縮小する業界で生き残るための先を見据えた戦略

青山商事の取り組みはどれも直近のコロナ禍に対応しつつも、中長期的に先を見据えたものだ。数カ月での効果を優先せず、しっかりと市場に浸透させ、今後長く効果が得られる策をとっている理由は、業界全体の展望を厳しく見ているからだろう。

「アパレル業界において、今のビジネスモデルではどこも持たないと思っています。業界全体として市場規模は50、60%程度となり、すべての会社が生き残ることは難しくなってくるでしょう。そうした中、生き残っていくには、店舗縮小、デジタル化推進、在庫の持ち方の変革が必要です。今後は品ぞろえを十分担保した上で店舗面積は縮小し、ECと連動する販売スタイルが主流になると考えています」と青山氏はシビアな展望を語る。

コロナ禍でビジネスウェア需要の縮小や変化が一気に行われてしまったが、これは長い時間をかけて行われるものとして以前から認識していたものだ。そのため、青山商事は既に対策を講じている。

まず、スーツを中心に関連製品の展開を行ってきた。機能性肌着やワイシャツといったスーツの中に着るもの、逆にアウターとなるテクノロジーコート、女性向けビジネスウェアにも力を入れたことで、メンズスーツを扱う「紳士服店」から「ビジネスウェアショップ」へイメージも転換されつつある。

「どんなに市場が変化しようと、青山商事の軸にあるのはスーツです。スーツという強みを生かせる、相乗効果を生み出せる領域を強化しています」と青山氏。

新商品の提案、領域の拡張、市場意識の変革を推進するマーケティングと、さまざまな取り組みを行う中、今後の展開の1つとして考えられているのが、地域ニーズに合った店舗活用だ。デジタル化とEC連動による店舗必要面積を縮小した結果、余る店舗ができる。ここを洋服販売以外で活用するのだ。

「例えば、シェアオフィスやフィットネスといった需要にリユースしてもいいですし、100円ショップが入る店舗も出るでしょう。洋服の青山としてオーダー強化店舗などを作るかもしれません。それぞれの地によって最適なサービスは変わりますが、新業態店舗や不動産の有効活用など、いろいろチャレンジしてきたいと考えています」と、青山氏は展望を語る。

業界を牽引する企業としての使命感と強い意志

青山商事は、厳しい環境の中で自社が生き残るための方策を重ねながら、それだけではなく業界全体への意識も高めている。例えば昨年は、主力であるスーツ販売において大きな一手を打った。それは業界で定番化している「半額セール」の撤廃だ。

「新商品でも半額という魅力あるキーワードを出すために、定価をあらかじめ倍額に設定する手法が業界で続いてきましたが、お客様にも現場の社員にも不誠実だと感じていたため、撤廃しました。売上は苦戦しましたが、『新しい青山』に生まれ変わるには、ごまかしのない価格戦略は絶対に必要だったのです。まだまだ業界に蔓延する手法ですが、業界全体の価格戦略を正して行くことも使命だと考えています」と青山氏は力強く語る。

コロナ禍に対応しながら、今後も続くであろうビジネスウェア業界の縮小に対抗する数々の手段を用意して戦う青山商事は、業界を牽引する企業としての使命感も持っている。一時的な売上低下を避けるのではなく、ユーザーからの信頼を得ることや高品質な製品を魅力的な価格で提供することによる企業価値の向上を優先した強い姿勢は、厳しい状況を泳ぎ切る底力を感じさせてくれた。