三菱総合研究所 情報技術研究センター 主任研究員 谷田部智之氏

特定非営利活動法人オープンソース・ソフトウェア協会(OSSAJ)は、5月28日、東京・代々木の代々木ビジネスセンターで、ビジネスセミナー「自治体のITとOSS」を開催した。

セミナーには約50人が参加。三菱総合研究所 情報技術研究センター 主任研究員 谷田部智之氏が、「電子政府・自治体市場に浸透するOSS」をテーマに基調講演を行ったほか、社団法人IT記者会 代表幹事 佃均氏が「組織としての機能、機能としての組織の将来像」をテーマに、また、千葉県市川市CIO情報政策監である井堀幹夫氏が「市川市におけるオープンソースソフトウェアの活用について」をテーマに、それぞれ講演した。

谷田部氏は基調講演で、経済産業省や総務省を中心とした政府、および地方自治体がOSSの採用に力を入れている理由として、利用しているソフトが米国に対して輸入超過状態であり、少しでも輸入金額を削減するための改善策としての採用、OSSをベースにした開発により国内のSIerおよびソフトウェアベンダの国際的な競争力を向上させる狙いからといった要素をまず挙げた。そして、経産省や情報処理振興機構(IPA)がOSSを活用した民間企業のソフト開発の促進策を実施していること、自治体の情報システム開発の支援体制を取っていること、さらに、ベンダロックイン状態になっており情報システムに関わるコストの透明化や削減が求められていること、などからOSSによるオープンな標準を採用するといった動きが加速している事情を説明し、「日本がOSSの採用に積極的であるのに対して、米国ではMicrosoftやOracleといった市場の大部分を占める商用ソフトベンダがあるために、政府は直接的にはOSSに力を入れていない。だが、OSS関連ビジネスや開発支援をする企業が多いという傾向がある」と総括する。

日本政府におけるOSS関連施策

政府から発行されているOSSに関連するガイドライン

また、国内でOSSを導入した自治体の事例紹介が少ないのは、自治体にとっては業務機能を満たしたものを導入したに過ぎず、何を実装しているかについてはあまり意識がないことが理由とする。「事例が少ないわけではなく、むしろすべての自治体において、なんらかのシステムにOSSが利用されている」とコメント。会津若松市での庁内850台を対象にしたOpenOfice.orgの導入、上尾市や鳩ヶ谷市、大野城市ではLinuxによる住民税の基幹システムを稼働したこと、長崎県がLinux、Apache、MySQL、PHP(LAMP)によって開発したWebベースの電子県庁システムを、徳島県、和歌山県でも導入することが決定した事例などを紹介した。中央省庁でも、6割以上のシステムになんらかのOSSが利用されているという。「電子政府や電子自治体においては、基本ソフトウェアやWebサーバといった実績が多い部分にOSSを採用し、これに商用のアプリケーションやデータベースを組み合わせて導入するケースが主流である」とした。

経済産業省の電子政府におけるOSS政策

総務省の電子政府におけるOSS政策

電子自治体におけるOSS採用パターン

一方、三菱総合研究所が協力して実施したIPAの調査結果を紹介。OSSという言葉を知っており、内容を理解している都道府県/自治体が6割を超えていること、OSSを全庁基盤関連システムへ導入する期待が高まっていること、OSSを採用するメリットとして、特定の事業者や製品からの脱却をあげる団体が80%を超え、中長期的な費用の削減、初期費用の削減を期待する回答が多かったことのほか、システム間連携や最適化、地元ベンダや中小ベンダの参入機会の増加をあげる例も多かった。また、デメリットとしては、調達仕様書を作成するスキルおよびノウハウが不足しているとした回答が3分の2を占めたこと、対応できるベンダが少ないという回答が多かったことを示した。「ITガバナンスレベルが高い自治体ほど、オープン化レベルも高いが、その一方で、ITガバナンスが同等の自治体でもオープン化への取り組みには大きな差がある」と同氏は分析する。

OSSの調達によるメリット

OSSの調達によるデメリット

そのほか、海外における電子政府へのOSS採用の動きにも言及。「欧州においては、コスト削減、相互運用性確保という点でもOSSが最適とされており、とくに先進国であるドイツは、OSS導入の議論よりも、どのようにOSSを導入するかが現在の焦点となっている」としたほか、中国では政府主導で開発しているRed Flag Linux、韓国のAsianuxの取り組みなどについても紹介した。

最後に谷田部氏は、「自治体においても、民間のシステム同様に基幹系システムへのOSS採用が進むと考えられるが、アプリケーション部分には商用製品が採用されるケースが増えるだろう。今後は、OSSというだけでは採用条件にはなりにくく、商用製品と比較して、開発コストおよび運用コストの削減、相互接続/相互運用性などの観点で優位性を示す必要がある」とした。