そしてミネルバ逮捕へ

ミネルバの名が広まるにつれ、当然ながら彼は何者かということに対する関心も高まる。諸説が飛び交う中、経済に関する知識や分析力から、銀行や証券会社などの金融機関で働く役員、しかも見聞の広い海外勤務経験を持つ人物ではないかとの予測がもっとも有力だった。役員となれば40~50代程度が考えられるが、文章だけを見るとそれで間違いないような印象すら受ける雄弁ぶりだったのだ。

ところが、ミネルバの正体は、こうした多くの予想を裏切るものだった。

2009年1月8日、ソウル中央地方検察庁は「電気通信基本法」違反でミネルバを逮捕した、と発表した。同法の、虚偽事実をインターネットで流布した疑いによる緊急逮捕だった。ミネルバが昨年12月末に書いた「政府がドル買い取りの禁止命令を下した」という内容が、逮捕の引き金になったようだ。

逮捕された人物は、50代でも、金融機関幹部でも、海外勤務経験もない、30代無職男性だった。同氏の供述では、学生時代に経済学などを専攻したわけではなく、自身が興味関心があったため本を読んで独学したのだという。ミネルバ逮捕ということだけでも驚きだったが、人々の予想とかけ離れたその正体に、韓国中は二度の驚きと衝撃でこの事実を受け入れることになった。

捜査があるていど進んだ現在、検察では、ミネルバによる虚偽の書き込みによってドルの買い入れが急速に広まり、これによって政府が為替相場安定のためにつぎ込んだ保有外貨が20億ドル(約1,800億円)以上に達したと述べている。ミネルバの書き込み以降、ドル買い入れが相次いだ影響で、1日の取引額が、平均38億ドル(約3,430億円)を上回る60億ドル(約5,420億円)にまで達したようだ。

さらに検察では、ミネルバの書き込みに対して、さらなる虚偽がないのかの確認を行っているほか、同氏の政府批判に恨みのようなものが込められている部分が見られることから、名誉棄損に相当するのではないかとして、さらなる捜査を進めている。