純愛を描く恋愛ドラマの『波うららかに、めおと日和』が木10で、終活を含む中高齢層の生き方を描くヒューマンドラマの『続・続・最後から二番目の恋』が月9で放送されている。「あれ? 逆じゃないのかな」と思う人もいるのではないか。
ただ、あまり知られていないが、月9は『海月姫』が放送された2018年1月期を最後に、2023年7月期『真夏のシンデレラ』までの21クール・5年3か月にわたって恋愛ドラマを封印。そのほとんどを中高年層に根強い人気を持つ刑事、医療、法律モノが占めていた。
一方の木10も、このところかつてのような「大人向けのヒューマンやミステリー」という印象が薄れている。ここ1年間を見ても、韓国ドラマのような復讐・愛憎劇の『Re:リベンジ-欲望の果てに-』、女性3人が飲食店の井戸端会議で事件解決する『ギークス~警察署の変人たち~』、“托卵”がテーマの『わたしの宝物』、偽装家族によるホームドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』を放送。「思い切った作品を放つチャレンジ枠」に変わったような感がある。
もし『海月姫』が放送された2018年1月期までだったら、『波うららかに、めおと日和』が月9で、『続・続・最後から二番目の恋』が木10で放送されていたのではないか。しかし、時代の移り変わりとともにフジの戦略が変わり、芳根は以降の月9に出演せず、木10に連続出演している。
今、『海月姫』と『波うららかに、めおと日和』を見比べてみると、21歳から28歳になった芳根のみずみずしい演技が変わっていないことに気づくだろう。つまり、フジの戦略で純愛を描くドラマが月9から木10に移っても、7年もの時を経ても、違和感なく対応できる。フジにとっては何とも心強い恋愛ドラマの主演女優ではないか。
若手女優の業界評価が軒並みアップ
最後にもう少し『海月姫』の魅力にふれておくと、芳根が演じる月海だけでなく、東村アキコが手がける尼~ずのメンバーを目当てに見ても十分楽しめる。
「枯れ専」のジジ様(木南晴夏)、「鉄道オタク」のばんばさん(松井玲奈)、「三国志オタク」のまやや(内田理央)、「和物オタク」の千絵子(富山えり子)は、いずれも原作に忠実な役作りを遂行。「顔が命」の女優であるにもかかわらずほとんどのメンバーが「髪で顔が見えない」という思い切りの良さが光った。
さらに、地域の再開発を狙うデベロッパーで、部下に「一昔前の銀座ホステス」と指摘される色仕掛けを繰り返す稲荷翔子(泉里香)も存在感たっぷり。同作は視聴率こそ低迷したが、業界内での評価は高く、ここであげた女優たちは飛躍のきっかけにつながった感がある。
その他では、尼~ずメンバーたちの成長や、彼女たちが住むアパート「天水館」の取り壊し問題なども見どころの1つ。さらにBeverlyの主題歌「A New Day」は物語にシンクロした歌詞と伸びやかな歌声でシンデレラストーリーを盛り上げていた。
「個人の尊重を重んじる」「コンプレックスを魅力とみなす」という点では、令和の時代を少し先取りしたような作品と言っていいのかもしれない。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。