機能面では十分でも、機能と利用者を繋げるインタラクションデザインでいくつかの改善点があることは、Google Analyticsを運営するGoogleもサービスをはじめた当初から感じていたことのように思えます。

というのも、Google Analyticsのサービスが開始されておよそ3カ月後にあたる2006年2月、Googleは「Measure Map」というアクセス解析サービスを買収しているからです。Measure Mapはユーザーエクスペリエンスを専門としたコンサルティング会社であるAdaptive Pathが始めたサービス。2006年1月に一般のユーザー(ただし招待制)を迎えてサービスを開始し、同時に大きな反響を得ました。そして一握りのユーザーしか利用できなかったαステージという非常に早い段階で、Googleに買収されるという異例の出来事があったのです。

より良いユーザー体験を提供するためのコンサルティングが主要事業だったAdaptive Path。「Ajax」という言葉の生みの親であるJesse James Garrett氏もここの出身だ

ユーザーエクスペリエンスの第一人者で、当時のMeasue Mapのプロジェクトリーダーを務めたJeffery Veen氏をはじめ、製作陣数名はこの買収と同時にGoogleに参加。買収後1年3カ月後にあたる2007年5月に、Google Analyticsが新しく生まれ変わったわけです。しかしそれは、Measure Mapの影響を受けたリニューアルといっても過言ではありません。

Veen氏はGoogle入社後も、不定期ではあるものの、ブログを更新している。今回のリニューアルについてのエントリーも書いているので、より詳しく知りたい方は同氏のブログを参照すると良いだろう

サービス開始当時から大きな反響があったブログ専用アクセス解析サービス。長い間、開発も止まっており新規ユーザーも増えていない状態だったが、その裏ではGoogle Analyticsの開発が進んでいたのだった

Measure Mapはブログのアクセス解析に特化したサービスで、ブロガーが自分のブログのアクセスがどのようなものかを知りたいときに必要な情報を、ブロガーの視点で表示しています。何人の方がアクセスしたかという誰でも知りたい情報から、参照リンクや人気記事といったデータが、シンプルなレイアウトにコンパクトにまとまっています。Google Analyticsでも「上位コンテンツ」や「参照ソース」のページからこうしたデータを読み取ることができますが、「Post (記事)」「Links (リンク)」といったブロガーにも馴染みのある言葉に置き換えてデータ表示をしているところが興味深いです。

Measure Map会員用のトップページである「Overview」では、その日の訪問者数やリンク数が大きな文字で表示されていたり、トップ5の記事が一目で分かるようになっているので、自分のブログの『今』をこのページを見れば分かるような作りになっています。

ターゲットユーザーが必要としている情報をシンプルな形で提示している。また、HTMLとFlashの双方の利点を引き出す技術の利用は、サイト制作者にとっても参考になるだろう

Measure Mapはターゲットに合わせた情報整理の提案をしているだけでなく、技術的な面でも興味深い試みをしています。

Measure MapのグラフはすべてFlashで作られているのですが、グラフでのインタラクションはすぐにページに反映されるようになっています。例えば期間を絞ってアクセス解析をしたい場合、グラフにあるスライダーを使って範囲を指定するわけですが、指定したらすぐにグラフ下にあるHTMLで表示されているリストに反映されるようになっています。つまり、ActionScriptを介してJavaScriptのFunctionを呼び出し、HTMLに反映しているわけです。これは旧Macromediaが提供していたFlash / JavaScript Integration Kitを応用したもので、HTMLベースのページとFlashのシームレスな情報"交通"を可能にしています。Flashのリッチな描写能力と、HTMLとAjaxを組み合わせた早い表示速度を実現しているのがこのテクニックです。JavaScriptとサーバーサイドのプログラミングを利用すれば、スライダー付きのグラフを作ることが可能ですし、逆にFlashだけですべてを作ることも可能です。しかし、そういったことをあえてせず、双方の利点を最大限に引き出して利用しているのが、Measure Mapの操作性をさらに高いレベルに引き上げている要因なのかもしれません。

Google Analyticsのグラフに実装されているタイムライン表示と期間の指定機能。期間を適用すると、すぐにグラフとデータ表に結果が反映される。これもMeasure Mapにある機能を拡張・改善したもののひとつ