世界を相手にチカラを試したい! フランス・パリで3日(現地時間)、未来のIT業界を担う学生たちによるチャレンジイベント『Imagine Cup 2008』(イマジンカップ)の開会式が行なわれた。集まった学生は、61カ国/124チーム/370名。日本からもソフトウェアデザイン部門にチームNISLab(同志社大学大学院/4名)、アルゴリズム部門に同部門日本人初となる高橋直大氏(慶應義塾大学)が挑戦する。今年の大会テーマは「テクノロジの活用による環境保護の実現」。

Imagine Cup 2008のオープニングセレモニーがパリ市庁舎で行なわれた

Imagine Cupは理系学生だけの大会じゃない!

Imagine Cup 2008の参加者の宿泊先であり、大会会場ともなっているNOVOTEL PARIS TOUR EIFFEL。このエッフェル塔を近くに臨むホテルではいま、準備に追われる学生たちの姿が至るところで見られる。彼らが部屋に設置していると思われる無線LANアクセスポイントが非常に多く確認できるのも、大会の性格ならではの光景だろうか。ではまず、本大会の様子をレポートする前に、Imagine Cupがどんな大会なのかについておさらいしておきたい。

大会会場となるパリ市内、セーヌ川沿いのNOVOTEL PARIS TOUR EIFFEL(写真左)。エッフェル塔が近く……でも、近づく時間がない

Imagine Cupは、マイクロソフトが主催する世界規模のIT技術コンテスト――この説明は正しい半面、誤解を招く可能性もある。競技部門は、ソフトウェアデザイン/アルゴリズム/インタフェースデザイン/ゲームプログラミング/組み込み開発/ビジュアルゲーミング/ショートフィルム/写真/ITチャレンジの9部門。本大会は、国際舞台で活躍できる優れたIT人材の育成と確保を目的としているが、各部門名をざっと見てもわかるとおり、理系学生にしか縁のない大会……というわけではない。

たとえば、ソフトウェアデザイン部門では数日間にわたって大会テーマに対するソリューションやビジネスモデルをプレゼンテーションし、アルゴリズム部門では24時間カンヅメ状態で難問のクリアに取り組む。一方、ショートフィルム部門では期間内に映像を制作するミッションが与えられ、チームメンバーたちが必要な素材の撮影に市内を奔走し、編集する――Imagine Cupでは多岐にわたる分野の学生が集い、そして多彩なチャレンジを見せるのだ。

そこで得たものは、開会式に先立つ記者会見でJean-Philippe Courtois氏(同社インターナショナル担当プレジテンド シニアバイスプレジデント)や過去のImagine Cup出場者たちが話したように、「就職や起業にも活かせる」貴重な経験となっていく。2008年大会は6回目の開催となり、これまでも多くの起業家を輩出。日本国内で有名なタブブラウザ「Lunascape」の開発者で起業家の近藤秀和氏も第1回スペイン大会の参加者だ。

パリ市庁舎で開会式! 日本代表5名も熱気の渦に

さて、そんなImagine Cupの2008年フランス大会のオープニングセレモニーが3日(現地時間)、パリ市庁舎で開催された。大会の主役である370名の学生が絨毯敷きの階段の先、待ち受ける報道陣のフラッシュを浴びながら入場。歴史を感じさせる絢爛の間に熱気が充満した。

日本代表メンバーは高橋氏を先頭に入場。登場する国名が呼び上げられるたびに歓声が沸いていた

セレモニーにはパリ副市長のJean-Louis Missika氏が登壇、この場に立つ学生こそが次世代を代表する者であり、環境問題についてもその社会的責任を背負っているとし、ICT(Information and Communication Technology)が情報化社会の中で重要性を増していくだろうとスピーチ。他の登壇者からも学生たちに向けて大きな期待を寄せる言葉が贈られた。

パリ市庁舎。機能しているのかいないのか微妙なセキュリティを通って中へ

パリ副市長のJean-Louis Missika氏。Imagine Cupとパリの共通点は「クリエイティビティ、イマジネーション、そして少々クレイジーなところ」

マイクロソフトのJean-Philippe Courtois氏。Imagine Cup出場者たちを、ベストの中のベストと激励。「夢を大きく持ち、情熱を追いかけて実行してほしい」

同社アカデミック イニシアチブ シニアディレクター Joe Wilson氏。世界ではいま、リスクを恐れずに大きな変化を手にしていくような人材を求めていると語りかけた

日本からの挑戦者は5名。ソフトウェアデザイン部門に挑戦するのは、松下知明氏、中島伸詞氏、加藤宏樹氏、前山晋也氏の4名で構成される同志社大学大学院のチームNISLab。4月に愛知県・名古屋市で実施されたImagine Cup 2008 日本大会を、グローバル消費電力管理システム「ECOGRID」(エコグリッド)の提唱で優勝し、パリ行きの切符をつかんだ。

NISLabのメンバー。写真左から、松下知明氏、前山晋也氏、中島伸詞氏、加藤宏樹氏。前山・加藤の両名は加藤氏が持参した寝間着用の浴衣を着て参加

本戦までの2カ月間は、毎日ミーティングを実施。一部メンバーの入れ替えもあった中、インタフェースの改善、コンセプトや日本大会で指摘されたプレゼンの大幅な見直しに取り組んだという。実際、パリ出発前日の壮行会で披露されたプレゼンは、以前とは別物といえる内容で関係者一同を驚かせた。日本大会でNISLabのプレゼンに厳しいコメントを残した中山浩太郎氏(東京大学 知の構造化センター 特任助教)も「ソリューションのほぼ100%を伝えられるプレゼン」と太鼓判を押す出来。Imagine Cupではプレゼン力が評価を大きく左右するとも言われる。ファイナルへの進出チームが決まるのは6日(現地時間)、ファイナリスト6組には"ルーブル美術館"という最高のプレゼン舞台が用意されている(7日に実施予定)。

"天才"が集うアルゴリズム部門に初の日本人

アルゴリズム部門に挑戦するのは、慶應義塾大学の高橋直大氏。同部門はWeb上での個人エントリーとなり、オンラインプログラミングなどを経て上位6名の学生のみが、世界大会に挑戦できる権利を得る。高橋氏は、日本人で初めて同部門の世界大会出場を果たした。

高橋直大氏は2006年からImagine Cupにチャレンジ。念願かなっての参加となった

頭脳勝負のこの部門、予選を6位通過した高橋氏は「ひらめきの勝負でもあるので、必ずしも1位通過の人に太刀打ちできないとは思っていません」と自信をのぞかせる。アルゴリズム部門に挑戦する6名は、同室に24時間こもって難問のクリアを目指す。結果発表はソフトウェアデザイン部門などと同様に最終日(8日)の予定。なお、同部門では世界大会進出の時点で6位入賞が決定している。

日本からの挑戦者
参加部門 参加者 所属
ソフトウェアデザイン部門(優勝賞金:15,000ドル) 松下知明、中島伸詞、加藤宏樹、前山晋也 同志社大学大学院 工学研究科
アルゴリズム部門(優勝賞金:8,000ドル) 高橋直大 慶應義塾大学 環境情報学部

Imagine Cupへかける思い

NISLabの松下氏は「協力してくれた多くの人たちのためにも勝ちたい」と意気込みを語る。Imagine Cupへの取り組みでは、所属する研究室や「学生メンタープログラム」を通じたITベンチャー(Knowlbo)による協力体制がとられてきた。そうした人たちの取り組みがどんな結果を生み出すだろうか。高橋氏も「日本人初ということで緊張はありますが、出るからには上位を狙いたい」と話す。本格的なチャレンジは7月4日からスタート。大会の様子については追ってまたレポートする。

日本代表メンバーによる、お決まりのアレ。どんな結果が待っているのだろうか