NTTレゾナント 技術マーケティング部 藤代裕之氏

ネットの未来について若手研究者や経営者が語る「gooラボ ネットの未来カンファレンス」(主催:NTTレゾナント/運営:アジャイルメディア・ネットワーク)が先月29日、日石横浜ホール(神奈川県・横浜市)で開催された。メインセッションとなる「ネットの未来放談・大喜利」。司会を務めた藤代裕之氏(NTTレゾナント)の「筋書きはまったくございません」との言葉どおり、チームラボ・猪子寿之氏、Cerevo・岩佐琢磨氏、マイクロソフト・楠正憲氏、勉強会コミュニティ GnZ・森正弥氏(楽天技術研究所代表)という濃いパネリストからはさまざまな話題が飛び出した。

メインセッションのお題目「ネットの未来はどうなっていくのか」。各パネリストがネットの将来像について語り合う中で、「グローバル化する社会での必要なスキル」「コミュニケーション能力」「日本に育つことの重要性」などへの言及があった。"勢いあまった"話でもあったが、興味深いやりとりでもあった。一部を抜粋してお届けしよう。

チームラボ 代表取締役社長 猪子寿之氏。「ネット以外のものが、もっとネットっぽくなったほうがいい。たとえば、組織構造とか」

Cerevo 代表取締役 岩佐琢磨氏。「ブラウザ×ネットじゃないところが次は熱い。PC×ネットじゃないところにおもしろい企業が出てくる」

マイクロソフト 技術統括室 CTO補佐 楠正憲氏。「人間というのはあまり変わらないので、"たぶん再来年はこうなる"という特集記事を読むより、古典でも読んだほうがわかるんじゃないか」

勉強会コミュニティ GnZ代表 森正弥氏。「ネットで働く我々の未来、働き方の未来が最大の関心事。無意識のうちにグローバル化する」

(以下、敬称略)

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 ネットの未来というよりも、ネットで働く我々の未来、働き方の未来が最大の関心事です。今後どうなるかというと、無意識のうちにグローバル化してしまう。最近、自分のまわりで色々な人と仕事しますが、国境が関係なくなっていると感じています。仕事で「これができるエンジニアはいないか」と探したら、ウクライナにエンジニアがいた。不安もあったがちゃんと納品もされた。今はインフラとか色々な環境が整っていて、英語や文化とか契約の問題を突破できれば、世界中のノウハウを持っている人とビジネスができるというところにまで来ている。ネットの未来の働き方は大きく変わってくると思う。そこで、どういうスキルを身につけるのがいいのか。昔は、英語とIT基本知識、会計の知識とも言われていたが、最近はそうではないんじゃないかと感じています。

 仕事の幅が広がってきたとき、全部を自分が勉強できるかというと、コモディティ化されていない能力ほど勉強する機会がないんです。資格制度になっていたり、教科書になっていたりするものは、お金さえ出せば人材を確保できる。(IT業界が)ドッグイヤー、マウスイヤーになっていく中で、「模索しながらやりとげる能力」や「できるかもしれない人を見つけてリスクヘッジする能力」は必要だと思う。

猪子 英語なんてまったく必要ないと思う。会計なんてやっても売り上げは上がらないし(笑)。専門性が大事。現在は専門分野がさらに細分化されていて、そういう専門性は獲得するのは大変。コミュニケーション能力もいらない。

岩佐 同感です。「コミュニケーション能力がいらない」というのは言い過ぎですけど、「ビジネスマンといえばコミュニケーション能力だ」という話がよく出ていたじゃないですか。でも、いわゆるネットの発達とか、PCを含めてコミュニケーション手段とか色々なものが増えていくことで(コミュニケーション能力を重視する傾向は)薄まっていくと思う。

猪子 むしろないほうがいい。コミュニケーションってエンターテインメントだから、その能力が高いと楽しい。だから新しいコミュニケーションのほうに行かないんです。コミュケーション能力が低い人のほうが新しいコミュニケーションのほうに行く。たとえば、コミュニケーション能力が高いと、女子大生とも共通の興味がなくても話せるわけ。それは楽しいことです。でも、コミュニケーション能力が低い人は、女子大生と話すことができないから、自分のすごく詳しい分野をブログなんかに書く。そうすると、自分が本当に詳しい分野に対して本当に理解してくれる人が集まってくる。いい人材もいいユーザーも集まる。進化論と一緒で、"前のコミュ二ケーション能力"が高い人は進化できない。(前時代的な)コミュニケーション能力の低い人のほうが有利になってくる。コミュニケーション能力の低い人が勝つんですよ。

──ここで、「2022年、インターネット法やエコ推進法などによりネットを取り巻く環境は大きく変化した。年老いたビル・ゲイツは孫に向かってなんと言ったか」というお題で大喜利。その中で猪子氏の回答「体で感じろ」の解釈を巡って盛り上がった。技術力、専門性を重要とする猪子氏だが、一方で「文化」を感じることが大事だという。

猪子 専門性は持ったほうがいい。でも、技術は客観的なものなので、いずれ先進国の優位性はまったくなくなると思っている。そのとき先進国の優位性と言えるものは「文化」のみ。文化は客観的に計れないから、優劣がつきにくい。だから、先に豊かだったほうが優位。「ただ先に豊かだった」という理由で。これからは文化のみが優位性になってくると思う。体で感じることのほうが重要になる。

 いまの話はとても重要だと思う。たとえば、NFSサーバを限界までチューニングして速く動かすとか、全然違うコードで互換性のあるプログラムを書くとか、そういう部分はインドに出せるけど、ユーザインタフェース(の開発)は発注できない。プランニングは、消費市場がある中国には出せるけど、自国内にマーケットがなくて、そういうものがある生活が想像できないインドではやれない。若いときに豊かな国にいたら、そこで体で感じられることをちゃんと感じておくことは大事。

岩佐 PCやそれ以外のデバイスが進化していくと、どこの国にいても同じ体験ができるという話にはなりませんか?

 (猪子氏も口をそろえて)ならない。いま地球上でPCを使っているのは、60億人のうち、たったの10億人。たとえば、インドにおけるコンピュータ・サイエンス(CS)の位置づけは、CSをやっていればカーストを超えられるし、運がよければアメリカに行けるということで死ぬほど勉強しているわけです。いまパソコンを持てる環境にない人たちが、10年後に、脳に電極を挿して(※)アメリカ人と同じ経験ができているかというと、それはないと思う。

※先に出た、サイバネティクスや「攻殻機動隊」に関する話題を受けて。

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ネットの未来について見解を語り合う中、各国間の技術的差異が小さくなりつつあるグローバル市場で、日本の優位性はどこにあるのかという話題に及んだ。楠氏と猪子氏がともに力説した「技術面での差はなくなるが、日本という豊かな国に育った経験がカギになる」という話には、会場も深く聞き入っていた。

森氏は大喜利で「19までにはすませておけ」と回答して会場の笑いを誘ったが、そこにも同様の意味がある。「ビル・ゲイツがBASICを開発したのは19歳。Mosaicを作ったマーク・アンドリーセンも19歳、マイケル・デルがビジネスモデルを作ったのは19歳、Facebookを作ったマーク・ザッカーバーグも19歳。19歳は非常に重要な年。19歳までに一旗揚げるきっかけを作っておくことは重要かもしれない」(森氏)。19歳で開発に至るまでに"感じてきたもの"は、すべての国で得られるものではない。猪子氏は、「iPod」がアメリカで生まれ、インドでは生まれなかった背景などにも触れ、大事なものは「文化のような論理化できない経験の積み重ね」と説明した。

本カンファレンスは登壇者と参加者が一緒に考えるイベントとして、参加者によるワークショップや、メインセッションでの1分間プレゼン「未来はこうなる」なども行なわれた。gooラボでは今後、「gooラボ ネットの未来プロジェクト」の一環として同様のイベントを開催していく予定だ。