかにも、タイムスタンプや電子署名に対応した、専用ツールにも劣らないPDF生成機能など、さまざまな特徴があり、それぞれに日本のユーザーに対する想いが込められている。『ジャーナルITサミット~2009帳票開発』では、本稿で触れたトピックスも含め、そうした想いにまつわる興味深いエピソードが多数披露される予定なので、ぜひ足を運んでほしい。