『すてきな片想い』は翌91年放送の『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』と合わせて月9の“純愛三部作”とされた。視聴率や社会的な反響では2作に及ばない一方で、恋の純度では大きく上回り、それが現在までの支持につながっている。

恥ずかしすぎる出会いと偽名を使ってしまったことに加えて、平和主義で受け身な圭子の性格もあって、ラブストーリーの進展としてはドラマ史に残る最遅ペース。想いを伝えることすらままならず、彼への気持ちが増していき……そんな圭子を見守る視聴者はやきもきしながら、最終話のハッピーエンドだけをひたすら待ち続けた。

散々やきもきさせられ、待たされたからこそ、クライマックスのカタルシスは月9史上トップクラスと言っていいだろう。それは令和における配信での一気見でも変わらないはずだ。

そんな恋愛ドラマ史上、最遅ペースでも飽きさせずに全10話を楽しませた立役者は、脚本を手がけた野島伸司。圭子は「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」の徳川家康タイプ、仁美は「泣かぬなら殺してしまえホトトギス」の織田信長タイプ、妙子は「泣かぬなら泣かせてみようホトトギス」の豊臣秀吉タイプと三者三様に分け、これをセリフとして使いながら物語を進めていくなどのうまさが随所に光った。

当時、野島は『君が嘘をついた』『愛しあってるかい!』に続く連ドラ3作目の若手脚本家であり、翌年の『101回目のプロポーズ』まではピュアな世界観を作り上げていた。以降、物議を醸す過激な展開のドラマを連発しただけに意外かもしれないが、表現方法の違いこそあれ野島の真骨頂は当作のようなピュアな世界観だろう。

圭子は21歳の設定だったが、当時中山さんも早生まれの20歳であり、同学年のOLを演じたことになる。すでにトップ女優で“美人”の代名詞的な存在であり、ドジで地味なOLを演じることへの反発もありそうなものだが、世の女性たちは自分に置き換えて圭子の恋を応援していた。その後、中山さんは月9の女優最多主演記録を作るが、すでに類い希な主演女優だった様子がうかがえる。

平成初期を感じられる数々の仕掛け

最後に平成初期の連ドラならではのポイントをいくつかあげておこう。

主題歌は中山さん自身の「愛してるっていわない!」だった。80年代の連ドラは女性アイドルによる主演+主題歌が多かったが、90年代に入るとそれがほぼ消滅。90年代はアーティストセールス全盛の時期であり、連ドラでは洋楽の主題歌も増えていた。それでも中山さんと「お別れの会」で弔辞を務めた小泉今日子は例外だっただけに、当作を見れば当時のムードが感じられるだろう。

そして当作を語る上でもう1つ忘れてはいけないのは、登場人物の名前。与田圭子、野茂俊平、潮崎豊、佐々岡ケン(中野英雄)の苗字は、同年のプロ野球新人投手から名付けられ、その他でも落合、秋山などがいた。当時のプロ野球人気を象徴するプロデュースであり、「スポーツニュースですらメジャーばかりで国内なし」が多い現在とは隔世の感がある。

さらに、撮影に全面協力した京王線の電車や、スポンサーであるトヨタの新車が次々に登場するなど、平成初期の乗り物を楽しむのもいいだろう。

40代以上にとっては見れば当時の恋を思い出すような作品であり、若年層にとっては現在の恋愛ドラマにはないもどかしさやいじらしさを新鮮に感じるのではないか。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。