Windows 11には、オンライン会議システムTeamsのチャット機能が統合されるという。Microsoftは、オンラインでのメッセージングには、古くはMSN Messenger、直近まではSkypeを提供していたが、今後は、Teamsに統合されていくことになる。

もちろん、Windowsのみならず、クライアントアプリはAndroidやiOSなどのプラットフォームにも提供され、デバイスをまたいだ運用が可能だ。

  • Windows 11の最新プレビュー版(ビルド22000.100)では、タスクバーにTeamsのチャットアイコンが現れた

Windowsにある個人用/組織用アカウント

Skypeがやっかいだったのは、個人用のサービスと企業向けのサービスが同じ名前で別空間としていたところだ。企業用SkypeはTeamsに統合されたが、今回のチャット機能も同じ課題を抱え続けるのではないかという懸念がある。

WindowsにサインインするMicrosoftアカウントは、「職場または学校アカウント」としての「組織用アカウント」、そして、個人が自分のために使う「個人用アカウント」の2種類がある。

双方ともにメールアドレスの形態だ。以前は、個人用アカウントと組織用アカウントに同じメールアドレスを設定することができたが、今はできなくなっている。以前から同じアカウントを使っていた場合、パスワードが別であれば、そのまま使い続けることができているようだが、それもいつまで続くかわからない。

組織用/個人用アカウントのややこしさ

今、働き方が大きく変わろうとしている中で、コミュニケーション手段が組織用と個人用に分かれてしまっているのは、本当に使いやすいのかどうかという疑問がある。もちろんセキュリティ的にはそのほうがいいに決まっている。だが、それは管理する側の論理だ。結果として管理される側も守られることになるが、その両立は難しいのだろうか。

今回のチャット機能のTeamsへの実装は、もともと複数のアカウントを設定できるTermsに、個人用アカウントを追加できるようにするというものだ。それの何が問題かというと、コミュニケーション相手によって組織を切り替える必要がある上、切り替え後は、他の組織とのアクティブな会話が切断されてしまう点だ。

さらに、組織Aに所属するBさんは、チームごとにアカウントを登録しなければならない。チームを主催するのは自分の組織Aであるかもしれないし、相手がホストしている別組織のチームかもしれない。Bさんは組織Aにいながら、副業として組織Cにも属しているかもしれない。フリーランスのDさんは、さらにたくさんのチームにアカウントを登録する必要がある。

こうした状況でBさんやCさんとチャットするには、どの組織に関連付けられたアカウントなのか、それとも個人としてのアカウントなのかを明確に区別する必要がある。

携帯電話での通話ではこんなことは起こらない。知らされた電話番号に向けて発信するだけでいい。Temsのチャットではそれができないのだ。

自分の所属はどこにある?

新しいチャットの仕様では、個人用アカウントにメールアドレスと電話番号を紐付け、コミュニケーションの相手をそのどちらかで検索して会話を始めることができる。

でも、それでつながる相手はあくまでも個人だ。組織に属するアカウントとのコミュニケーションには、企業向けのTeamsを使う必要がある。ユーザーは常に、コミュニケーションに際して、自分がその発言を組織の一員としてしているのか、個人としてしているのかを意識しなければならない。

しかもやっかいなことに、メールアドレスを見ただけでは、.comドメインがそうであるように、そのアドレスが組織なのか個人なのかが特定できない。ドメインだから組織なのだが、一人しか属していないドメインもあるからだ。

そんなことは当たり前だという意見もあるだろう。だが、今回のような複雑怪奇な仕様では必ず事故が起こるだろう。さらには、個人用アカウントの追加を禁止する組織も出てくるはずだ。

「個人だけど組織」な人はどうすれば

今、考えなければならないのは、組織内個人とは何なのかということだ。組織の一員として公の場にいるなら常に属している組織の看板を背負っていることを自覚しなければならないのは当たり前だ。

たとえば、どこかのショップで買い物をしたときに対応してくれた店員が、とても丁寧に説明してくれて気持ちよく買い物ができたなら、次の買い物もその人に相談したいと思うだろう。

また買い物をするときに応対してほしいなら名刺をもらっておけばいいし、ほとんどの場合、名札をつけているので、その名前を記憶しておけばいい。あとで電話をして追加の質問をすることもできるだろう。次回の訪問時の在不在を確認することもできそうだ。こうしたことが当たり前のように行われているのが現代の商習慣だ。

その一方で、勤務中には個人のスマホは使えないのも当たり前だ。Teamsは、こうした商習慣をうまく取り入れることができているようにも見えるが、実際の現場がコミュニケーションのDXに追いついていない。

Teamsはホーム組織と併行し、他組織のアカウントにゲスト登録可能な別組織を追加し、さらにそこに「チーム」という単位を作ることであらゆることを解決しようとしている。「チーム」ごとに個人のゲストも登録できる。そのアプローチはわかる。

だが、ゲスト登録した個人は、メンバーが一人しかいないだけで、組織なのだ。このことが、かえって混乱を招くことにつながらないだろうか。個人用アカウントとして組織アカウントを登録することはできない以上、××社の誰某さんという個人は宙に浮く。そして誰某さんは、××社を退職すると、メールアドレスは無効になり、ネットワークから消えてしまうのだ。それで本当にいいのだろうか。