現場視点でのデータ分析で数々の業務改善を実現

彼らの仕事をご理解いただくために、これまでビジネスアナリシスセンターが社内の業務変革に貢献した事例を2つばかり紹介しよう。

まず1つ目は、緊急車両の最適配置を実現するシステムだ。

緊急車両を運用する組織にとって、その配置場所は非常に重要な問題である。配置場所を間違えれば、現地到着までの時間が伸びるうえ、必要車輌数も増えることになる。

そこでビジネスアナリシスセンターのデータサイエンティストは、車両出動シミュレーターを開発。過去一年分の緊急車両の出動事例に交通渋滞データなどを組み合わせて、配置場所/車両数を入力するとシミュレートできるシステムを作った。交通渋滞データには、幹線道路や高速道路を計測しているVICSに加えて、自動車メーカーが車載GPSで収集している渋滞情報も活用することで、細道路の移動時間まで正確に再現。配置パターンに対して所用時間や遅延到達件数を正確に算出できるシステムを作り、車輌配置の最適化をサポートしている。現在このシステムは、大阪ガスにとって欠かせないものとなっているという。

もう1つは、ガス機器の修理やメンテナンスに出向く担当者に対して携行すべき部品の候補を提示するソリューションだ。

構築に際しては、過去からストックしている400万件もの故障データを分析することで、携行すべき部品を割り出せるようにした。ただし、河本氏によると、当初はこうした分析ツールに対して抵抗感を示す現場スタッフが多かったという。

そこで、独立したアプリケーションとして開発したものを、メンテナンス業務システムの一部に組み込むかたちに変更。さらに、一部の賛同者に積極的に使ってもらい、その効果を検証してもらうという方法をとり、勘や経験を重視するベテラン担当者にも活用してもらえる状況を作り上げた。その結果、訪問時に部品が手元になく、取りに帰って修理が遅れるというケースが減り、メンテナンス業務の当日完了率が大幅に向上した。

「後者の事例で学んだのは、現場の勘や経験を否定してはいけないということ。勘や経験から導き出される答えは、数字の分析結果に近い精度を誇ることも多く、数字の裏付けをとって因果関係を示しても、"そんなの前から知っているよ"と言われるケースが少なくなりません。そもそも突発的な事態には、勘や経験を頼りにしたほうが良い結果を導き出せることが多いです。また、勘や経験を否定すれば、現場の方々に受け入れてもらうのは難しくなります。データサイエンティストに大切なのは、データ分析の良い所と、勘と経験の良い所を融合しようという意識ですね」(河本氏)

データサイエンティストにはビジネスマインドが必須

河本氏は、「バックオフィス型ではなくフォワード型分析者たれ」という持論を掲げている。バックオフィス型の分析者とは、与えられた分析課題から知識を導き出すまでの能力に特化した人々を指す。対して、フォワード型分析者というのは、その前後のプロセスで必要とされる、ビジネス課題からデータ分析のニーズを見つける力と、分析の結果得られた知識を現場での意思決定に使ってもらう力までも有する者を言う。

「データサイエンティストは、問題を見つける力を磨けるかどうかが大切。そのためにも、ビジネス現場とのコミュニケーション力、社内外のデータに関する見識、そしてデータ側からではなく、ビジネス側から発想するという意識が欠かせません」と河本氏は主張する。

同氏によると、経験の浅い若手分析者はとかくデータ本位で仕事に挑んでしまいがちなのだという。

「データサイエンティストは、ビジネス現場から"こういう分析をしてくれないか"と相談されることが多いのですが、経験の浅い分析者だとそうした場面で、 "どんなデータがあるのか"、"どこまでの精度を求めるのか"いう点を質問してしまいがちです。だが、それではいけません。大切なのは、分析結果を"どのように使い"、それによって"ビジネスにどんな影響があるのか"という点を明らかにすることです。そこを押さえられれば、"こんな分析をした方がいいのでは"という新たな提案まで行えるようになりますし、その結果、現場スタッフもだんだんと問題を整理できるようになっていきます」(河本氏)

ビジネスアナリシスセンターが提供してきた分析ソリューションは、既にあらゆる部門、業務に行き届いており、ビジネスの意思決定に大いに役立っているのである。

そんな同氏が人材育成の柱としているのが、「責任感」、「正しい動機」、「ビジネスマインド」の3つだ。責任感とは会社全体に与える影響に基づくものであり、正しい動機は、プロセスではなくビジネスへの貢献に価値を見出すということである。

大阪ガスにはビジネスアナリシスセンターの他に、同じ情報通信部内でデータベースやBIによるサービスを提供するチームも存在している。こちらは、現場の社員が自ら行う定型的で簡易なデータ分析をサポートしており、ビジネスアナリシスセンターと連携することで網羅的なデータ活用体制を築いている。さらに高度な分析が必要な場合には、オージス総研の専門スタッフによるサポートも受けられるようになっている。こうして全社的にデータ活用を推進することで、社員全体の分析能力の底上げを図ることを目指しているのだ。

河本氏は、これからデータ分析に取り組むことを検討している企業に対して、次のようにアドバイスを送る。

「ビッグデータがもてはやされているおかげでデータ分析に対する関心は非常に高まっています。しかし、そのせいで、データ分析を万能視する風潮も見受けられます。最近では分析ツールも進化していますから、単に数字の相関を確認するだけならできる人も多いでしょう。でも大事なのは、ビジネスに対してどういった効果をもたらすかという点。概念論で語るのではなく、経営陣に対して、"データ分析を行ったことでこんなに会社がよくなったんだ"と思わせるような成果を上げることを第一に考えれば、きっとうまくいくのではないでしょうか」