新型コロナウィルス感染症の影響による外出自粛により、イベント業、飲食業、旅行業などが大きな打撃を受けている。

だが、逆に言うと屋内活動に対する需要は高まっているとも言える。

娯楽で言うと、電子書籍や動画配信、そしてゲーム業界などは伸びているのではないだろうか。

そんな社会情勢も相まって現在空前のヒット商品になっているのがNintendo Switch用ゲームソフト「あつまれどうぶつの森」略して「あつ森」である。

「熱盛!」じゃない方のあつもりが大流行している

あつ森は人気シリーズ「どうぶつの森」の最新作であり、すでに20周年を迎えるゲームだが、人気は衰えることなく「あつもり」は世界で1,300万本の大ヒットになっているという。

「どうぶつの森」がどんなものかというと、プレイヤーがとある村に移り住み、そこにいる獣どもとコミュニケーションをとりつつ、買い物や釣り昆虫採集に興じたかと思えば突然部屋のインテリアに凝り出したりするという、実家が太い大学二年生ぐらいフリーダムに暮らすスローライフゲームである。

基本的に何をするかはプレイヤーの自由であり、クリアという概念はない。

最新作の「あつ森」では舞台を「島」に移し、無人島を開発するという設定で、様々な追加要素あるが、どう過ごしても良い、という基本方針は変わっていない。

どうぶつの森シリーズが何でこんなにウケているのかというと、奇しくも社会情勢にマッチしてしまったのもあるが、対象としている層が広いという点ではないだろうか。

眼球が顔面の半分を占有している美少女がたくさん出たり、鋭利な髪型に何を留めているのかわからないベルトだらけの服を着たイケメンが出てくるゲームに対し、どうぶつの森は「どうぶつ」という割と相手を選ばないキャラクターを使っているというのももちろんある。

だが、それ以前にゲームというのは「ゲームをやる人向け」に作られていることが多い。

平素からゲームをやる人間なら「お前は勇者で魔王を倒しにいけ」と言われたら、「あーそーゆーことね完全に理解した」となって、流れるように銅のつるぎを装備しはじめるが、全くやらない人からすると、その時点で何をやっていいかわからないのだ。

現にドラクエ1も、いざスタートさせたらRPGをやったことない子どもの多くが、最初の街にすらたどり着けなかったので、城の中から懇切丁寧な説明セリフつきでスタートさせたという逸話すらある。

だが、あつ森は何をしても良い。つまり「何をしていいかわからなくてもプレイできる」ということではないか。よって平素ゲームをやらない人間が安易に手を出しても「なんだこれワケわからねえ」となりづらい。当然ドラクエ1ができない子どもでもプレイできる。

さらに、あつ森は、部屋のインテリアや服装だけではなく、島全体をコーディネイトできる。中には変態としか思えない凝った島を作っている人もいる。

そういったイケている、もしくはイカれているあつ森のプレイ画像は非常にSNS映えするため、それを見た人がまた「おもしろそう」とプレイしはじめるという、今のSNS社会に非常にマッチした作りになっている。

自粛つらたん派とひきこもり最高派でも反応違うかもね

だがここまで書いておいてなんだが、私はどうぶつの森シリーズはスマホ版を少しいじったぐらいで、本格的にプレイしたことがない。

知っていることと言えば、皆が邪知暴虐の「たぬき」を除こうとしているのと、突然「しずえー!しずえー!」という奇声を発する成人男性を生んだというぐらいだ。

そんなエアプ野郎が「あつ森のここがすごい」と言っても、「あつ森のことを調べてみました!」という、クソまとめサイトと変わらないので、この機会に実際あつ森をプレイしている人に話を聞いてみることにした、

なのだが、すると何故か「あつ森楽しめない勢」ばかり集まってしまった。

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メジャーになれない奴のところには、メジャーに乗り切れない奴しか集まらないということだろうか。

だが、あつ森の楽しさは他の人がたくさん語っていると思うので、せっかくだから「楽しめない」という意見を聞いてみた。

とは言え、その者たちの意見は「あつ森のここがダメ!」という「ダメだし」ではない。一様に「あつ森は素晴らしいゲームですが、それを楽しめる能力とセンスが私にはありませんでした」という、「あつ森の良さをオレが殺しました」という自首と懺悔をはじめるのである。

この有り様に当初、ファッションやインテリアに興味がない、家は住めれば、服は着られれば、つまみは焙ったツャブでいいというタイプの人間には楽しめないゲーム、という認識だったが、それは間違いだった。

オシャレな部屋や島にしたい、という気持ちはあるが、そうするにはまず、雑草とか石とか散らかっている物を片づけられなければいけないらしい。

だがそれが面倒くさい、できない、それが「実生活」と全く同じで、もはや面白くないを越えて「ツライ」の域なのだという。

部屋が汚い人間には、汚くて平気な元々泥の中に住んでいるムツゴロウタイプもいるが、散らかった部屋の中で、焦燥して、体調さえ崩している奴もいるのだ。

できれば整頓された、オシャレな部屋で住みたいという望みはあるのに、目の前はゴミだらけで、それをどう片づけてよいかわからないという焦りと自己嫌悪で自我が崩壊していく現実の様を、このあつ森でもリアルに体験できるのだ。

またセンスが物をいうゲームなので、理想の部屋と実際の部屋の乖離に絶望し、センスのある人のプレイ映像を見て比べて落ち込むという劣等感刺激ゲーでもあるらしい。

「あつ森」はほのぼのゲーに見えて、「資本主義を忠実に再現している」と言われているようだが、ある種の人間がリアルで感じているコンプレックスも忠実に再現しているということらしい。

どうぶつの森は、多くの人間に受け入れられる一方で「向いていない人間には体を壊すぐらい向いていないゲーム」のようである。

世界中の人間が楽しんでいるからと言って、だれしもが自分もその世界中の「みんな」の中に入っているとは思わない方が良い。

概要を聞いただけで「向いてない」と思った人は、手を出さない方が無難なのが「どうぶつの森」なのかもしれない。