「昨日の夜にスマホで見た広告を覚えていますか?」
モスフードサービス ブランド戦略室 ダイレクトマーケティンググループ グループリーダーの人見靖氏は問いかける。
「人間が1日に触れる情報は約4万ワードと聞いたことがあります。しかし、翌日覚えている情報は、そのうち10個以下。前日の夜に見た広告は、私も覚えていません」
情報があふれる現代で、記憶に残る広告を手がけるのは至難の業だ。しかし、同社は、SNSによるマーケティングを効果的に活用することで、普段の1.7倍もの新規会員を獲得することに成功したという。いったい、どのようなプロモーションを実施したのだろうか。
テレビを見ない若者に届くSNS広告
2017年に創立45周年を迎えたモスバーガーは、定番商品である「モスバーガー」「テリヤキバーガー」のバンズとソースをリニューアルした。それを効果的に伝えるために、人見氏は、若者をターゲットにして「Facebook」「Instagram」「Twitter」「LINE」で動画広告を配信したのだ。
「最近はテレビを見ない若者が増えてきていることもあり、若年層へなかなか情報を届けることができていませんでした。テレビを見ない人たちは普段何をしているのか考えたときに、出てきた答えが『SNS』。毎日スマホを使ってSNSを楽しんでいる層にアプローチすべく、今回の動画広告を実施しました」
そうしてスタートした、SNSユーザーへのプロモーション。今回、モスフードサービスがマーケティングのパートナーとして選んだのが、アライドアーキテクツだった。
「今まで、SNSを活用した広告配信は実施したことがなかったこともあり、SNSに特化したサービスを展開しているアライドアーキテクツさんにお願いすることにしました。また、動画という広告形式もまだチャレンジしたことがなかったので、どのような効果が得られるのか、試してみることにしたのです」
アライドアーキテクツは、「国内SNSマーケティング事業」「越境プロモーション事業」「クリエイティブテック事業」を軸に、顧客企業がInstagramやTwitterなどのSNSを効果的にマーケティングへ活用するための支援を行っている企業だ。
「打ち合わせや撮影準備はもちろん行いましたが、動画の企画や制作、ターゲット設計、出稿などアライドアーキテクツさんにお任せしました。企画から広告出稿まではだいたい2カ月前後でした」
1.2秒以内で見たいと思わせられるかが勝負のカギ
はじめてのSNS広告、そしてはじめての動画広告を実施した人見氏。今回は、1つだけ明確な目的を決めてプロモーションに取り組んだという。
「いかに通常のモスのCMとは違った、ちょっとした“違和感”を与えるか、ということにこだわりました。スマホで閲覧する動画は1.2秒のうちに『見たい』と思わせなければスルーされてしまうそうです。さまざまなテストを繰り返しながら、どのシーンを先頭に表示させればいいか話し合いました」
何の変哲もない動画であれば、前日に見た広告と同様に忘れ去られてしまう。視聴者の意識を留めるためには、“違和感”が大事だと人見氏は考えた。
「そこで、口の周りにモスバーガーのミートソースが付いてしまうというシーンを持ってきたのです。食事をしているときに、口の横に何かが付いていると気になりますよね」
もちろん、バーガーの“シズル感”は必要だ。しかし、それだけではインパクトに欠ける。そこで、「おいしそう」と思わせるだけでなく、「ソースが口の周りについてしまう」という表現をあえて付け加えたのだ。
「実は、今回の動画は、いつものモスであれば絶対にNG。口の横にミートソースを付けたものを広告で出すなんてことは通常ありえません」
実際、動画公開前に開催された社内説明会では、社員から『え~……』という声も挙がったという。
「内心『やった』と思いましたね。『ふ~ん』であれば“いつものモス”で終わり。『え~』と思うから記憶に残るのです。モスバーガーがいつもとどこかが違うということを、いかに記憶として残すかが大事だったので、動画の制作は成功したと言えるでしょう」
記憶に残る動画制作は成功した。しかし、社内の理解は得られなかったのではないのだろうか。
「今回は押し切りました(笑)。そもそも、我々の中で『こうすれば絶対に若者にウケる』と決めつけることはできないので、あれこれ議論しても絶対的な答えは出ません。トライアンドエラーでやってみましょうと伝えました」
社内理解があるからといって若者に響くとは限らない。むしろ、余計な固定観念が入ることで、マイナスに働くこともあるだろう。どれだけの反応があるかは、やってみなければわからないのである。
こうして配信されたモスバーガーの動画広告。SNS4媒体を通じて再生された回数は、なんと450万回以上を記録した。