「iPod Hi-Fiの失敗ふたたび」と心配になるほど、ひんやりとしていた「HomePod」への反応。ところが、先週末にHomePodの先行レビューが公開されるようになって風向きが変わり始めた。それらを読んで、スピーカーとしてスマートスピーカーに関心を持たなかった人たちがHomePodにざわつき始めている。

先週カナダを訪れたApple CEOのTim Cook氏にFinancial Postがインタビューした際に、同氏はHomePodの強みとして「没入できる質の高いオーディオ体験」を挙げた。でも、笛吹けど踊らず。人々の反応はあっさりとしたもので、「Google Home」(129ドル)やAmazonの「Echo Plus」(149ドル)が2台買えてしまう349ドルなのだから、「音が良いのは当然でしょ」というような冷めた反応だった。

  • 1月26日に米国で予約販売が始まった「HomePod」(発売は2月9日)

しかし、それらは話として聞いただけの人たちの印象である。実際に聴くと、HomePodの「オーディオ体験の質」は、「ポータブルスピーカーにしては音が良い」というレベルの既存のスマートスピーカーと本質的に異なるようだ。

  • iMore:(HomePodと比べたら) Echoの音景がルームスピーカーではなく90年代のカーラジオに聞こえる」
  • Vogue:「普通の人たち、そして専門家の耳も同じように認めるワイドでパワフルなオーディオ品質 (しかも、ニートで小柄なサイズ)」
  • WinterCharm「Sonos Play OneやGoogle Home Maxよりも明らかに優れたオーディオ」「ビーム・フォーミングのソリューションを持たないスピーカーメーカーは警戒すべきだ。このサイズ、そしてこの価格、1,000ドル以下のスピーカーの多くはHomePodに太刀打ちできない」

中でも論争を広げているのが、オーディオ品質とビーム型ドライバからHomePodをBang & Olufsenの「BeoLab 90」(ペアで約8万ドル=約870万円)と比べたaudiophileの投稿だ。その上で「2,000ドル以下の典型的なスピーカー市場において、(AppleがHomePodに)組み込んだテクノロジーは"魔法"と見なされるものだ」としている。

Cook氏が「オーディオ体験が違う」といっても反応が薄かったのに、「百聞は一聴にしかず」というか、Google HomeやEcho Plusと比べて「高い!」と言われていたHomePodの議論が、いつの間にか数百ドルや千数百ドルクラスのスピーカーとの比較にすり替わってしまっている。それらに比べたらHomePodは「コスパが高い !」になる。発売時には間に合わないが、HomePodは年内に提供されるソフトウエアアップデートで2台を連動させたステレオが可能であり、2台購入したとしても698ドルである。

誤解しないでいただきたいのは、数百ドルや千数百ドルクラスのスピーカーで構築されたハイレゾ空間のような高品質な音像をHomePodが作り出せているわけではない。しかし、HomePodに凝縮されたテクノロジーによって、数千ドル・数万ドルの高価なオーディオシステムを揃えなくても、349ドルで十分にハイクオリティなサウンドを楽しめる。しかも、ハイエンドオーディオは特定の空間でしか体験できないが、ビーム・フォーミング技術を備えたHomePodは、どのような場所でも置くだけで、部屋の広さや設置した場所(中央、壁より等々)などを把握して最適化した音場を作り出す。手軽にどこでも、ハイクオリティ・オーディオ。音楽、映画やビデオコンテンツを良い音で楽しみたいと考えている人たちがEchoやGoogle Homeをスピーカーとして導入することはないだろう。だが、HomePodはそうしたユーザーをターゲットに、本格的なスピーカー市場で勝負しようとしている。

3年前の論争ふたたび

ただ、そうしたレビューやコメントに対して「今どきハイエンド・スピーカーを購入する人がどれほどいるのか?」という反応が少なくない。オーディオ全盛の70年代・80年代と違って、今どきの若者は高価なオーディオシステムに関心がない。スピーカーよりもヘッドフォンである。

でも、これってデジャビュというか、全く同じ論争が3年前にもあった。Apple Watchが登場する直前、すでにあったスマートウォッチに比べてApple Watchは高すぎると言われ、そして腕時計をはめない人が増加する中で、衰退する数百ドルや千数百ドルクラスの腕時計市場を狙っても大きな成功は望めないと言われた。

ところが、高級腕時計市場でも勝負できる腕時計としてデザインし、その上で腕時計を使う体験をスマートに変えたApple Watchは、腕時計として市場を制した。一方でスマートウォッチ市場での勝負にこだわった他のスマートウォッチは小さな市場の中で苦戦している。

  • 昨年の9月のイベントで、Apple Watchが直近の四半期に前年同期比50%増の出荷を記録し、世界の腕時計市場でAppleのシェアが1位になったと報告

Google HomeやAmazon Echoと音声でインタラクトするのは新鮮な体験である。でも、人々がスピーカーを導入する理由は、ニュースや予定の確認、ネット検索などのためではない。ユーザーが何のためにスピーカーを使い、そして何が重要であるかと考えると、自ずとオーディオ品質という答えが出てくる。ただし、Apple WatchはiPhoneのコンパニオンデバイスというのが制限にならずに、人気製品であるiPhoneとの統合的な体験が好まれたが、HomePodがApple Musicのためのデバイスであるのはスピーカーとして制限と見なされるかもしれない。統合的ソリューションが停滞要因になる可能性も否めない。