最先端の映像世界を生み出すRED ONEとは

テッド・シュロビッツ氏。AJA Video Systemにおいて初のMac OS X向けHD/SDビデオキャプチャーカードの開発や、AppleとのFirewire上での10ビット非圧縮ビデオ・音声ソリューションの共同開発などを手がけてきた

「RED ONE」。いまやこの名前にピンとこない映像クリエイターはいないだろう。Red Digital Cinmeaの「RED ONE4Kカメラシステム(以下、RED ONE)」をはじめとする超高解像度テープレスワークフローのためのカメラシステムは、2006年の同社設立以来、映画、放送業界を中心に、映像に関わる企業やプロフェッショナルの間で導入が進んでおり、全世界で数千台、日本では100台以上が導入されている。いまやRED ONEは映像クリエターにとって、もっともクールな選択肢のツールのひとつといえる。

6月10日、来日した同社のテッド・シュロビッツ氏が幕張メッセで開催された「Interop Media Convergence Tokyo 2009(IMC Tokyo 2009)」において講演を行ない、RED ONEを使った最新の導入事例を披露した。

「デジタルシネマワークフローサミット」コーナーで展示されたRED ONE。映像業界関係者はもちろんだが、同時開催のInteropに来ていたクリエイターも興味を示していた

RED ONEを使用して製作された映像の数々

まず、映画の分野ではすでにRED ONEを使って撮影した作品が公開されている。スティーヴン・ソダーバーグ監督の『チェ 28歳の革命』、『チェ 39歳 別れの手紙』やヘイデン・クリステンセン主演の『ジャンパー』。今後、公開になる作品では、ニコラ・スケイジ主演のSF映画『Knowing』、デンゼル・ワシントンの最新作『Book of Eli』、スティーヴン・ソダーバーグ監督の次回作である『GirlFriend Experience』などがある。

これらはほんの一部で、シュロビッツ氏曰く「1,000本以上の映画がREDを使って撮られていて、今回の講演で紹介しきれない」との事。テレビドラマでもRED ONEの導入が進んでいる。例えば、15年間フィルムで撮影されてきた人気ドラマ『ER』は昨年からRED ONEでの撮影に切り替えられた。子どもたちに人気の『Power Ranger』もRED ONEで撮影されている。これらの映像は同社ウェブサイトで確認できる。

ナイキやコカ・コーラなど、CMの世界でもRED ONEはどんどん使われている。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のデヴィッド・フィンチャー監督は、NFLをテーマにしたナイキのスポーツCMをRED ONEで撮影。このCMは2人の選手が赤ちゃんとして別々にこの世に生を受けてから、おとなになってNFLのピッチで激突するまでを1分間で見せるショートストーリー。ここに登場する赤ちゃんはCGで描かれていて、観客スタンドがグリーンスクリーンなしのCGで合成されている。ここで重要なのはCGが優れているという部分ではなく、RED ONEとCGの親和性だろう。シュロピッチ氏は、「特殊な映像部分のみなど、撮影の一部分を RED ONEを使用しているケースも多い。35ミリ映像とRED ONEを混合しても誰も気付かない。これは面白いことです」と語った。

西華産業ブースで紹介されていたRED ONEを2台使った4K+3Dシステム

日本を含むアジア地域において、Red Digital Cinema社製品のテクニカルサポートを正式に担当することになった西華産業は、IMC Tokyoで行なわれた「デジタルシネマワークフローサミット」コーナーに出展し、RED ONEを2台使用した4K+3Dシステムを出展していた。このRED ONEを使った4K+3Dシステムを使って、現在、国内において劇場版『侍戦隊シンケンジャー』の撮影が行なわれているとのことだ。

RED ONEの急速普及の理由とは

なぜ、これほどの短期間にRED ONEが映像業界の中心に躍り出てきたのか? いわゆる映画撮影に用いるシネマカメラは本体だけで1台2,000万円近い大変高価なものもあり、気軽に購入できるものではない。そのため多くの映像制作会社はレンタルを活用し、綿密な撮影スケジュールを立てて効率よく撮影を行なわなければならない。ところがこのRED SYSTEMは本体が1万7,500ドル(日本円にして200万円以下)、レンズも5,000ドル程度からという大変リーズナブルな価格に設定されている。レンズは業務用として普及しているPLマウントが採用されており、レンズ資産があればそのまま流用できる。

RED ONEは1万7,500ドルという驚異的な低価格。他の映画撮影用カメラと比較すると、一桁違うと言う事になる

だからといって、RED ONEが他のカメラシステムと比較して、性能が劣るというわけではない。RED ONEには、スーパー35mmサイズの12メガピクセルのCMOSセンサーが搭載されている。つまり、フルサイズCCDを搭載したビデオカメラというわけだ。RED ONEの記録フォーマットは、REDCODEと呼ばれる超高解像度フォーマットで、4520×2540ピクセルのRAWで記録するというもの。誤解を恐れずに言えば、デジカメ的発想のビデオカメラと言える。 シュロビッツ氏は「RED ONEはビデオカメラではありません。スチルではなく、動画でRAWファイルを撮る事ができる、映画が撮れるモーションピクチャーのシステムです。ファッションフォトでも、映画でも、両方に対して使う事ができます」としている。RED ONEは12メガピクセルのカメラなので、そのまま雑誌の撮影にも使える。これからのスチル撮影も、RED ONEで動画を撮影して、RAWで読み込んで、静止画としてショットを切り出して使う、と言う事が当たり前のように行なわれるだろう。シュロビッツ氏は「すでに映画スター雑誌のグラビアではRED ONEの映像をそのまま使っています」とも語った。

これがRED ONEの試作機。この木箱の中に現在、RED ONEに搭載されているものと同じものが入っていたとは俄には信じ難い

今後、同社では、このRED ONEに加え、さらなるハイスペックなシステムとして3K、5K、6K、9Kに対応する『THE DSMC(Dirital Stills and Motion Camera)SYSTEM』、EPIC(エピック)とSCARLET(スカーレット)を準備している。

現在、開発中のカメラの試作機を手に熱心に説明するシュロビッツ氏

4K映像をリアルタイムで再生するデモも披露された。残念ながら会場のプロジェクターは2Kだったそうだが、それでもそのクオリティは伝わった

28Kという超ワイドのパノラマ映像が撮影できるカメラも開発している