Amazon EC2は遅いのか?

Amazon EC2は海外で提供されているサービスだけに、速度面を気にする方は多いと思います。経験上で言えば、それほど気にしても仕方がない、というところです。実測値で言えば若干遅いと言えます。ただ、Googleのような世界的な人気を持つサービスなら別ですが、自分が提供するサービスのユーザはコンマ5秒の遅れをどれほど気にするのか──を考慮する必要があると考えています(速いに越したことはなくても費用の問題が……)。日本のVPS業者でも、国外でサーバを管理・運用するケースはあります。

どれほどの速度が必要になるかは、Webサービスの内容によっても変わるでしょう。たとえば、リアルタイムコラボレーションが必要なサービスと、即時更新ではなくバッチで処理するシステムとでは求める速度は変わってくるはずです。さらに速度の改善については、キャッシュを使ってデータベースへのアクセスを減らす、静的なファイルを別サーバに設置して接続を並行処理する、といった工夫でもカバーすることは可能でしょう。

ただ、HTTPアクセスについては上記のように解決手段があると思いますが、サーバをメンテナンスするSSH接続については、はっきりと分かるくらい遅いのが実情です。これはサーバの負荷が高まった時に特にイライラさせられるかもしれません。

SSHでの接続は遅いと感じられるかもしれない

安定性と柔軟な構成

Amazon EC2に切り替えて以来、過度の負荷でサーバが重たくなる事態は数回発生しましたが、SSHで接続できないほどの事態に至ったことはありません。インスタンスを立ち上げてから1年半以上、一度も落とさずに運用できています。これはSmall Instanceの状態のままです。管理者としては、サーバの応答がない、ハードウェア故障で接続不能になるかもしれない……という精神的な不安がないだけでも、Amazon EC2は有意義だと感じています。この安定性を考えても、料金的に高いと感じたことはありません。

筆者は現在、MOONGIFT向けのインスタンスを含め、合計4つのインスタンスを運用しています。これらは継続的な運用のほか、一時的なプロジェクトサイトとして立ち上げているインスタンスもあります。この場合、プロジェクトの開始とともに立ち上げて、プロジェクトの終了とともにインスタンスを消去します。こうした処理が、月単位ではなく時間単位でできるのがAmazon EC2の魅力です。

複数のサーバによる組み合わせを手軽に構築できる点にもメリットを感じています。初期段階ではサーバ1台でも、負荷の増加にともないデータベースサーバを別に設けたり、Webサーバを並列化する必要性が生じることがあります。ただ、そうした事態を想定して、初期段階から多重構成にするのは過剰品質とも言えるでしょう。Amazon EC2の場合は、必要に迫られてから構成を変えるという柔軟な対応が可能になります。

継続的な開発姿勢も魅力

管理面では、従来ターミナルでの操作しか受け付けていなかったものが、今はWebベースの管理画面も提供されるようになりました。機能改善という点では、IPアドレスを指定するオプションやMapReduce環境、VPC(Virtual Private Cloud)などの新機能が次々と追加されています。つい最近では、MySQLと同等のリレーショナルデータベース環境を提供する、「Amazon Relational Database Service」(Amazon RDS)も開始されました。そうした継続的な開発姿勢がAmazon EC2をさらに魅力的なものにしていると感じられる点です。

Elastic Block Store(ストレージサービス)/ Elastic IP Address(固定IPアドレス割当)/ CloudWatch(監視サービス)など様々なオプションが提供されている

Webブラウザベースの管理コンソール

デメリットと言えば……英語?

大きなデメリットを感じたことはありませんが、日常的にはSSHでの接続が遅いということが問題になるかもしれません。とくに定期的な操作が発生する場合はストレスになりそうです。また、インスタンスに問題が発生した場合、Amazonのサポート言語が英語という点もネックかもしれません。Amazonのサポートからのメールには、適切な対応(メールの文面含め)が求められるので注意が必要です。

Amazon EC2が向く場合、向かない場合

Amazon EC2の利用は良くも悪くも自己責任になるかと思います。フレキシブルなシステム構築を可能にする一方、誤ってインスタンスを消してしまえば全データが消失する可能性もあります。企業によっては、クレジットカードのみという決済手段は受け入れにくいことがあるでしょうし、ビジネス上の信頼性としてSLAが99.95%という点に物足りなさを感じるかもしれません。サポートは英語が基本で、より手厚いサポートを求めるなら別料金の「Premium Support」への申し込みが必要。ある程度の技術的な解決手段を持たずにAmazon EC2を利用するのはオススメできません。料金が定額制ではなく、転送量などによって変動するため、コストが算出しづらいという難点もあります。

逆にスタートアップの企業であれば、自己責任の範囲で利用できること、初期コストをかけずに運用が開始できること、必要に応じてシステム構成を変更できるといったメリットが感じられます。一般の企業であっても、プロジェクトチームや新規事業を進める上では利用できそうです。

まとめ

Amazon EC2には、導入しやすい、または導入しづらいケースがあります。誰にとってもオススメのサービスというわけではありません。何より利用者の自己責任となっては躊躇してしまうケースも多いかと思います。開発を担当するSIerにとってはあまり使いたいと思わないかもしれません。とはいえ、一度この自由さに慣れてしまうと他には戻り難いサービスでもあります。

Amazon EC2を常時運用するのであれば、VPSや専用サーバを利用しているのと変わらないという意見もありますが、一時的な運用と定常運用の両方が可能と考えられるでしょう。MOONGIFTでは今後もAmazon EC2をメインのサーバ環境として利用していくことになると思っています。

日本でもいくつかクラウドを冠するサービスが出ていますが、それでもAmazon EC2に比べると……と思えてしまうサービスが多いという印象です。クラウドの先駆者としてのサービスをぜひAmazon EC2を体感し、その可能性を肌身で感じてみませんか。

著者プロフィール:MOONGIFT 中津川 篤司(なかつがわ あつし)

1978年生まれ。オープンソース紹介サイト「MOONGIFT」管理人。プログラマ、SE、ITマネージャを経て、オープンソースのビジネス活用を推進する。現在は独立し、Webサービスのコンサルティング、プロデュースを行う。