日本の外務省も3月1日付で感染症危険情報をレベル3の「渡航中止勧告」に引き上げるなど、教会施設を中心に新型コロナウイルスの感染拡大が続く韓国の大邱市。その近郊の工業都市である亀尾の国家産業団地で、工場の一時操業停止が相次いでいる。韓国メディアの中には、「製造業のシャットダウンドミノ 恐怖が現実に」といった見出しを掲げるところも出てくるなど、その連鎖は止まりそうにない。

さまざまな産業の工場が一時操業停止状態に

まずは既報の通り、Samsung Electronicsのハイエンドスマートフォンの生産拠点である亀尾事業所が2月下旬に従業員に新型コロナウイルスの感染者が見つかったことから、数日にわたって閉鎖を行ったのだが、その後、2月29日に今度は同社のネットワーク事業部に所属する社員が感染していることが判明。従業員全員を退避させ、3月1日に工場の消毒を行ったという。感染が確認された従業員が勤務していた建屋のフロアは3月3日午前まで閉鎖され、防疫作業が行われたほか、感染者は同社の水原事業所に出張したことも判明しており、同事業所の消毒も行われたという。

また、そのSamsungのGalaxyやAppleのiPhone向けにカメラモジュールを提供しているLG Innotek亀尾事業所でも感染者が見つかり、3月2日まで工場が閉鎖された。有機ELや液晶ディスプレイの生産拠点であるLG Display亀尾事業所でも厚生棟に入っている銀行の出張所の行員に感染が確認されたため、工場を3月2日まで閉鎖して消毒作業を行ったほか、東レ先端素材の亀尾事業所でも工場操業を一時停止して消毒作業を行ったと地元メディアが伝えている。

  • LG Display

    FPDの生産拠点であるLG Display亀尾事業所

半導体工場は稼働を継続

大邱や亀尾から100km以上離れているSamsungの半導体製造拠点の1つである器興事業所でも、社員食堂内の作業員に新型コロナウイルスが感染していることが判明したため、2月29日に同事業所の食堂は閉鎖された。ただし、Samsungの社員との直接接触は行われなかったため半導体の製造ラインは稼働を続けているという。

また、SK Hynixの利川本社事業所でも研修中の感染者が出たものの、3月2日時点では半導体製造ラインで実際に働く作業員には感染者が出ていないため、製造ラインのシャットダウンは免れているといった状況で、同国では、電子産業だけではなく、自動車産業など、あらゆる産業でシャットダウンドミノを警戒している状況だという。

なお、韓国では、新型コロナウイルス感染者数の拡大を踏まえ、例えば亀尾では大邱からの通勤者だけに限らず、亀尾市内に住む工場の管理スタッフや事務職の多くも在宅勤務(出勤禁止)としているが、製造現場での作業が必要なスタッフは現場に赴く必要があるため、労働力が不足する事態となっていることに加え、今後も従業員に感染者が出れば、一時的とはいえ、工場の操業を止める必要があるものの、効果的な対策を打ち出せずにいるという。大邱や亀尾での感染者の増加には歯止めがかかっておらず、今後も各社の従業員の中からも感染者が出てくることは避けられそうにない。亀尾の工業団地に工場を構えるある経営者は、「オイルショック、IMF金融危機、リーマンショック、最近では日本政府による韓国への輸出管理の厳格化など、過去半世紀にわたってさまざまな困難が立ちはだかってきたが、今回のような先が読めないケースは初めてだ」と語っている。