米Appleが米国CATV最大手のComcastとの提携で、TVのストリーミング配信サービスを計画しているという話が持ち上がっている。クラウド上にあるコンテンツをApple TVを介してストリーミング視聴できるサービスで、サービスプロバイダから各家庭の視聴端末まで、いわゆるラストワンマイルの品質を向上させ、他サービスとの差別化を図るのが狙いだという。

同件はWall Street Journalが関係者の話として報じている。それによれば、AppleはTVプログラム/ライブのオンデマンドやDVRとしてクラウド上にストアされた番組をストリーミング形式で配信する仕組みを検討しているという。CATVサービスでは各社がSTBを契約者に配布してサービスを提供しているが、この機能の一部をApple TVのようなボックス装置で肩代わりする形になるとみられる。

Appleにとってのメリットは、ストリーミング配信におけるキャッシュ時間なしで高品質な動画配信が可能なこと、Comcastにとってのメリットは、契約者減少や契約のダウングレードによる減収に悩むCATV事業者において、回線の新たな活用方法や配信プラットフォームを入手できる点にある。

AppleではComcast側に高品質配信のための追加投資を打診しつつ、同サービスを利用するユーザーに対して契約料金値下げを提示するよう提案しているという。回線使用にあたってはApple側がComcastに一定額の支払いを行う形態が予想されるため、利用ハードルを下げることも狙いの1つにあるとみられる。

WSJによれば、Comcastにとっては別の狙いとメリットもあるという。同社は先日、ライバルだった同業2位のTime Warner Cable買収を発表しているが、その際に米連邦通信委員会(FCC)から付帯条件として"Net Neutrality"の遵守を求められたという。

例えば、現在米国のインターネットサービスプロバイダの間では、回線負荷をかけるアプリケーション(例えばYouTubeといった動画ストリーミングなど)が「回線投資に対してタダ乗りしている」との論調があり、こうした事業者やアプリケーションに対して回線帯域の絞り込みや追加料金請求といった動きが出ているとされている。Net Neutralityは、こうしたISP側の意図によってネットワーク利用が偏向し、特定事業者の優遇につながる措置にならないよう関係各所の意図が働きつつある。Apple側の提案受け入れは、こうした政府機関の監視の目を反らす狙いもあるようだ。

もともとAppleでは、前述Time Warner Cableと「Project Jupiter」の名称で2012年半ば以降同種の提携に向けた協議を進めていたが、Comcastによる買収の話が入ったことで中断しているという経緯がある。今回の話題は、これが復活したものとみられる。Apple以外にも、ストリーミングによるコンテンツのオンデマンド配信サービスで大手のNetflixがComcastと同種の契約を結び、一定料金をComcast側に払っているといわれる。これは、前述のタダ乗り論調に対する施策の1つとみられ、これを逆に利用者増加の中での回線品質の向上という差別化要因に利用したという構図だ。そのため、Appleも似たような手順で交渉を進めていくと考えられる。

なお、交渉はまだ初期段階であり、具体的な動きや決定はもう少し先となりそうだ。