NECは、最新の研究開発成果などを公開する「NEC Innovation Day」を開催した。4年ぶりの開催となった今回のイベントでは、NECの新たな「技術ビジョン」を発表。それに基づいた3つの観点から、オンリーワンやナンバーワンとなる同社の先進技術の発表を行った。
そして、今回のNEC Innovation Dayでは、NECの研究開発が、事業創出と緊密に結びついた体制へと移行したことを改めて強調する内容となった点も見逃せない。
新たに発表した技術ビジョンでは、実世界とサイバーの融合を支える基盤を提供する「未来を共創・試行するデジタルツイン」、人が信頼できるAIや人が納得できるAIを提供する「人と協働し社会に浸透するAI」、アプリケーションやIT、ネットワークを融合した基盤となる「環境性能・高信頼・高効率を可能にするプラットフォーム」の3点を打ち出した。
物理空間からデジタル空間へ、鍵はNECの生体認証
ひとつめの「未来を共創・試行するデジタルツイン」では、NECが得意とする生体認証を重要な取り組みにあげた。
NEC 取締役 執行役員常務兼CTOの西原基夫氏は、「NECの研究実績は、世界トップレベルであり、グローバルにオンリーワン、ナンバーワンのものが多い。機械学習難関学会での論文採択数では日本の企業として唯一ベスト10以内に入り、世界で第7位、BtoB企業だけに限定するとIBMに次いで2番目。GAFAと伍している」としながら、「顔認証技術の国際特許の出願数では世界1位。AIや映像分析を含めても世界一となっている。とくに、顔認証、虹彩認証、指紋認証といったバイオメトリクス(生体認証)の技術は圧倒的である。生体認証のブランド想起率でも1位である」と強調した。
NECの生体認証技術は、顔認証だけでなく、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、耳音響、声と幅広く、これを「Bio-Idiom」のブランドで展開。米国立標準技術研究所(NIST)が毎年実施しているベンチマークでは、NECの指紋認証、顔認証、虹彩認証で、世界ナンバーワンの技術として認定されている。
西原CTOは、「顔認証技術では、2021年を含めて6回に渡ってナンバーワンを獲得している。これは自動車のF1レースで6回優勝しているようなものである」と表現。コロナ禍で増加したマスクの着用時でも99.9%以上の精度を実現するとともに、移動している人も認証できるように、1秒間に数10億人以上を検索するなど、認証時の処理スピードも最大20倍にまで高速化。市場ニーズの変化にあわせた技術開発も進めている。
そのほか、声認証では、特定のフレーズを使うことなく、5秒の発話で人を識別したり、指紋認証では、わずか20μmの指紋の幅まで認識する精度を活用して、ケニアでは、生後2時間の新生児や、乳幼児の本人確認を行い、身分証明に使用したりといったことが可能になっている。
今回のNEC Innovation Dayでは、顔認証と虹彩を組み合わせることで、100億人を見分けることができるマルチモーダル生体認証を開発したことを発表。「地球の全人口70億人を超える人の数を見分けることができる。金融や医療などの高信頼が求められる領域にも貢献できる」とする。
また、顔情報を暗号化したまま認証を可能にする「秘匿生体認証技術」を新たに開発したことを発表。「暗号化したままでの照合が可能になり、顔情報が漏洩した際の悪用リスクを低減。復号するための秘密鍵をユーザーが持つことにより、サービスの提供者側では顔情報を復号できない。ユーザーは、顔認証サービスを安心して利用できるようになる。個人情報や顔情報が漏洩しない仕組みとして提供できる」などと述べた。
マルチモーダル生体認証は、ホテルマリナーズコート東京で、ホテル従業員向けの入館管理システムに活用。東京オリンピック/パラリンピックでも、全競技会場や選手村での大会関係者入場時に顔認証による本人確認システムを稼働。さらに、顔認証で培った画像解析技術によって、がんを発見するシステムの開発や、顔認証とAI技術を活かしたフィジカルケアサービスの提供も開始しているという。
また、センシング技術を活用した新たな提案を行っていることも紹介した。
通信用光ファイバーとセンサーを組み合わせた光ファイバーセンシングでは、特殊な信号処理により、既設された光ファイバーであっても、最長380kmに渡り、振動や温度などをm単位で高感度にセンシングすることができ、超広域の地震分布や、自動車の移動などの交通流を可視化することができる。これまでVerizonや中日本高速道路と共同実証実験を実施。この技術を活用することで、屋外の光ファイバーを通じて、外部からの侵入者や移動体の状態をリアルタイムに検知することも可能だ。
また、複数衛星画像解析技術により、地表変化を検知できる例も示した。従来は衛星の周期にあわせて2週間ごとに特定地点の検知しかできなかったが、SAR衛星や光学衛星などの様々な観測画像を自在に統合することで、夜間や嵐などの悪天候条件でも、任意の地点での地表変化を、最短で1時間単位で検知できるため、災害状況や混雑状況などを確認できるという。
さらに、液中の微細混入異物を、高精度に即時検出する動きパターン認識技術では、動画認識によって、1mmの20分の1となる50μm程度の異物や泡を識別。ガラス瓶の薬液などの検査工程での目視検査の削減と、検査品質の均一化を実現できるという。
また、NASAの有人宇宙船「オリオン」では、約15万個のセンサーから、220億種類の関係性を見つけて、宇宙船の設計、開発、製造、試験段階における異常検知を実現。ここには、同社が持つインバリアント分析や時系列データモデルフリー分析を活用しているという。この技術は、日本製鉄や住友ベークライト、ENEOSなどが稼働させている大規模プラントにおける異常予兆を自動検知する仕組みにも活用されている。
AIと通信、量子コンピューティングの現在地
2つめの「人と協働し社会に浸透するAI」では、AIによるデータ意味理解、予測分析といった分析業務における自動化を達成していることを紹介した。
従来は困難だった熟練者の判断をAI化したり、AIの精度を自律的に維持するAIモニタリングの研究を開始。これが、実用化に近いレベルに到達していることを示し、AIにおけるコンサルティング、分析業務、デリバリーといった領域の自動化を実現できるようになるという。「今後の目玉として、AIの上流プロセスの自動化において、他社との差別化を図っていきたい。これにより、誰でも使えるデータ分析環境が実現でき、AIの民主化を進展できる」と述べた。
また、意思決定をAIで自動化する最適化技術の導入支援サービスの提供を開始。再現したい意思決定事例から判断のセンス、意図を学ぶ「意図学習」、環境変化に適応した最善の意思決定を導く「オンライン最適化」、膨大な組合せから最適解を素早く提示する「量子コンピューティング」などにより、人材配置やレコメンドの最適化、配車計画、ダイナミックプライシング、鉄道のダイヤ修正などをAIが行えるようになるという。
量子コンピューティングの実用化については、クラウドサービスの提供から導入に必要な教育、適用支援までトータルにサポートしているほか、2023年の実用化に向けて、量子コンピューティング素子を開発しており、100倍の量子干渉時間の実現を目指していることにも触れた。「量子コンピューティング素子は、ブレイクスルーになる技術であり、実用化できれば、次のステップとして、プラットフォームの開発を進めていくになる」とした。
また、量子暗号通信技術では、2022年には重要基幹システム向けの長距離伝送技術を商用化。さらに、2024年には廉価版となるCV-QKD既存ファイバー重畳技術を商用化する計画も明らかにした。
実は、NECは、1999年に、量子コンピュータの基礎である「個体素子量子ビット」を世界で初めて実証。「量子コンピュータの世界を最初に切り開いた人物は、中村泰信氏と蔡兆申氏。いずれもNECに在籍していた」と振り返り、「NECは量子コンピューティングの元祖」とも表現している。
一方、AIの活用においては、数100台のロボットが、施設内カメラと無線ネットワーク、クラウドによって制御され、複数の搬送ロボットが連動しながら最適にモノを運んだり、人と衝突しない動きが可能になったりする事例のほか、大林組との協業では建機を活用したリモート制御の実用化、稚内市との実証事業ではドローン同士が相互に交渉するAI間交渉技術により、効率的に、安全に運行できるようにし、複数のドローン運行者やサービス事業者の事業化を支援していることを示した。
なお、AIについては、公平性やプライバシー、透明性などの7つの観点から、人権に関するポリシーを制定。「NECは、AIの社会実装や生体情報をはじめとするデータの利活用において、人権の尊重を最優先して事業活動を推進している」と強調した。
3つめの「環境性能・高信頼・高効率を可能にするプラットフォーム」では、AIと通信、コンピューティングの融合に取り組んでいることを示した。
ここでは、衛星やHAPSを活用した「非地上系ネットワーク」、従来比2桁以上の低遅延、低電力を目標としている「オールフォトニクスネットワーク」、O-RAN装置のリソースの最適化、広域分散MIMOなどによる「5Gアクセスネットワーク」、非結合型4コアファイバーケーブルによる世界初の長距離伝送に成功した「海底光伝送」について紹介。「とくに、4コアの海底光ファイバーケーブルは、NECしか実用化できていない。メタバースやビヨンド5G、6Gといった用途にも活用できる」とした。
さらに、安心、安全という観点では、「デジタル庁をはじめとする政府、自治体のデジタル化や、スマートシティの実現においては、個人のデータをセキュアに管理することが重要になる。そのためには、ひとつの技術ではなく、個人認証、秘密計算、ブロックチェーン、セキュアストレージなど、複数の技術が必要であり、NECはこれらの技術においてナンバーワンである。信頼できるベンダーとして提案ができる」と自信をみせた。
NECが蓄積してきた「技術の系譜」
NECの研究開発体制は、ここ数年で大きく変化している。
その最大の変化が、研究開発と事業と緊密につなげる体制を構築している点だ。
NECが持つ技術を活用しながら、新たな事業の創出を加速する動きが、すでに成果につながっている。
その動きをさらに加速する役割を担うのが、2021年4月1日付に行った研究開発部門の組織改革だ。
ここでは、従来のビジネスイノベーションユニットと、研究・開発ユニットを統合し、「グローバルイノベーションユニット」を設立。これにより、研究開発と新事業開発を一体化している。
グローバルイノベーションユニットには、6つの研究組織と、4つのビジネス開発を行う組織に加えて、知財に関する組織、宇宙や防衛といった各ビジネスユニットが持つ技術を活用するための組織で構成。本社機能として、将来に向けたマーケティングを行う組織や、デザインを行う組織と連携している。
「従来は、研究開発の応用や新規事業の開発は、一部の人たちが行い、連携が少なかったが、これをひとつの組織として取り組むことができるようになった。事業化の成果を1桁増やしたい」と意気込む。
NECは、1939年に研究所を設置。その後、企業の成長や社会環境の変化にあわせて、研究所の形態を変更。1980年以降は海外拠点も開設し、国内4つの研究所に加えて、欧州、北米、中国、シンガポール、イスラエル、インドにも研究所を持つ。
そして、西原CTOは、NECが30年以上に蓄積してきた「技術の系譜」について触れる。
「一人の技術者が開発したものが、数珠のようになって発展し、別の技術と絡み合って、さらに進化していく。それによって、筋のいい技術を、盆栽のように丁寧に育てることができる。一方で、これまでになにも蓄積がなかった技術が、天才ともいえる技術者によって新たに生まれることがある。その際には、チームを作ってサポートし、その種を育て上げてきた」と、NECの研究開発体制の基本姿勢を示す。
現在、NECには、コンピューティング、無線通信、光通信、暗号、協働ロボティクス、分析・予測・最適化、音声・自然言語処理、信号処理・符号化、実世界認識という9つの分野の技術において強みを有しており、それぞれの技術の進化とともに、これらの技術が連携し、進化していくことになるという。
たとえば、顔認証技術は、AIの世界3大巨頭の一人と言われるヤン・ルカン氏が、かつてNEC北米研究所に在籍。その時期に、北米研究所におけるAIの研究開発体制を強化するとともに、国内の研究所との連携を強化。それにより、AIに関する優秀な人材を育成し、その成果が、現在の世界ナンバーワンの顔認識率の達成につながっている。
また、こうした強いコア技術に成長する種を、「技術の系譜」のなかから見つけだし、それらを組み合わせて発展させ、新たな価値を作る仕組みを「技術マンダラ」と称し、「技術起点と、事業ニーズ起点から、技術と事業が組み合わさることで生まれる、将来の新しい可能性を探っている」とし、「通信はNECの祖業であるが、通信技術へのAIの活用は、当初は想定していなかったものである。NECが持つ先端技術が関連しあって生まれた開発事例のひとつでもある」と、「技術の系譜」による実績を示した。
グローバルイノベーションユニットの設置を前に、NECでは、研究と事業化の連携を徐々に推進してきた経緯がある。
「2017年から、中央研究所のマネタイズ強化や将来市場探索機能が強化され、さらに、2018年に設置した新事業開発をリードするビジネスイノベーションユニットによって、研究と事業化との連携が増加してきた」と振り返り、この数年間で、研究開発をもとにした新事業開発で、具体的事例が数多く生まれていることを示す。
シリコンバレーのエコシステムを活用したインキュベーション特化型事業開発会社であるNEC Xでは、NECの最先端技術を核とした事業化を推進。アウトバウンド型オープンイノベーションにより、3つの事業会社がスピンアウト。2つのプロジェクトが、事業化に向けて準備段階にある。2021年には、Alchemist Acceleratorとのパートナーシップを発表したところだ。「NECの技術を理解したベンチャー投資家や起業家ネットワークが拡大しており、新事業の開発を強化していくことができるようになっている」という。
また、データ分析プロセスの自動化技術を活かし、世界トップレベルのAI技術研究者がカーブアウトして起業したdotDataは、70社以上に有償サービスを提供。米調査会社のフォレスター・リサーチによると、機械学習自動化分野では、すでにリーダーに認定されている。
「dotDataおよびNECのデータドリブンDX事業部において、データを起点とした新たなビジネスを創出している」とする。
さらに、事業会社や金融、アカデミアなど6社とのジョイントベンチャーによる日本発の共創型R&D事業会社としてスタートしたBIRD INITIATIVEでは、2021年度の売上高は前年比7倍に拡大。2022年度中に2つのプロジェクトがカーブアウトする予定だという。現在、デジタルツイン、ドローン、SCMなどの領域で共創型R&Dが進んでおり、2025年までに、6件のカーブアウトを目指しているという。
加えて、グローバルオープンイノベーションによるAI創薬への取り組みを実施。最先端AIを用いた個別化がん免疫療法の開発に取り組んでおり、2021年11月には、Transgeneとの協業で、第1相臨床試験において良好な予備的データを報告できたという。
「AI創薬では、2025年の事業価値3,000億円に向けて着実に事業成長を遂げている」とし、「いずれも、NECが持つ強い技術と、市場性を掛け算して、生まれた新事業である。これまでは研究開発と新事業開発が必ずしも一体化していなかった。いままでNECが踏み込めなかった市場に進出することができ、新たなイノベーションを起こすことができた」と語る。
そのほかにも、食品加工業であるカゴメとの戦略パートナーシップにより、生産者をAI技術とエコシステムで支援する農業支援ソリューションのCropScopeを提供。さらに、先進ベンチャーとの協業や、クラウドファンディングを通じた消費者ニーズの検証を行うSmart Wellnessへの取り組みでは、靴のインソールに搭載したセンサーを用いて、歩行の質を計測したり、インバリアント分析やモデルフリー分析といったNECの技術を活用して、大規模システムの膨大なセンサーデータから異常予兆を早期に検知するソリューションなども開発しているという。また、大手企業や大学との取り組みでは、NTTと情報通信インフラにおけるサプライチェーンセキュリティリスクへの対策技術を開発。大阪大学とはNEC Beyond 5G協働研究所の設置を発表している。
未来投資ファンドも、研究開発と新規事業開発の融合で事業創出
今回のNEC Innovation Dayでは、新たにNEC Orchestrating Future Fundを設立したことも発表した。
NEC Orchestrating Future Fundは、NECが中心となって外部資金を投入する新たなファンドであり、約170億円の規模を予定している。「5G/6G」、「スマートシティ」、「デジタルガバメント/デジタルファイナンス」、「DX」、「ヘルスケア・ライフサイエンス」、「カーボンニュートラル」の6つを注力投資分野に定めている。「NECに関係が深い事業領域において、スタートアップ企業などと一緒にソリューションを開発していくことになる。アーリーステージに加えて、レイトステージのスタートアップ企業への投資も行い、共創およびエコシステムの形成を図っていくことになる」と述べた。
一方で、西原CTOは、「NECでは、テクノロジーを社会に実装するには、マーケットインテリジェンス、技術開発、ビジネス開発、社会受容の4つのポイントがあると思っている。それを実現するために、オンリーワンやナンバーワンの技術を軸にしたR&Dにおける共創拡大、社会にインパクトのある新事業領域への挑戦、そして、社会受容を醸成するためのソートリーダーシップが大切である」と述べる。
続けて、「今後は、NECが掲げている『NEC 2030 VISION』をベースに、ヘルスケアやライフサイエンス、カーボンニュートラルといった領域においても新規事業の創出に取り組む」という。
ヘルスケア・ライフサイエンスでは、BostonGeneとの協業により、AIを活用した創薬のほか、がん患者向けの個別化治療を実現するための支援を開始。カーボンニュートラルへの取り組みでは、産業、政府、都市の全領域をまたぐサプライチェーン全体での最適化によって、グリーン基点の社会インフラの構築、産業革新につなげていく取り組みを開始したという。
ここでは、都市OSと位置づけられるFIWAREを取り上げた。
NECでは、欧州研究所が早い段階からFIWAREの取り組みに関与。FIWAREのボードメンバーの1社として、技術開発や技術運営、標準化、市場適用、国際化をリードしてきた経緯がある。2017年2月には、日本企業で唯一、FIWARE Foundationプラチナ会員に登録された。
現在、NECは、国内13地域のスマートシティプロジェクトに参画。スーパーシティプロジェクトでは、17自治体に事業者として参画し、そのうち、データ連携基盤およびサービス事業者での参画は12自治体、全体の取りまとめ役としての参画が4自治体となっている。ここでもFIWAREを活用しており、NECがこれらのプロジェクトで重要な役割を担う要因のひとつになっている。
「ここでは、ソートイニシアティブの取り組みが重要になると考えている。欧州でのFIWAREに続いて、GAIA-Xにも参画した。FIWAREの規格策定ではNECがリードしてきたが、GAIA-Xにおいても深く関与し、NECがリードする立場になりたい」と語る。
「NECは社会価値創造を支える企業を目指している。実世界の情報を見える化し、サイギー空間で分析し、それを実社会に返すことで、課題解決に貢献したい。実世界の制約を超えることができるサイバー空間を活用して、ヒト、モノ、コトに新たな価値を提供したい」と宣言する。
研究開発分野における新たな仕組みの導入や、優秀な人材の確保、育成に向けた新たな取り組みにも余念がない。
たとえば、グローバルイノベーションユニットでは、スタートアップ企業やベンチャーキャピタリストが用いる手法を、NECという大企業のなかに取り込むために、独自の定量的な事業開発プロセスを導入している。
「すべてのプロジェクトに、事業価値の算出方法や新事業開発向け業績評価方法を適用している。これをブラッシュアップしながら、他のビジネスユニットで生まれる新規事業にも活用していくことになる」とする。
こうした新たな評価指標の導入もグローバルイノベーションユニットの役割のひとつになる。
そして、優秀な研究者の採用や育成にも力を注いでいる。NECでは、2019年度から、若手のトップ研究者を対象に、研究者の市場価値を考慮して、報酬に上限を定めない「選択制研究職プロフェッショナル制度」を導入。20人がこの制度の対象となっており、北米での採用活動では、同制度を適用した新卒者も入社したという。また、インドでは、9年前から、インド工科大学(IIT)からの採用活動を行っており、これまでに39人を研究職として採用。現在、国内研究所の外国籍社員の割合は9%に達しているという。さらに、2018年度からスタートした事業開発職高度専門職制度では、AI創薬領域などに続き、2021年度から新たにデータドリブンDX領域で、Executive Analytics Consultant Leadという新たなポジションを設置し、高度人材を社内外から登用する考えも示した。
「NECの研究所には、起業家精神を持っている人と、ひとつの領域を極めたいという人がいる。そうした人たちがチームとして、それぞれの特徴を生かすことができる環境を用意している。北米研究所では、GAFAからNECに移籍する人が増えている」という。
NECは、2021年4月に発表した「2025中期経営計画」において、研究開発と新規事業開発の融合によって、事業化を加速することを打ち出したほか、初年度となる2021年度は研究開発投資を約200億円増の1,300億円に増額。5G市場の立ち上げや、顔認証などのDigital IDプラットフォーム、DXを推進するためのNEC Digital Platformといった共通技術基盤を早急に立ち上げ、中期経営計画達成にむけたスタートダッシュにつなげる考えだ。
そうした取り組みにおいて、2021年4月にスタートしたグローバルイノベーションユニットが果たす役割は大きい。
NECの中期経営計画の達成に向けた重要なピースになるのは間違いない。