雨が降ったりやんだりの日曜日(2021年7月4日)、東京都の都議会議員選挙が行われた。結果はご存じのとおり、自民党が第一党を維持するも、自公での過半数には届かなかった。個人的にも、昼頃に投票所にでかけて一票を投じてきたのだが、閑散とした投票所に複雑な思いをもった。ちなみに、今回の選挙の投票率は42.39%と、決して高い値ではなかったそうだ。
綿密だが膨大な手間がかかる開票作業
東京都選挙管理委員会のサイトを見ると、選挙における開票と当選人の決定についての説明がある。
投票が終わると、投票管理者は投票立会人と共に投票箱、その鍵、投票録などを開票所に運び、開票開始時刻に開票を開始するという。開票事務は、2人に同じ候補者の得票数を計算させる。
1,000万人を超える東京の選挙人名簿登録者数だが、その半分が投票したとして500万人分の投票用紙を開票、目視でチェックして集計する。投票は鉛筆での手書き、それを目視で人間2人が確認しての開票だ。実に厳密だが、実に膨大な作業だ。
その一方で、都議会銀選挙前の6月に、立憲民主党と国民民主党が「インターネット投票の導入の推進に関する法律案」(インターネット投票推進法案)を衆院に提出している。いわば政治の世界のデジタルトランスフォーメーションをスタートさせるチャレンジだ。現時点でのステータスは、衆議院での閉会中審査中で、その骨子や要項が公開されている。
選挙の電子化は段階的に進めたい
選挙の電子化は、投票の電子化でもあるが、提出された法律案は、一足飛びにいつでもどこでもインターネットを使って投票ができるようにしようというものだ。つまり選挙という行為に対して、選挙人は物理的に移動する必要がない世界をもたらす。
2025年からの本格実施を目標にしているようだが、開票作業の電子化などから手をつけるなど段階的な実施を検討しないと、とてもじゃないが実現する気がしない。
投票所を設置し、紙の投票用紙に候補者の名前を手書きし、それを人間が確認して集計するというプロセスの電子化、パブリックスペースに設置された特定端末での投票などが、個人の端末によるいつでもどこでもの投票の実現とつながっていくわけで、全部をいっぺんにやるのは、デジタル後進国の日本にはまだ無理だと個人的には思う。
それでも何もやらないよりはずっといい。世の中のデジタル化はとにかくできるところからやっていくことが重要だ。選挙は候補者を選ぶ行為だから、投票用紙に書かれる文字列は限定的だ。だから、OCR処理の誤認識も少ないはずだ。これは限定的な命令を識別できればいいカーナビの音声認識に通じるものがある。
情報を適切に届けるデジタル化も必要だ
以前、レンタカーのナンバーについておもしろい話を聞いたことがある。レンタカーといえば「わナンバー」なのだが、今、沖縄と北海道では「れナンバー」が使われているという。沖縄は「わナンバー」の枯渇によるもののようだが、北海道は最初から「れナンバー」だったという。その理由に逸話がある。
当局からの通達があった1950年代、文書で送られてきた文字が不鮮明で、「わ」を「れ」と読んでしまった担当者が、レンタカーだから「れ」に違いないと勘違いしたという話だ。ファクシミリが不鮮明だったなどという話もあるが、当時はまだファクシミリなど使われていなかったはずだ。
今となっては本当かウソなのかわからないが、今、いろいろなデジタルトランスフォーメーションを考える中で頭に留めておかなければならない逸話だと思う。
コロナ禍の今、いろいろなシーンで悪者にされているファクシミリだが、候補者名の手書きによる投票というのもそれに近いものがある。
ちなみに、都議会議員選挙の選挙公報は、候補者から提出された原稿が、そのまま製版されて掲載されている。面積が最優先なのだ。各戸に印刷物が配布されるとともに、東京都選挙管理委員会や自治体はデータをPDFで公開している。これでは紙をファクシミリで送るのと五十歩百歩だ。
1ページあたり6人分の候補者の原稿が並ぶ公報は著しく文字が細かく読む気になれない。この文字サイズでは読めない人も多いだろう。紙が電子化されているだけで、電子化のいいところがまったくない。せめて候補者一人を一ページずつに区切ればまだましなのに、その発想もない。ウェブで表現するという気配もない。これが今の日本の現状だ。