地上デジタル放送に完全移行する予定の2011年7月まで、あと1,000日を切った。だが、地デジに絡む詐欺事件が数多く発生するなど、「なぜ地上デジタル放送に移行するのか」の理解が一般の消費者に浸透しているとは言いがたい。本稿では、放送行政に詳しい池田信夫氏が、地デジ移行に伴う大きな問題点、「B-CAS」についてレポートする。

B-CAS「見直し」の法的な問題点

今月22日、総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委員会)の第47回会合が開かれ、B-CASカード(※)見直しの経過が報告された。

※編集部注 B-CAS(ビーキャス)は株式会社ビーエス・コンディショナル・アクセス・システムズ(BS Conditional Access Systems)が提供する放送受信方式。同方式では、放送波に伝送路暗号(スクランブル)が施され、スクランブル解除の為にはB-CASカードが必要。受信機での権利保護規定遵守を、B-CASカード支給契約によるエンフォースメント(強制)で担保している。

それによれば、今後は以下の4方式のうちから選ぶ方針だという。

  1. B-CASカードの小型化
  2. カードのテレビへの内蔵
  3. チップ化
  4. ソフトウェア化

しかしこの検討項目には、根本的な問題が抜けている。それはB-CASに違法の疑いがあるということだ。CAS(Conditional Access System)は、有料放送には必要なシステムだが、B-CASは無料放送である地上波の民放にかけられている。NHKはサービスへの対価を取る有料放送ではなく、あまねく放送する公共放送だということになっているのに、有料放送システムであるCASをかけている。

これは電機メーカーに対する事実上の強制だが、法的根拠がなく、独占禁止法第3条で禁じる私的独占の疑いがある。またB-CAS社は、カード供給契約を締結するにあたって、家電メーカーにダビング10への対応を要求するなどの取引条件を付けており、これは独占禁止法第19条で禁じる不公正な取引方法に該当する疑いがある。

またB-CASカードはPCで地デジを受信する際にも必要なので、コンピュータ・メーカーやボード・メーカーがB-CAS社に1台ずつ審査費用を払い、B-CASのカードスロットをつけないと、デジタル放送を受信できない。このように特殊な「日の丸規格」で放送機材を囲い込むことについても、外資系メーカーが非関税障壁だと批判している。

さらにNHKが受信制御やコピー制御をかけることは、放送法に違反する疑いがある。

放送法第9条11項では「協会(NHK)は無線用機器の製造業者、販売業者及び修理業者の行う業務を規律し、又はこれに干渉するような行為をしてはならない」と定めているからだ。公共放送は、受信料を払った人全てに見る権利がある。それを特定の機器で妨害することは、公共放送の根幹にかかわる問題だ。

誰のために見直すのか?

根本的な問題は、誰のために見直すのかということだ。ダビング10のおかげで地デジはアナログ放送より不便で、DVDレコーダーの売り上げも落ちている。海外の安いテレビも、B-CAS社の「審査」に阻まれて輸入できない。おかげで日本の消費者は、割高の液晶テレビを買わされているのである。

BSデジタルは当初、民放も(地上波と競合しないよう)有料放送で行なうことが計画されていたため、100億円以上かけて顧客情報を集中管理するB-CASセンターを建設した。しかしBSデジタルが無料放送に変更されたためCASは不要になり、この設備投資は回収できなくなってしまった。それを回収するためテレビ局は、必要のないスクランブルをかけてB-CASカードを義務づけ、電機メーカーから料金を徴収することにしたのである。

ダビング10の元になったコピーワンスは、2004年4月から突然始まったものだ。その理由は「著作権者の権利保護のため」ということになっているが、実演家著作隣接権センターの椎名和夫常任理事は「スクランブル放送の導入を権利者が要求した事実はない」と語っている。実際の理由は、関係者によれば「コピーフリーにすると著作権料の値上げを要求されるのをいやがった民放が、権利者との交渉の道具として決めた」のだという。

これはその後の動きでも裏づけられる。コピーワンスがダビング10に緩和されたことを理由に、権利者団体が著作権料の引き上げを要求したからだ。権利者団体によれば、コピーされる回数が増えると「逸失利益」が増えるため、それを補償するため著作権料を引き上げる必要があるのだという。しかし、それを裏づけるデータを彼らは提示したことがない。そもそもコピーによって著作者の利益が失われるという証拠もないのだ。

「テレビ局と役所の都合」で意思決定

こうした意思決定はすべて総務省の所管する社団法人、ARIB(電波産業会)で行われ、国会審議にもかけられず、一民間企業であるB-CAS社が「審査」を行っている。したがってB-CASもダビング10もまったく法的根拠のない私的な規格であり、その弱点を利用してコピーワンスを解除する「フリーオ」などの機材も取り締まることができない。

要するにB-CASは、徹頭徹尾テレビ局と役所の都合で決められ、消費者はすべて決まってから、形式的にデジコン委員会で意見をのべただけなのだ。日ごろ政府に対して「説明責任」を求めるテレビ局が、このように消費者にまったく説明しないで数百億円にのぼる負担を強要し、それが破綻してもまったく報道しないのは異常というしかない。

しかしこの問題については、公正取引委員会が事情聴取を進めている。テレビ局が自浄能力を発揮できなければ、強制捜査もありうることを知っておいたほうがいい。