ダウンクロック版採用の目的とは

ダウンクロックの効果は主に「省電力」の部分に現れていると考えられ、第5世代iPod touchと比較しても大幅にパフォーマンスが向上しているのにもかかわらずバッテリ容量は第5世代の1030mAhから1043mAhに微増した程度でオーディオ連続再生が40時間に動画再生が8時間という仕様も変化していない

この省電力という部分はA7やA8を搭載したiPhoneと比較するとより明らかで、A7を搭載したiPhone 5sが1560mAhのバッテリサイズでオーディオ連続再生40時間/動画再生10時間A8を搭載したiPhone 6が1810mAhのバッテリサイズでオーディオ連続再生50時間/動画再生11時間となっている。第6世代iPod touchはiPhone 6の6割弱程度のバッテリサイズしかないのにもかかわらず、それに匹敵するだけのバッテリ駆動時間を実現していることがわかるだろう(もちろんLTEモデム搭載の有無や画面解像度の違いはあるが)。

つまり、iPhone 6では本体サイズが4インチから4.7インチまで拡大したことで大容量バッテリの搭載が可能になり、バッテリ駆動時間を延ばすことが可能になった。だが一方で4インチのiPod touchがバッテリ容量を増やさずに薄型筐体のまま同等のバッテリ駆動時間を実現するには、A7採用でも素のA8採用でもなく、A8プロセッサのダウンクロックが最適解だったのかもしれない。

ここから先は筆者の仮説ではあるが、A8のダウンクロック版採用の背景にはもういくつかの理由があると考えている。1つの予想はA8を製造しているTSMCとSamsungの20nm製造プロセスの歩留まりが依然として悪く、選別品としてiPhone 6や6 Plusへの採用を見送られた「A8」をダウンクロックした状態でiPod touchに採用している可能性だ。TSMCの20nmについてはリーク電流増大など諸所の問題を抱えており、特に高性能を要求されるGPUの製造は同世代では見送られたとの報告もある

同様のトラブルはSamsung側も抱えているといわれ、TSMCは16nm FinFET、SamsungとGlobalFoundriesは14nm FinFETへと早々に移行しようとしている。20nmの立ち上がりが遅れたということもあるが、ムーアの法則から考えれば通常2年サイクル程度で行われるプロセス移行が比較的短期間で行われることになる。TSMCの20nmに関しては、一部で話題になっているQualcommのSnapdragon 810のパフォーマンスや発熱問題の原因の1つともいわれ、意外と根深い話なのかもしれない。