6月4日に開催されたデジタル・ガバメント閣僚会議において、今後の「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」が決定されました。同日の管官房長官の記者会見でも、この件が触れられ、「マイナンバー関係では、マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用推進に向け、自治体プレミアムポイントを活用した消費活性化策の早期具体化、マイナンバーカードの健康保険証利用、各自治体におけるカードの円滑な取得の促進策を柱にした各種施策を着実に推進します。」と語られています。

5月には、「マイナンバーカードの健康保険証利用」を可能にする健康保険法等の改正が、国会で成立しています。政府としては、「マイナンバーカードの健康保険証利用」を、マイナンバーカード普及へ弾みをつける施策と位置づけ、そこに向けて、様々な施策を講じてマイナンバーカードを普及させたい考えです。

今回は、マイナンバーカードの普及について、政府の動きをみていきましょう。

マイナンバーメールマガジンでもマイナンバーカード普及へ

内閣府大臣官房番号制度担当室が発行する「マイナンバーメールマガジン」をみなさんご存知でしょうか。内閣府のマイナンバー特設ページから登録すれば、誰でも受け取れるメールマガジンです。

マイナンバー制度が施行された2015年に第1号が発行され、その後だいたい月1回から2回のペースで発行されてきましたが、2018年11月に第39号が発行されてから数カ月発行されませんでした。その「マイナンバーメールマガジン」が、2019年3月に第40号が発行されてから、最新の6月28日発行の第49号まで、一気に発行ペースが上がってきました。

この3月からの内容をみていくと、以下のようになっています。

・3月15日 第40号【マイナンバーカードに関する「疑問」「不安」……お答えします!!】
・3月28日 第41号【マイナンバーカードに関する「疑問」「不安」にお答えします!!その1】
・4月12日 第42号【マイナンバーカードに関する「疑問」「不安」にお答えします!!その2】
・5月20日 第43号【マイナンバーカードに関する「疑問」「不安」にお答えします!!その3】
・5月31日 第44号 マイナンバーカードの普及に熱心に取り組む自治体を紹介 ★すてきな自治体 Vol.1★
・6月5日 第45号【マイナンバーカードの普及を一層進めていくことになりました!】
・6月7日 第46号【「国と地方の協議の場」でマイナンバーカードの普及が議論されました!】
・6月13日 第47号【iPhoneでマイナポータルにログインできるようになります!】
・6月24日 第48号【骨太の方針2019が閣議決定されました!】
・6月28日 第49号 マイナンバーカードの普及に熱心に取り組む自治体を紹介 ★すてきな自治体 Vol.2★

このように、この期間のマイナンバーメールマガジンの内容は、ほぼマイナンバーカードの普及をテーマにしたものになっています。

そのなかで、3月の第40号から4回にわたって、【マイナンバーカードに関する「疑問」「不安」……お答えします!!】というタイトルで、連載されている内容は、「マイナンバーカードの健康保険証利用」に対する、「疑問」や「不安」に答える内容になっています。

第41号の「その1」では、「マイナンバーカードを健康保険証として使うってことは、例の12桁のマイナンバーを使うんでしょ?」という疑問・不安に対して、マイナンバーではなくマイナンバーカードに格納された電子証明書を使うことが説明されています。

第42号の「その2」では、「マイナンバーカードに、どうやって健康保険証の情報を入れるの?マイナンバーに健康診断の結果や病歴を結びつけるのはやめてほしい!」という疑問・不安に対して、以下のように、マイナンバーカードの電子証明書を使う仕組みが、説明がされています。

「健康保険証の情報はマイナンバーカードに入りませんし、ましてやマイナンバー自体に結びつくことはありません。」「マイナンバーカードを健康保険証として利用し始める際には、カードの電子証明書と、あなたがどの公的医療保険に加入されているかといった情報を結び付けておきます」「あなたご本人が病院などの窓口でマイナンバーカードをカードリーダにかざすたびに、あなたが加入されている公的医療保険の保険者(みなさまの健康保険証の発行元)から、加入の確認がとれるのです。」

第43号の「その3」では、「そもそもマイナンバーカードって、持ち歩いて大丈夫なの?」という疑問・不安に対して、マイナンバーカードには機微な情報は入っていないこと、他の人にマイナンバーを知られても何もできないと説明されています。なので、「怖くて自宅に置いたまま、という方もいらっしゃると思います。でも、どうか安心して持ち歩いていただけたらと思います。」と、マイナンバーカードを持ち歩くことを勧めています。 この、「他の人にマイナンバーを知られても何もできない」という言い方には、違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。

マイナンバーカードには、「氏名」、「住所」、「性別」、「生年月日」の個人4情報が記載されていますから、マイナンバーカードを紛失すると、個人4情報とマイナンバーを結びつけて、他人に知られることになります。

それでも、このメールマガジンでは、「マイナンバーを提供する際には、必ず顔写真入りの身分証明書で「本人確認」が求められるからです。また、電子申請などの手続の際には、あなた自身が設定したパスワードの入力が必要になるからです。」そのため、「マイナンバーカードを紛失したり、誰かに盗まれたりしても、それだけでは、行政の窓口等で手続を行うことやあなたの情報を知ることはできません。」としています。

ここまで「他の人にマイナンバーを知られても何もできない」と言い切るのであれば、企業が従業員などのマイナンバーを収集・管理する場合に、何故「特定個人情報」として厳しい罰則規定が用意されているのでしょうか。マイナンバー制度が施行された際に、安全管理をうたったマイナンバー管理のシステムが次々に登場し、多くの事業者が、コストをかけてシステム導入してきたのも「特定個人情報」として厳しい罰則規定があったからです。

個人4情報とマイナンバーが券面に記載されたマイナンバーカードを、紛失しても大丈夫というのであれば、マイナンバーを含む個人情報を「特定個人情報」として位置付ける必要はないのではないでしょうか。「特定個人情報」だから、コストをかけてマイナンバーを管理している企業や士業の皆さんからみると、個人4情報とマイナンバーを他人に知られることは、「特定個人情報」の漏洩というようにみてしまいます。

このような見方をしてしまう状況を作ったのは、マイナンバー制度施行前後に、政府がマイナンバーに関して、安全管理措置などという言い方で厳しい管理が必要だと広報してきたからです。

マイナンバーを「特定個人情報」ではなく、通常の「個人情報」に改めるくらいの、インパクトのある法改正をやらないと、マイナンバーメールマガジン第43号に書かれていることを、説得力のある内容として国民に納得させることはできないのではないでしょうか。

このメールマガジンは、以降もマイナンバーカードの普及に焦点を当てた記事が続いています。6月5日の第45号では、6月4日に決定された「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」が取り上げられ、その後もマイナンバーカードの普及を促す記事が続いています。

3月以来、「マイナンバーカードの健康保険証利用」を可能とする法案の成立や、「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」の決定を見据えて、マイナンバーメールマガジンもマイナンバーカードの普及を促す内容に集中してきていることがわかります。

マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針

それでは、6月4日にデジタル・ガバメント閣僚会議で決定された、「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」の内容をみてみましょう。 (図1) は、「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」から、「マイナンバーカードの普及促進等のポイント」として、示された資料です。

マイナンバーカードの普及促進等のポイントとして、具体的には、3つの施策が掲げられています。

1.の「自治体ポイントの実施」は、すでに自治体ポイント運用の基盤となるマイキープラットフォームの構築などが行われ、2017年9月に運用が開始されています。ただし、実際に自治体ポイントを運営している自治体は、現時点で極めて限られています

この1.の「自治体ポイントの実施」は、すでに運営されている自治体ポイントと何が違うのでしょうか。(図1)で、「令和2年度に予定されている自治体ポイントの実施にマイナンバーカードを活用。」と書かれているように、総務省では、新たなホームページを立ち上げています。これまでの自治体ポイントをリニューアルするようなイメージは伝わってきますが、何がどう変わって便利になるのか、また、何よりも自治体ポイントの運営に参加する自治体が増えて、全国どこでも身近なものになるのかといった点は、何もわかりません。

2017年9月に運用が開始された自治体ポイントが、普及しないまま、今に至っていることの反省については、特に触れられることなく、「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」では、「マイナンバーカードを活用した自治体ポイントによる消費活性化策が円滑に実施されるよう、本年末までに、マイキープラットフォーム運用協議会への全地方公共団体の参加を促すとともに、市区町村と都道府県の連携体制を整備する。」とだけ書かれています。これにどれだけの実効性があるのかは、今後みていくしかないようです。

今回の「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」の目玉である、2.の「マイナンバーカードの健康保険証利用」については、前々から検討されてきたこともあり、具体的なスケジュールが明示されています。

・令和3年(2021年)3月 マイナンバーカードの健康保険証利用の仕組み本格運用
・令和4年(2022年)度中 概ね全ての医療機関での導入を目指す
本年(2019年)8月に、そのための具体的な工程表を示す
医療機関等の読み取り端末、システム等の早期整備に対する十分な支援を実施
・本年(2019年)8月を目途に、保険者等(保険組合等)の被保険者へのカード取得促進策を公表
本年度中 国家公務員や地方公務員等による本年度中のマイナンバーカードの取得を推進

これを見る限り、「マイナンバーカードの健康保険証利用」については、システムの構築や、医療機関への配慮、マイナンバーカード取得促進と、それぞれに目配りした計画になっているようです。

マイナンバーカードの普及促進では、この「マイナンバーカードの健康保険証利用」が目玉であり、3.の「マイナンバーカードの円滑な取得・更新の推進」は、「マイナンバーカードの健康保険証利用」をサポートする施策となっています。ただし、その内容は「令和4年度中にほとんどの住民がマイナンバーカードを保有していることを想定し、国は具体的な工程表を8月を目途に公表。市町村ごとのマイナンバーカード交付円滑化計画の策定の推進と定期的なフォローアップを行うとともに必要な支援を実施。」としているだけで、マイナンバーカード交付の円滑化というのが、どれだけ現状を改善する内容になるかまではわかりません。いろんなことが、この8月に公表されることになっていますので、2.の「マイナンバーカードの健康保険証利用」や、3.の「マイナンバーカードの円滑な取得・更新の推進」が、具体的にどのように進捗していくのかは、8月を待ちたいと思います。

率直に言えば、ここまでマイナンバーカードが普及してこなかったのは、マイナンバーカードを持っていなくても、デメリットを感じることはなく、また、持っていてもメリットを感じられないからです。「マイナンバーカードの健康保険証利用」がメリットを感じられるものであるならば、マイナンバーカードの普及に大きく弾みがつくことになります。その一方で、マイナンバーメールマガジンが、「マイナンバーカードに関する「疑問」「不安」……お答えします!!」といった特集を組まなくてはならない現実があります。現にある「不安」が解消できなければ、「マイナンバーカードの健康保険証利用」も、仕組みは作ったが、マイナンバーカードの取得が進まず、みんなが、従来通りの健康保険証をそのまま利用するような事態になりかねません。

前項で書いたように、マイナンバーの「特定個人情報」という位置付けそのものも、この際、再考する必要があるのではないでしょうか。

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、同社最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。