――まず絵を消してみようという発想が斬新だと思うのですが、小さな塑像の精密さもさることながら、意図通り、まるで対象が平面から抜け出てきたかのような神秘的な雰囲気をまとっているのが印象的です。作品化に際して、「消す」対象はどういった基準で選んでいるのでしょうか?

基準というのは特に設けていません。というのも、キリストの描かれた厳粛な絵を題材としたものも、酒瓶にラベリングされた可愛らしい猫を消して作ったものも、すべて平面が立体になるという点では同等です。神様も、日常に溶け込んだ物でも、作品にすると等価になってしまうんです。基準を設けていない、というのは、そういう意味ですね。

「カンノンダスト」(2010年)

――神から日用品まで並列化してしまう試みといえるのでしょうか。

そうですね。消しカスで作った作品にすべて「○○ダスト」という規則性のある名前をつけているのも、そういった思いからです。

――「○○ダスト」シリーズは既存の印刷物を使っている作品が多いですが、印字された部分は一般的な消しゴムをかけるだけでうまく加工できますか?特別な工夫などされているのでしょうか?

これといって特別なことはしていなくて、市販されている普通の消しゴムをかければ、消すことができますよ。実は、既存の印刷物よりも、家庭用プリンタで出力したものの方が消しにくいです。紙にインクが吸収されているせいでしょうね。オフセット印刷のようなものの方が消えやすいんですよ。

――いつも制作に使っている消しゴムは?

いろいろな種類の消しゴムを試しましたが、最近は無印良品や百円均一で売っている物をよく使います。砂消しゴムや練り消しなどではなく、普通の白い消しゴムを使っています。

――ひとつ作品をつくるのに、消しゴムをどれくらい消費しますか?

厳密に数えてはいないのですが、例えば「カンノンダスト」は20センチ近くある比較的大きな像を造ったので、おそらく消しゴム10個くらいは消費したと思います。

――「カンノンダスト」や「バレエダスト」など、絵を消して作る作品についてご自身で制作時に描かれたのですか?それとも素材を見つけてきて使っているのでしょうか。

これまで制作した「○○ダスト」シリーズの作品は、既存の絵を使っています。自分で描いた方が適切な場合は、そうすることもあるかもしれませんが、今のところそう思わせるテーマがないですね。

「ヤマネコダスト」(2011年)

――「○○ダスト」シリーズの制作に関してもう少しお聞きしたいのですが、消す時間と像を造る時間はどれくらいかかりますか?

消す作業と像を造る作業は、だいたい並行して進められます。消して、色分けして、練って、肉付けして。そうした作業の繰り返しです。サイズや紙の材質によっても、作業時間は大きく変わります。また絵の内容が細かいほど、比例してさらに時間は増えていきます。さきほどの「カンノンダスト」は、完成するのに半年近くかかりました。もう少し早く作るための工夫はしようと思っています。

――消しカスを練る際、何かつなぎの素材などは用いるのでしょうか?

いいえ、ひたすら消しカスだけをこねていきます。小学生のころ、消しゴムのカスでお手製の練り消しを作ったことがある方もいらっしゃると思いますが、それと同じ感覚です。

――非常に緻密な塑像ですが、作成の仕方はシンプルなんですね。練り消しなどは使わないのですか?

使っていないですね。練り消しを試したことはないのですが、練り消しはすでにできあがっている状態のように感じるので、一度消しカスとして出して練り上げるほうが、作品の意図にあっていると思います。