50歳になってしまった。人生50年と大昔の歌にあるが、どっこい生きている。あちこち劣化してしまい、帳尻を合わせるのが年々難しくなっているところに、今度の新型コロナウイルス禍である。膝が痛い日に外出しなくていいのは助かるが、ビデオ会議に参加しろ、ですと? イヤですよそんなの、と言ったところで多勢に無勢、聞き入れてもらえるわけもない。新コロ禍め……鍋にして食ってやろうか!?

なぜビデオ会議がイヤかというと、体裁を整えるのが面倒なのだ。自分の顔がディスプレイにちらちら映るのが苦痛なこともあるが、せっかく家にいるのにヒゲを剃り髪型を整えねばならないとは。背景にあれこれ映り込むのも耐え難いし、全部ひっくるめてなんとかしたい。

そこで考えた。最近のプリクラのようにお目々ぱっちりに加工する必要はないにせよ、ソフトフォーカスを入れるとか、ライトで白く飛ばすとか、身支度の手抜きがバレないような映像加工を施したい。もちろんリアルタイムで。背景も、壁紙/バーチャル背景を使わずに済むのならそうしたい。

そこで考えた。「フィルター」だ。macOSでは「Core Image」や「Metal」などの静止画/動画をリアルタイムにフィルタ処理するフレームワークがあり、設計次第では動作も軽いため、FaceTimeカメラからビデオ会議アプリに映像を入力する前段階でフィルタ処理すれば身繕いの手間を軽減できそう。ヒゲを1日くらい剃らなくても、肌の調子が少しくらい悪くてもカメラの向こう側には気付かれない、それを実現できれば御の字だ。

VLC

最初に試したのは、動画プレーヤーとして著名な「VLC」。FaceTimeカメラを入力デバイスとして、フィルタ処理を施したうえで出力する機能が用意されているのだ。メニューバーで「ファイル」→「キャプチャーデバイスを開く...」を選択し、「キャプチャー」タブで「入力デバイス」を選択、「Video」にチェックを入れて「FaceTime HDカメラ(内蔵)」を選び「開く」をクリックすれば準備完了。これでFaceTimeカメラの映像が画面に表示されるはずだ(表示されなければ繰り返す)。

この状態から「ウインドウ」→「ビデオエフェクト...」を選択すると、画像調整用のスライダーを揃えた小ウインドウが現れる。ここで「明るさ」や「ガンマ」を引き上げれば、映像がいい感じに白飛びする。画面全体が色あせた色調になるが、無精ヒゲも家の中の生活感もわからなくなる。これは使えそうだ。

しかし、VLCには肝心の仮想カメラ出力機能がないことに気付いた。処理そのものは重くないが、なぜか途中で映像が固まってしまう現象が頻発するなど安定性にも難がある。残念ながら、ビデオ会議にはほかのアプリを使うしかない。

  • VLCのビデオキャプチャ機能はビデオ会議に使える?

  • うまく無精ヒゲを隠せたものの、肝心の仮想カメラ出力機能が実装されていなかった

Snap Camera

Snap Cameraは、FaceTimeカメラなど入力したUVCカメラの映像を加工し、仮想カメラデバイスとして出力するアプリ。Qtベースのプラットフォーム非依存なアプリであり、macOSにも対応している。

このSnap Cameraには、VLCのビデオエフェクトのようにコントラストやガンマ値を微調整する機能はないが、背景の入れ替えや顔そのものを加工するエフェクトが用意されている。顔の輪郭を検出する機能を備えているため、目元にメイクアップ風の画像処理を施したり、キャラクターの画像を重ね合わせたり、プリクラ風(?)の映像が得られる。ビジネス用には使えない雰囲気だが、気心知れた仲間との"オンライン飲み会"には使えそう。

ただし、Snap Cameraは定番化しつつあるビデオ会議サービス/アプリ「Zoom」で使えない。Google MeetやSkypeでは使えるもののシステム負荷がかなり高く(選択したエフェクトによる)、MacBook Pro 1.4GHzクアッドコアCore i5では常時40~60%のCPUパワーを消費してしまう。ビデオ会議を始めると、5分も経たないうちにMac本体の発熱とファンの回転音が気になるレベルで、常用は正直厳しいというのが本音だ。

  • ユニークなエフェクトが多数用意されている「Snap Camera」

  • カメラに「FaceTime HD(内蔵)」を選択すれば準備は完了

CamTwist

CamTwistもSnap Camera同様、各種エフェクトを備えた仮想カメラデバイスとして振る舞うアプリだが、かなり動作が軽い。残念ながら最新バージョンのZoomでは利用できないが(仮想カメラデバイスをサポートしていない模様)、Google MeetやSkypeではFaceTimeカメラ同様に選択できる。

ポイントは、複数のエフェクト/フィルタの重ね掛けが可能なことだ。いろいろ試したところ、「Brightness」で明るさとコントラストを調整しつつ、「ColorPencil」という鉛筆画風のエフェクトを重ね掛けすると、無精ヒゲを隠すにはちょうどいい仕上がりになる。すでに開発終了が表明されているものの、Catalinaでも支障なく動作するため、Zoomが仮想カメラデバイスのサポートを復活させればかなり便利に使えるはずだ。

  • 「Webcam」にくわえていくつかのエフェクトを追加しておけば、仮想カメラデバイスにその映像を出力できる

  • SkypeやGoogle Meetでは支障なく利用でき、システム負荷も低い

なんとか実用に耐えうる仮想カメラデバイスアプリは、最後に紹介した「CamTwist」のみという結果となったが、このジャンルは現在かなりニーズが高いはず。より高度な設定と軽い動作のアプリが手ごろな価格で公開されないものか、と期待することしきりだ。