このところSNSでバズっていた興味深い話題がふたつある。
ひとつは京都府教育委員会が2022年度から全ての府立高で新入生に原則自費でタブレット端末を購入させることを決定したというもの。金額は6~7万円程度で機材はiPadだ。それにキーボード付きケース、設定費用、1年分の故障補償、タッチペンなどがついているようだ。ネタ元になった京都新聞の記事には、『タブレット自費購入「怒りしかない」』という見出しがついていた。
もうひとつはパソコンの価格の話題。レッツノートがトレンドになっていたので、ちょっと調べてみると、大学生協が高額なパソコンを学生に売りつけているというものだった。
どんな価格なのかと調べてみると、最新世代のSVシリーズで、32GBのメモリ、SSDが256GBの11th Core i7機が324,500円~、メモリを16GBにしてプロセッサをCore i5にし、光学ドライブレスにすれば248,600円~だ。カスタマイズレッツノート扱いなので、この価格には故障、破損、火災、落雷、台風、洪水、水濡れ、盗難に対応する「4年保証プレミアム」が含まれる。
パナソニックストアでの個人向け価格と特に変わらない。SNSでの議論は、レッツノートは高額だが壊れないから4年間は安心して使えるので結果としてソンはないというものから、外資系ベンダーのパソコンは同じ性能でもっと安いとか、MacBookならもっとおしゃれで安いといろいろな展開で盛り上がっていた。
価格はピンキリ、難しいパソコンの価値
これらの2つの話題を追いかけてみて、パソコンに対して見出す価値感が、人々のなかでは、本当に幅があるのだなということを痛感した。
Windowsパソコンであれば、インテルの最新プロセッサを搭載し、16~32GBのメモリで、256GB程度のSSDを搭載したパソコンは、それこそ各社が提供していて、同じスペックでもピンキリの価格で流通している。
価格の差は、各社の製品生産数に依存するであろうパーツの調達価格と、各社が製品に与えた付加価値で決まる。高いパソコンには高いなりの、安いパソコンには安いなりの理由がある。安かろう悪かろうではないし、高いパソコンがいいパソコンというわけでもない。その見極めは難しい。
また、パソコンは購入したらそれでおしまいというわけではなく、使い続けるために、さまざまな手間暇をかける必要がある。それを全部自分でこなすか、人任せにするかでランニングコストは大きく変わる。サービスはタダでは得られないからだ。
パソコン自体がクラウドサービス化すると面白い
こうしたことが話題になるのを見ると、そろそろ個人向けのパソコンも、ハードウェアのみならず、クラウドサービスとして提供されてもいいんじゃないかとも思う。
たとえば、Microsoftは、Azureにおいて、Windows Virtual Desktopと呼ばれるサービスを提供している。
個人が自分のパソコンとして1台だけを使うサービスを想定したものではないので、正確な金額を算定することはできないが、16~32GBのメモリーで、256GB程度のSSDを搭載したパソコン程度のユーザー体験が得られる環境をサブスクリプションで得た場合でも、びっくりするような価格にはならない。まして、大学や高校が組織でサブスクリプションするなら十分に現実的な価格になるだろう。
それによって、エンドユーザーである生徒、学生諸君のみならず、教職員がハードウェアやソフトウェアのめんどうを見る管理の煩雑さから逃れることができる可能性もある。
こうしたサービスを、個人が気軽に利用できるようになっていればいい。先日、日本マイクロソフトがテックメディアセッションを開催し、Azureの最新情報について説明した。そのときにこのことを聞いてみたが「現時点でお伝えできる情報はない」というつれない回答だった。個人的には、今のOneDriveのようにOnePC的な名前のクラウドサービスで、Windowsパソコンのデスクトップをリモートで使えるサービスがが提供されていたら、どんなにいいかと思う。
必要な性能をオンラインでカスタムする未来
もっとも、パソコンがクラウドにあっても、それを使うためには手元に別のパソコンが必要だ。でも、OSはなんだっていいし、極端な場合、スマホに外付けのディスプレイとキーボードをつないだって十二分に実用になるはずだ(要は画面だけを遅延なく表示できる端末、通信環境があればいい)。大学生であれば3年生になったらメモリを倍にするとか、GPUを別途オプションで追加するといったバージョンアップもできる。買ってきたハードウェアとしてのノートパソコンではそうはいかない。4年間のうちには陳腐化も進む。
そして、そのパソコンが壊れても、紛失しても、盗難にあっても、クラウドのパソコンが失われることはない。学校や自宅のインターネット帯域などを考えると、組織ぐるみでの利用には解決しなければならない問題は山積みかもしれないが、なんとかその未来が見えてくるといい。
実際問題としてChromebookでは似たようなことができている。GIGAスクール特需では、Chromebookへの注目度が半端ではないようだが、数年先には、Chromebookでコンピューティング環境に慣れ親しんだ子どもたちが高校や大学に入ってくることになる。
ハードウェアとしての自前パソコンは自分でめんどうを見ることを前提に、自由なパーソナルコンピューティングを担保し、学校などの組織でのパソコン利用は、現在の企業でのパソコンの使われ方同様に、完全な管理下に置かれたクラウドサービスでこなすようなことを視野にいれてもいいのではないだろうか。
パソコンには法定速度はない。スポーツカーで登校する小学生がいたっていいじゃないか。