AI導入から1年の軌跡と成果

同行がAIを導入検討した時に描いていたシナリオは、大きく2つある。1つは非対面チャネルのユーザーエクスペリエンスの強化であり、もう1つは費用対効果、問い合わせ対応の負荷軽減だ。これらにより、テレマーケティングやコールセンターのリソースを補完するという目的を設定していた。

AI導入によるユーザーエクスペリエンスの強化、費用対効果を期待

メインターゲットはコールセンターに電話をせず、不明点があっても電話照会したがらない層だ。こうしたニーズに応えつつ、コールセンターの時間外となる夜間や休日の対応も充実させようとした。その結果、FAQのアクセス数増加と電話照会件数の減少が実現し、これにより、オペレーター一席分のリソースとそれ以外のプラスアルファ分の費用対効果も出るだろうと見込んだのだ。

導入3カ月の時点で、FAQの数を100件から700件まで増やしたという。既存のマニュアルを一問一答式に作り変え、各担当の持つナレッジのデータを集めたほか、コールセンターのオペレーター全員に協力を求めてFAQに導入してほしい内容を回答してもらった。問い合わせの多い質問や調べなければわからなかった質問を書き出してもらい、統括セクションの内容確認やコンプライアンスチェックという一連の流れを作り、毎週数十件クラスで追加していったのだ。

そして、「Oracle Service Cloud」で利用できる多数のレポートの中から重要なレポートを選び、月1回レポーティングを実施。検索されたがアンサーを返せなかったキーワード、参照されたアンサーの順位が低すぎるものなどは、「表現を直す」「FAQの種類を増やす」などして補完した。これに加え、類義語、勘違い語、専門用語をユーザー目線の言葉に読み替えるといったチューニングを毎月実施。しかし3カ月の時点では、FAQの利用数自体は約2倍に増加したものの、電話の照会も増加してしまった。この段階では、費用対効果が出ていないのではと言われることもあったという。

1年が経過し、運用ルールが定着したこともあり、FAQの件数は1000件に到達。AIの学習状況・利用状況については、検索TOP5までのアンサーで課題を解決したのは56%、アンサー参照なし(サマリーで解決し、離脱したユーザーも含む)が32.8%、検索ヒットなしは22ワードに収まっている。つまり、7~8割のユーザーが求めているアンサーに到達しているのだ。丸岡氏はこの結果について、「AIがいかに最適なアンサーを上位表示しているかという定量的な証左」と、AIの有効性をアピールした。

こうしたモニタリング管理が行えるのもサービス利用の魅力

年間受電数は前年に比べ98%と、3カ月の時点では増加したにもかかわらず減少に転じている。さらに、この時期はWebサイトの集客に力を入れ、オフィシャルサイトへのアクセス数は前年比169%、ホームページ経由のローンの申し込みは約2割増となっていた。本来であれば問い合わせも増えるはずだが、逆に減少したという点を実質的な効果と評価している。

「かゆいところに手が届く」を目指し

FAQへのAI導入から1年が経ち、丸岡氏はAIも知能であるため、人間の成長と同様に短期間ではなかなか成果が出ず、場合によってはマイナスに作用することもあることを念頭に置くべきと、AI導入にあたってのアドバイスを述べた。2点目のアドバイスとして、FAQのAIは学術的に言えば「教師あり学習」であるため、ユーザーの検索行動自体が教師という位置づけになることから、管理者側も学習状況をきちんと把握した上で、AIをチューニングし導いていく必要があるとした。

AIは自動的に成長・学習するものではなく、人間のように教え導く必要がある

さらに、丸岡氏が3点目のアドバイスとして挙げたのが「FAQサイトをどうとらえるか」ということだ。FAQを「ユーザーが必要な情報を探し出す場」と考えるならAIは不要だが、同行のコンセプトである「おもてなし」のように、ユーザーエクスペリエンスをどう考えるかにより判断は変わるだろう。

丸岡氏は企業の考え方、この先どうするかというコンセプトに応じて選択すべきであり、ツールやシステムにこだわる必要はないと主張。同行の取り組みがヒントとなり、世の中のさまざまなWebサイトがユーザーの「かゆいところに手が届く」サイトになれば望ましいと締めくくった。