16日に映画『かくかくしかじか』が公開された。主演・永野芽郁のスキャンダルで危機に見舞われながらも、見た人々からの評判はおおむね上々。同作は東村アキコの自伝的漫画を実写映画化した作品であり、あらためてその作家性に支持の声があがっている。
東村アキコの漫画と言えばこれまで、菜々緒主演の『主に泣いてます』(フジテレビ系)、吉高由里子主演の『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)、杏主演の『偽装不倫』(日テレ系)などがドラマ化されてきたが、ここで注目したいのは、2018年に放送された芳根京子主演の『海月姫』(フジ系 ※FODで配信中)。
同作も、まさに「東村アキコワールド」と言うべき多彩なキャラクターによる笑い泣きの物語だが、月9で放送したこともあって恋愛要素も押し出されていた。くしくも現在、芳根が主演を務める『波うららかに、めおと日和』(フジ系)が放送中。しかも同作には7年前の『海月姫』との共通点があった。
恋愛ドラマ史に残る非モテヒロイン
ドラマ『海月姫』は、「女の子は誰だってお姫様になれる」をテーマに掲げた王道のラブストーリーである一方、登場人物は“オタク女子”、“女装男子”、“童貞エリート”などの型破りなキャラクターばかり。さらに、鉄道、三国志、和物、枯れ専などを偏愛する「尼~ず」ことオタク女子たちの「オシャレ人間は天敵」「人生に男を必要としない」というモットーはラブストーリーとはほど遠い。
このようなエッジの効いた設定は、いかにも東村アキコらしく笑いに直結。また、そんな設定だからこそ、クラゲオタクの主人公・倉下月海(芳根)がシンデレラのように幸せをつかむまでのギャップを生み出していた。
20歳の月海はイラストレーターを夢見て鹿児島県から上京。しかし、専門学校に通うわけでもなく、外部との接触を避けるようにオタク女子たちと男子禁制のアパート「天水館」で暮らしていた。加えて「極度に視力が悪く、メガネなしではほぼ何も見えない」「常にスッピン、おさげ、メガネで、服装はスエット」「男性や恋は一生縁がないと思っている」など、恋愛ドラマ史に残る非モテの主人公設定。
しかし、月海は端整な顔立ちのプレイボーイで、ファッション好きが高じて女装が趣味の鯉淵蔵之介(瀬戸康史)と、国会議員の秘書を務めるエリートながら超堅物童貞の鯉淵修(工藤阿須加)に出会い、人生が動き出していく。クラゲオタク女子と、この腹違いの凸凹兄弟という接点のなさそうな両者が三角関係となり、距離を縮めていく様子は、月9黎明期である1980年代後半の恋愛ドラマを彷彿させるほほ笑ましさがあった。
恋愛ドラマとしては最遅レベルのスローペースであり、それが最大の魅力と言っていいだろう。月海の目線でその恋を見ていくと、修に初めての恋心が芽生え、修も蔵之介のヘアメイクとスタイリングで変身した月海に好意を寄せる。その一方で月海は無自覚なまま蔵之介と心が通いはじめていた。
その後、月海はライバルの横やりで傷心するが、修は彼女がクラゲオタクと知っても気持ちは変わらない。そんな心が通いはじめる2人を見た蔵之介も月海のことが気になり、切なさを感じていく……。
東村アキコの物語を月9仕様に
2000年代から2010年代にかけて恋愛ドラマは視聴率低下を避けるためにスローペースの物語が激減。「飽きられない」「チャンネルを替えられない」ためにハイペース、急展開、ドロドロ、トラウマに頼るような作品ばかりになり、連ドラらしく回を追うごとに少しずつ距離を縮める純愛は絶滅しかけていた。
ゴールデン・プライム帯で放送されたスローペースの恋愛ドラマは、2016年秋に放送された『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)くらいであり、裏を返せば同作は希少性が高いからヒットしたようにも見える。その『逃げ恥』終了から約1年後にスタートした『海月姫』は同作以上のスローペースであり、だからこそ隠れた名作と言っていいのではないか。
特筆すべきは「笑いを前面に出したコメディ」という印象の原作漫画を往年の月9仕様に仕立て上げたこと。ドラマ『海月姫』は「東村アキコの世界観を大切にしつつ、月9黎明期の純愛を蘇らせた」というプロデュースの妙が「視聴率は低くてもネット上の評判はいい」という逆転現象を生み出していた。
その主な立役者はチーフ演出・石川淳一と脚本家・徳永友一の2人。石川は『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジ系)で非モテ男女の純愛ラブコメを手がけ、徳永は『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジ系)と『僕たちがやりました』(カンテレ・フジ系)で漫画原作の若者群像劇を手がけたあとであり、タイミング的にもハマったように見える。
ここで目線を現在、芳根が主演を務める『波うららかに、めおと日和』に向けると、同作は昭和11年を舞台に「交際ゼロ日婚」した新婚夫婦の物語。ピュアで初々しい新婚夫婦は、名前を呼び、手を握るだけでも胸のドキドキが止まらず、互いにときめきながら少しずつ距離を近づけていく様子が描かれている。
そんな同作が木10(木曜劇場)で放送されている一方、現在の月9は『続・続・最後から二番目の恋』。同作は2012年の第1弾、2014年の第2弾ともに木10で放送され、11年ぶりの続々編は月9に移動した。