パデュー大学、北京大学、清華大学、量子物質科学共同イノベーションセンター(北京)などの研究チームは、ナノ粒子を毎分600億回という超高速で回転させる技術を開発したと発表した。人工物としてはこれまでで最も高速で回転するナノスケールのローターであるとしている。量子力学における真空の性質などを調べるための実験ツールとして利用できるという。研究論文は「Physical Review Letters」に掲載された。

  • パデュー大学 Tongcang Li氏、Jonghoon Ahn氏

    パデュー大学研究チームのTongcang Li氏とJonghoon Ahn氏 (出所:パデュー大学、写真:Vincent Walter)

レーザーによる光ピンセットの技術を用いて、170nm径サイズのシリカからなるダンベル型ナノ粒子を真空中に浮かべ、これを振動または回転させた。直線偏光しているレーザー光を用いるとナノ粒子は振動し、円偏光のレーザー光を用いるとナノ粒子を回転させることができる。

  • パデュー大学 ダンベル型ナノ粒子の振動と回転

    (左)直線偏光のレーザー光によってダンベル型ナノ粒子が変位角θで振動。(右)円偏光のレーザー光によってダンベル型ナノ粒子が回転 (出所:パデュー大学)

空中で振動するダンベル型ナノ粒子は、一種のトーションバランス(ねじり秤)として機能する。トーションバランスは微小なモーメントの測定に適しており、1798年に英国の科学者ヘンリー・キャヴェンディッシュが行った万有引力定数と地球の密度を測定する実験で使われたことでも知られる。

キャヴェンディッシュのトーションバランスは、両端に鉛球のついた天秤棒を細いワイヤーで吊り下げてバランスさせた装置であった。天秤棒の両端の鉛球に別の大きな鉛球を近づけると、鉛球の間に働く万有引力の作用で天秤棒が振動する。振動時の天秤棒の変位角とワイヤーのトルクから万有引力定数を求めることができる。今回開発されたデバイスは、キャヴェンディッシュのトーションバランスに似た仕組みをナノスケールで実現するものであり、真空中で働く微弱な力の測定に使えるという。

量子力学によれば、真空とは何もない空っぽの空間ではなく、無数の粒子と反粒子のペア(仮想粒子)が生成消滅を繰り返している動的な場であると考えられている。振動するナノ粒子を超高感度のトーションバランスとして利用することによって、カシミール効果によるトルク、または量子重力など、真空中で働く量子力学的な作用を測定できるようになると研究チームは説明している。

高速回転するナノローターは「真空の摩擦(vacuum friction)」を調べるためにも利用できるという。真空中で回転する粒子には通常の意味での摩擦抵抗はかからないはずだが、あたかも真空中でも摩擦があるかのように回転速度が次第に落ちていく現象があるとされ、vacuum frictionと呼ばれている。これは真空から飛び出してきた仮想粒子(光子)が回転粒子にぶつかり、物質と光の相互作用によって回転のエネルギーが一部失われるためであると考えられている。