東芝は、政府が掲げた「2050年までに、カーボンニュートラルを実現する」という目標達成に向けて、各種技術やソリューションを通じて貢献する姿勢を示している。同社はその内容について説明を行った。

東芝エネルギーシステムズ 取締役常務兼統括技師長の四柳端氏は、「東芝は、持続可能な社会の実現に向けて、『つくる』、『おくる』、『ためる』、『かしこくつかう』といった観点から、社会全体に、安全、安心な技術とエネルギーソリューションを展開している」と語る。

  • カーボンニュートラルをチャンスと捉える東芝、水素が重要なピースに
  • 東芝はカーボンニュートラルの実現に向け、社会全体にソリューションを展開していく

カーボンニュートラルは大きな成長のチャンス

2021年5月14日に、東芝の綱川智社長兼CEOが発表した経営方針のなかでも、「東芝は、インフラサービスの具現化によって、カーボンニュートラルの実現に向けた課題を解決していくことを、大きな成長のチャンスと捉えており、東芝グループの持つ技術、顧客基盤をさらに強化すべく先行投資をしていく」(東芝の綱川社長兼CEO)と発言。太陽光や水力、風力などの「再エネ」、パワー半導体やエネルギーマネジメントによる「省エネ」、新型太陽光やCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage=二酸化炭素の回収、有効利用、貯留)、水素などの「新技術」、系統増強やVPP(バーチャルパワープラント=仮想発電所)による「エネルギーマッチング」という4つの領域に投資し、貢献していく姿勢を明らかにしている。

  • 東芝の綱川社長は「カーボンニュートラルの実現に、東芝グループの持つ技術、顧客基盤をさらに強化すべく先行投資をしていく」と話す

  • 東芝の考えるカーボンニュートラル社会の姿

東芝エネルギーシステムズの四柳氏は、「つくるという点では、再エネの主力電源化を目指し、カーボンニュートラル電源を実現。これを、電力系統を通じておくり、VPPにより送電力を高めるとともに、気象情報やデマンドレスポンスも取り入れる。また、ためる技術では、蓄電池、P2G(Power to Gas)、蓄熱の技術があり、これをモビリティ分野での電化の推進、パワー半導体を含めたエレベータ、産業機器を通じた省エネ、CO2を資源化するP2C(Power to Chemicals)ソリューションにもつなげる。エネルギーのありかたをデザインし、社会に貢献する」と述べた。

  • 「つくる」「おくる」「ためる」「かしこくつかう」と全領域にわたる東芝のエネルギーソリューション

再エネ発電システムでは、太陽光発電によるメガソーラーの建設、産業用の太陽光パネルの販売、新たな太陽電池の技術開発に取り組んでいる。

新型太陽電池の開発では、低コストと軽量化を目指すフィルム型ペロブスカイト太陽電池と、高効率と軽量化を目指すタンデム型太陽電池の2種類をあげる。

東芝エネルギーシステムズ 送変電ソリューション技師長の小坂田昌幸氏は、「フィルム型ペロブスカイト太陽電池は、下敷きのように曲がり、軽いという特性がある。メニスカス塗布技術を活用することで大面積、高効率、低コストの太陽電池が生産できるほか、フィルムに乗せることで、ガラス型に比べて、10分の1の軽量化が図れる。この特徴を生かして、ビルの壁面に設置したり、窓のシースルー化、太陽光パネルが設置できなかった工場やビニールハウスの屋根にも設置できる。また、タンデム型太陽電池は、従来の太陽電池の上に乗せることで、違う周波数帯の光を吸収して、より高効率な発電ができるものになる」という。

また、風力発電では、風況解析技術のほか、建設、運用、保守までの事業領域をカバー。洋上風力発電については、2021年5月にGEとの提携を発表し、GEの洋上12MW機のHaliade-Xの技術や、ナセルの組み立てに必要な情報を共有。国内においては、東芝が組み立てを実施するなど、日本における洋上風車のサプライチェーン構築を目指す。さらに、東芝では、陸上風力で培った風況解析技術をベースに、洋上風況解析技術を高度化。最適な立地や配置、運用条件を提案するという。ここでは、九州大学や日立造船、東京ガス、ジャパン・リニューアブル・エナジーと、発電量を最大化する配置設計に向けた共同研究を進めていく。

  • 洋上風力発電でGEと提携

さらに、風車データをシームレスに連携し、分析、可視化することで、O&M(運用および保守)業務の効率化を実現する風力O&Mデジタルソリューションを提供。出力と比例して機器の温度が上昇していることなどを検知し、AIを活用して風車を停止するといった判断も行うという。

「太陽光発電、風力発電に関しては、案件開発や発電所の計画、設計、施工、運用、保守に加えて、リユースやリサイクルまでをワンストップで対応していく」(東芝エネルギーシステムズの小坂田氏)という。

太陽光発電所診断では国内トップのCO2Oとの業務提携も検討しており、発電所評価とリパワリングを含めたO&M事業を拡大していく考えも示した。

  • 新型太陽電池の開発にも取り組んでいる

送配電ソリューションでは、100年以上の歴史を持つ強みを生かしながら、安定化を図る保護制御装置や系統用計算機などの系統制御システム、直流送電システムや無効電力補償装置などの直流・パワエレシステム、ガス絶縁開閉装置や変圧器などの変電機器、SCiBを使用した大型蓄電池システムを事業化している。

「電力ネットワーク拡大に向けた様々な直流送電を提供しており、新北海道・本州間直流連系設備では、日本初の自励式を採用している。2021年3月には、飛騨信濃周波数変換設備が稼働し、広域連携に貢献している」(東芝エネルギーシステムズの小坂田氏)とした。

また、明電舎と自然由来ガス絶縁開閉装置を共同開発。2022年3月までに形式試験を完了し、2022年度中に量産を開始するという。同装置は、SF6代替ガス検討会が提言する7つの要件に完全適合しており、温室効果ガス排出の削減に貢献できるという。

さらに、送配電のDXにも取り組んでおり、異常判別のノウハウと、センサーによるオンライン監視を融合。変電所の保全に関する情報をダッシュボードに表示して一元管理を可能としたほか、設備の故障予兆の事前検出にも活用。今後、サービスメニューを拡張していくことになるという。

東芝では、VPPへの取り組みにも積極的だ。VPPは、節電ネガワット、蓄電池、バイオマス、太陽光発電、風力発電、電気自動車、水素などの分散リソースをIoTで束ね、最適に制御し、付加価値を提供するデジタルを活用した仮想発電所。

「東芝が長年培ってきた系統技術やIoT技術を活用し、調整力の提供、地域活用電源の提供、レジリエンスの強化につながる」(東芝エネルギーシステムズの小坂田氏)としている。

東芝では、2020年11月に、世界最大のVPP事業者であるドイツのネクストクラフトベルケと合弁で、東芝ネクストクラフトベルケを設立。再エネ事業者向けの支援サービスをSaaSで提供。再エネのインバランスリスクを低減したり、収益の最大化を支援したりすることができるという。

「VPP as a Serviceとして、必要な機能を、必要な形式で、簡単に提供するサブスクリプションサービスを開始する。東芝がサービスの運用も代行するオペレーション型、顧客が運用するUI提供型、顧客システムのUIで操作が可能なAPI提供型を用意。ニーズに合わせたサービスを提供し、顧客の実現したい価値を共創していく」という。

VPPにおいては、東芝のノウハウを活用した予測技術を活用。電力需要予測、太陽光発電量予測、市場価格予測により、VPPの運用を高度化するとともに、オペレーションを通じた学習や改善を継続的に行うという。

さらに、経済産業省の再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業には、東芝ネクストクラフトベルケと東芝エネルギーシステムズが、コンソーシアムリーダーとして参画。アグリゲーター17社、実証協力者11社とともに、多数の再エネリソースを束ねた場合のインバランスリスクの低減、収益向上効果を検証するという。

「再エネと需要のエネルギーマッチングを通じた電力の最適需給により、カーボンニュートラルの実現に貢献できる」とした。

水素はキーテクノロジー、燃料電池の開発も加速

一方、東芝では、水素エネルギーソリューションを、カーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な技術に位置づけている。

  • 2050年のCO2排出量ゼロに向け、水素エネルギーを重要な技術に位置づけた

東芝エネルギーシステムズ 水素エネルギー技師長の佐藤純一氏は、「CO2排出量削減に向けて、水素の役割は大きい。電力由来のCO2排出量の削減においてはP2G、産業や運輸からのCO2排出量の削減ではP2C、移動体FCなどで貢献できる。水素は幅広い分野で活用が期待されるキーテクノロジーである」とした。

P2Gソリューションでは、再エネ比率の増加に伴い、系統品質の維持のために、系統調整力や余剰電力活用が重要になるのにあわせ、ガスを活用することで、系統の安定化を図ることができたり、エネルギー転換によって、CO2フリー水素の供給を実現。エネルギーコストの削減やエネルギー国産化率の向上などにも貢献できるという。

  • 東芝の水素エネルギーソリューション

2020年3月には、福島県浪江町で、世界最大規模のP2Gシステムを完成。同年7月から実証試験を開始している。電力から水素を作り水素を作り、貯め、供給する機能のほか、電力系統の需給バランス調整に水素を活用できることを検証している。

「福島県内で、燃料電池を活用して、CO2フリー水素を利活用している。さらに、機械学習や数理最適化技術を活用することで、最適で高精度な制御を実現することも目指している」(東芝エネルギーシステムズの佐藤氏)という。

  • 福島で世界最大規模のP2Gシステムが完成。実証実験を開始している

P2Cソリューションでは、「CO2を、いかにネガティブにしていくか、リサイクルしていくかが重要な技術になる。CO2排出施設から、効率よくCO2を分離、回収し、そのCO2を用いて、電気分解をして、COを取りだして水素と合成。燃料や化学原料に変える取り組みになる」(東芝エネルギーシステムズの佐藤氏)と説明。2015年に開発した人工光合成開発セルを発端に、研究開発を進めており、将来的には100MW級のCO2電解装置の開発を目指しているという。ここでは、高電流密度化に加えて、セルの大面積化およびスタック化がCO2処理速度の向上につながり、「すでに、初期の装置に比べて、CO2処理速度は10万倍に達している。今後、大面積化、多積層化を進め、製品化につなげたい」とした。

東洋エンジニアリング、出光興産、全日本空輸、日本CCS調査とともに、カーボンリサイクルのビジネスモデルの検討を開始しており、産業設備の排出ガスなどから分離回収したCO2を原料として、航空機向けのジェット燃料に転換することを目指している。

なお、東芝は、2020年12月に、水素社会の実現を推進するために、民間企業9社によって設立した水素バリューチェーン推進協議会にも参画している。

そして、燃料電池システムでは、定置用燃料電池システムの小型、高効率、大容量化を進め、2021年度に発売予定の100kWモデルでは、2017年に発売した製品に比べて、容積で60%、重量で50%削減することになるという。また、これを10台連結して、1MWの燃料電池システムとして提案することができ、マルチ化によって最大10MWまで大容量化が可能になる。

  • 定置用燃料電池システムの小型、高効率、大容量化を進める

さらに、移動体用燃料電池の開発にも取り組んでおり、低調燃料電池のノウハウを活用して、船舶や鉄道などに求められる長寿命、連続定格出力が求められる用途にフォーカス。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて、移動体用燃料電池「H2Rex-Mov」の開発に着手している。船舶用では、川崎重工、日本郵船、日本海事協会、ENEOSとともに、2020年度から実証実験を開始。2024年度に、水素燃料の供給を伴うFC搭載船の実証運航を目指しているという。「船舶分野のバリューチェーン全体を対象とした日本初の実証事業になる」という。

  • 移動体用燃料電池システムも開発中。船舶や鉄道への適用が見込まれ、船舶用では2020年度から実証実験を開始している

同社では、2020年に、燃料電池の製造ラインを横浜市磯子から川崎市浮島に移転して、生産能力を向上。「水素社会の到来に向けて、燃料電池を増産することが狙いである。新工場の生産整備には数多くのセンサーが搭載されており、異常検知や予測、診断、モニタリングができる。サイバーとフィジカルを組み合わせながら、デジタル化を推進していくことになる」とした。

このように東芝では、グループ各社が保有する技術と、最新の研究成果を組み合わせて、2050年までに、カーボンニュートラルを実現するという政府目標の達成に向けた貢献を目指している。2021年10月に発表される予定の新たな中期経営計画においても、エネルギーソリューションへの取り組みは、重要な柱のひとつになりそうだ。これが、新たな中期経営計画にどんな形で練り込まれるのかという点にも注目をしておきたい。