「高校eスポーツ」を題材にした映画作品『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~(PLAY!)』が2024年3月8日に全国公開されました。

『PLAY!』は、2018年から開催されていた「全国高校eスポーツ選手権」で実際にあったエピソードをベースに描かれた青春映画。奥平大兼さんと鈴鹿央士さんの2人が主演を務めます。製作はサードウェーブとハピネットファントム・スタジオ、制作協力は吉本興業、制作プロダクションはザフール、配給・宣伝をハピネットファントム・スタジオが担当します。

監督は、『まぶだち』をはじめとする数々の青春映画を撮ってきた古厩智之さん。そして企画・プロデュースは『サクラ大戦』シリーズや『天外魔境』シリーズのゲーム作品、「魔神英雄伝ワタル」シリーズのアニメ作品など数々のヒットを飛ばしてきた広井王子さんです。今回は、その広井王子さんに『PLAY!』の製作秘話を聞きました。

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    『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』で企画・プロデュースを担当した広井王子さんに映画の製作秘話を聞ました

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    映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』が2024年3月8日に全国公開されました

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    奥平大兼さん演じる郡司翔太、鈴鹿央士さん演じる田中達郎、小倉史也さん演じる小西亘、3人の高校生がeスポーツの大会に出場する物語です

――早速ですが、今回『PLAY!』を企画した経緯を教えていただけますでしょうか。

広井王子さん(以下、広井):きっかけは『サクラ大戦』の製作総指揮をされていた元セガの入交昭一郎さんに呼ばれたことですね。「映画をやってくれないか」と言われて、「できません」とお断りしました(笑)。これまで多くの話を聞くなかで、映画が簡単にいかないことはわかっていましたから、お断りしたんです。

それでも、入交さんが諦めずに打診してくるんですよ。サードウェーブの代表取締役社長 兼 最高執行責任者である尾崎健介さんに会ってほしいと。それでお会いすることになって、「若いころにコンビニの前に座って友人といつか映画を撮ろうって話をしていて、今回、やっと夢が叶えられるところまできた」って話す尾崎さんの情熱に胸を打たれましてね。自分も中学生のころに映画作りを夢見ていて、叶わなかった過去があるので、それでやってみようと決断しました。

――企画が動いたのはいつごろでしょうか。

広井:2019年だったかな。第1回「全国高校eスポーツ選手権」が終わったあと。実際に出場した高校生のインタビューがすごく刺さったのを覚えています。特に、敗者インタビュー。試合直後に行われたインタビューに、負けた子たちが堂々と応じていて、さらに勝者を称えているんですよ。スポーツマンシップってこういうことだよなって再確認しました。「カッコいいな」って。それも映画を作ろうと思えた動機の1つでしょうね。

また、高校生の大会は、参加する楽しさ、「好き」を突き詰める清々しさがあったんです。映画の副題「~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~」にもあるように、勝ちにいくだけが目的ではなく、仲間たちと全力でプレイすること自体の魅力を伝えられればいいなと思います。

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    劇中に出てくるメンバー募集のチラシ。ここにも「~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~」と書かれています

――企画・プロデュースとして、広井さんは実際にどんな仕事をされたのでしょうか。

広井:プロットを書いて、現場を立てるのが仕事ですね。まず「全国高校eスポーツ選手権」の第1回大会で、出場高校生を募集する顛末をいろいろ聞かせてもらったんですけど、それがまためちゃめちゃおもしろくて。運営側にも取材させてもらいました。

そうしたら、聞けば聞くほどドラマになるエピソードだらけ。特に、「引きこもりがちの少年がeスポーツきっかけで表の世界に飛び出していった」阿南工業高等専門学校の生徒のストーリーを聞いて、これを中心にプロットを書こうと決めました。

プロットを書いたら、スポンサーをはじめとする関係者に納得してもらう必要があります。もちろん、1人ではできないこともあるので、元セガでサードウェーブ 取締役 最高eスポーツ責任者(CeSO)常務執行役員の前田雅尚さんを紹介してもらい、お金の管理や権利関係について協力してもらうなど、多くの仲間を集めていきました。

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    映画の企画・プロデュースをすることになった経緯を話す広井さん

――ほかにはどんなことをしましたか。

広井:アメリカだと“ショウランナー”と呼ばれる立場ですね。シナリオやキャラクターをどうするか、ストーリーのどこをカットするかなど、すべてに対して相談を受けて、ジャッジします。相談者に任せることもありますし、こちらから指示を出すこともありますね。これは、『サクラ大戦』のころからずっとやっていた仕事でもあります。

演出面については、古厩監督と「ゲームの画面の扱い」で意見がぶつかることがありました。監督はゲームの画面を重視し、映画のなかでしっかり映していくことを提案していましたが、私は反対でした。ルールがわからないのでゲーム画面は映画で見ていると退屈になりがち。それよりも、プレイヤーの表情を映したほうが絵になるんじゃないかって思っていたためです。

でも、監督から強い意志を感じ、お任せすることにしました。監督は今回の映画で使われているeスポーツタイトル『ロケットリーグ』をプレイしていましたから、ゲームの魅せ方にも勝算があったのでしょう。

それで実際に「粗編」の段階で見せてもらったら、主人公で『ロケットリーグ』の上位ランカーである達郎(鈴鹿央士)が、初心者の翔太(奥平大兼)に遊び方をひとつずつ教えていくんです。これが翔太に教えるとともに、観客にも教えることになって、自然とゲームの内容が頭に入っていくんですね。

ああ、まさに『七人の侍』方式だって思って。『七人の侍』では地面に敵がここに来るからこう守ろうって絵を描いて見せるんですよね。それで観客にも理解してもらう。「うまいなあ」と感心してしまいました。

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    撮影現場の古厩智之監督。ゲーム画面を大きく取り上げるシーンが多いのも『PLAY!』の特徴です

――製作において一番苦労したことは何でしょうか。

広井:やはりコロナですね。現場がようやく立ちそうなタイミングでコロナ禍になってしまい、用意したものがすべて吹っ飛びました。どれだけ損失を抑えるか苦労しましたよ。結局、コロナ禍では現場が立たず、1年延ばすことになったんです。そのため、当初の予定を大幅に変えることになりました。最後の最後はもうギリギリで。ミーティングする時間すらありませんでしたね。

また、脚本も大幅に変更しました。当初は大会に出場する高校生と、大会を運営する大人の2つの物語を展開する予定でしたが、そこをやっていると到底間に合わない。なので、メインを高校生のストーリーにして、スポットを当てる登場人物を3人に絞って、大人側のストーリーは取り下げることに決めました。

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    山下リオさんが演じる三上桃子は、「全国高校eスポーツ大会」を運営する“大人側”として登場。企画会議をしているシーンなども描かれます

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    学校のシーンはモデルとなった徳島の阿南工業高等専門学校で撮影。eスポーツ研究会の立ち上げのころから使われている部屋も登場します

――作品の中で気に入っているシーンはありますか。

広井:翔太がピアスを開けているシーンですね。青春ドラマっぽいじゃないですか。初恋がなかなかうまくいかないところもキュンとしました。「eスポーツ映画」ではありますけど、「青春映画」なので。

あとは、『ロケットリーグ』をよくぞ映画にしたってところですね。ゲームを普段しない人でも盛り上がれるはずです。やはり、ゲームの画面の後ろ側には人間がいますから、そこが描かれているからおもしろいんですよね。

ゲームの本質はキャラクター。『ロケットリーグ』では車を動かす人間がいて初めてキャラクターになるんです。それがうまく描かれているなあと。『サクラ大戦』ではプレイヤーの数だけ「大神一郎」がいて、その行動をどこまでユーザーに委ねるか決めるのが私たちの仕事でもあるんです。映画を作るときもそれは忘れていません。製作スタッフが全員プレイヤーだと考えながら仕事を進めました。

ただ、シナリオ通りのゲームプレイを再現するのは大変でした。プロゲーマーの方に実際に何度もプレイしてもらって、画面をはめ込んだんです。私は立ち会わなかったのですが、古厩さんからはかなり時間がかかったと聞きました。

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    eスポーツの大会の様子だけを映すのではなく、高校生たちの日常のワンシーンや家庭で抱える問題などについても描きます

――『PLAY!』の題材はeスポーツですが、最初これについてはどう思いましたか?

広井:尾崎さんから「eスポーツ」をやってほしいと言われて、困ったなと思いました。実は、eスポーツはあまり詳しくなくて。ただ、ゲームを作ってきた人間として、ゲームをプレイすることで活躍する人が出てくる過程はすごくおもしろいと思っていました。

野球やサッカーなどの「スポーツの成り立ち」はもう目撃できませんが、eスポーツのプロシーンが成立する流れを見届けることができるタイミングにいる。そこを興味深く見ていました。

――eスポーツの配信はよくご覧になるのでしょうか。

広井:たまに配信を「うまいなぁ」と思って観ています。おそらくそこに関わることはありませんし、選手になることもないので、eスポーツ自体に関わることはないかなと思っていました。チャンスがあれば、eスポーツタイトルを作ってみたい気持ちもありますが、RPGを手がけることが多いですからね。そのくらいの距離感です。

視聴については、特定のタイトルを追いかけているわけではなく、ぼんやり観ている感じです。最初はルールがわからないんですが、観ているうちにゲームの状況やプレイヤーの行動の意図なんかがだんだんわかってきて、それがおもしろいですね。

アメフトも最初はルールがわからなくて、でも観ているうちに理解できて、楽しくなりました。eスポーツもそれと同じなんですよ。私はものづくりも似たような感覚でやっていて、ぼんやりと思いついたものを形にしていくので、相性がいいのでしょう。

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    eスポーツの配信では、「なぜ選手がそのプレイをしたのか」「実況がなぜ盛り上がっているのか」を理解できるようになったときがおもしろいと話す広井さん

――今後eスポーツがより発展していくには何が必要だと思いますか?

広井:スター選手の出現ですね。これはほかのスポーツと一緒なんですけど、スター選手が出現し、多くの人に観られるようになると、自然と品位とか品格とか育っていって、今のスポーツシーンのようになっていくと思います。

あとはeスポーツの世界団体を作って、大会はやったほうがいいですよね。かつて世界一だった日本のゲームが、今では普通。それは、日本に閉じこもっていたからだと思っています。eスポーツでもはやく世界団体を作るべき。そして、最後のトップリーグは世界戦であるべきなんですが、日本人にはまとめられない。そこが残念に思いますよ。でもeスポーツが変えてくれるかもしれないと期待しています。

――個人的には、広井さんがプロデュースするeスポーツチームを見てみたい気がします。

広井:もしチームを作る話があれば、やってみていですね。今、「少女歌劇団 ミモザーヌ」というアイドル、ダンスの演芸学校をやっているんですけど、ロシアの「スタニスラフスキー・システム」から、アメリカの「メソッドシステム」までを勉強し、イギリスの演劇学校を出た友人に来てもらい、一人ひとりの個性を引き出せるような成長システムの“広井メソッド”を作りたいと思っていろいろ実証しているところです。

レッスン内容が厳しくて、生徒のほとんどが約半年で辞めてしまいますが、3~4年続けている子もいて、その子は小学生のころから比べたら、とてつもない怪物みたいになってきています。普段の練習メニューも自分で考えるようになりました。さまざまなジャンルの先生の指導も行いつつ、学校に行く前のトレーニングから、学校から帰ってきたあとのランニングまで、毎日ルーティンとして実践しています。

――eスポーツチームにも取り入れられそうですね。

広井:そうですね。eスポーツの選手に取り入れるとしたら、まず体の管理からですね。ずっと座っているわけですから。集中力を高めて何時間も戦うためには、どういう食べ物を食べればいいか、睡眠をどう取るのかをチームに取り入れるでしょう。

日本の演劇のメソッドって古いんですよ。10人いたら10人一緒に教えるんですけど、そこは体力面だけでよくて、本来は一人ひとりの個性をどう引っ張り出すかが重要。ほかのジャンルでも通用するのではないかと、そのメソッドのあり方を信じています。

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    「少女歌劇団 ミモザーヌ」では、個性を引き出すための成長システム“広井メソッド”を作ろうとしています

――では、最後に改めて『PLAY!』について。どんな人に観てもらいたいですか。また、どんなところを観てもらいたいでしょうか。

広井:題材は「eスポーツ」ですが、基本的には青春映画です。登場人物はみんな問題を抱えていて、そのなかで、仲間と協力して突破したり、挫折したり。そんなキラキラの青春のワンシーンを観てほしいです。

青春真っ只中の方はもちろん、青春がとうに終わったと思っている人にも観てもらって、もう一度ドキドキしてほしいですね。青春なんていつでも始められますし、70歳からでもeスポーツを始められます。勝つとか負けるとか関係なく、みんなでワァーっとやれる。そういう意味でもeスポーツはおもしろい。「eスポーツ? わからないなぁ」という人も、“何かに立ち向かっていく青春物語”なので、ぜひ観てほしいと思っています。

とりあえず、奥平くん、鈴鹿くんがかっこいいので、劇場で観てください。黎明期にゲームに携わっていて、今は少し離れてしまった人も、今のゲーム事情がわかると思いますので、観たあと、ゲーム談義をしてほしいですね。

――ありがとうございました。

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    メイキングのひとコマ

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    映像を真剣にチェックする主演の2人