前ページで触れたHANAの3つのメリットのうち、(1)のシンプル化については、SAPは今後、トランザクション系と分析系のすべてのSAP製品がHANAの上で動くようにしていく計画だ。これにより「複雑でばらばらだったITランドスケープはシンプルになる」とSikka氏。「HANAは大規模なシンプル化と加速化の土台になる」と説く。

さらには、このような高速化を「顧客の多くが自分たちで達成している」とSikka氏、SAPは「Experience SAP HANA」を立ち上げ、情報共有を促進しているという。

トランザクション系と分析系のすべてのSAP製品がHANAの上で動くようにするという

(2)のリアルタイムでは、SystemR、R/2、R/3に次ぐ「4度目の挑戦」とSikka氏。インメモリ、モバイル、クラウドの3つの組み合わせにより、「今度は達成できそうだ」と自信を見せる。

特にモバイルについては、SAPはエンタープライズのモバイル化を主要な目的として2010年にSybaseを買収した。Sybaseは既存アプリをモバイル対応するプラットフォーム「Unwired Platform」などの技術を持ち、SAPもアプリケーション開発パラダイムが変わったとSikka氏。「われわれは現在、モバイル最優先で開発している」という。

SAPは11月前半にスペインで開催した「SAPPHIRE Now/TechEd Madrid」にて3種類のモバイルアプリとアプリストア「SAP Mobile Apps」を発表、今後はパートナーやサードパーティから数千単位でアプリケーションが出てくるだろうと期待を寄せる。同アプリストアは現在、iOSに対応、今後AndroidやBlackBerryからもアクセス可能になるという。アプリケーション側では、2015年に期限を迎えることになっていた「Business Suite」のメンテナンスサポートを2020年に延長することを発表、顧客は安心して利用できると伝えた。

アプリケーションプラットフォームである「SAP NetWeaver」は6万5000社が実装しており、「NetWeaver Business Warehouse(BW)」は1万6000社、「SAP Enterprise Portal」は1万社が利用している。同じくスペインのSAPPHIREでSAPは、HANAがBWに対応したことを発表、既存顧客がHANAのメリットを享受できるようになった。

(3)のエンドユーザーへの拡大は、新しいアプリケーションにより実現する。HANAは既存のオペレーションの高速化だけではなく、新しいタイプのアプリケーションが可能になる。SAPは10万人にリーチするという目標を掲げており、Sikka氏はステージ上で「Dynamic Cash Management」「Profitability Analysis Accelerator for ERP(CO-PA)」「SAP Sales & Operation Planning」「SAP Smart Meter Analytics」などのインメモリアプリケーションを次々と挙げた。

中国Lenovoでバイスプレジデントを務めるXiaoyu Liu氏も登壇、HANAを利用してほぼリアルタイム(0.01秒)で営業レポート生成を実現しているという。Dynamic Cash ManagementはLenovoとの協業により開発した。

Sikka氏は3つのポイントと同時に、「崩壊することなく、革新的技術を届ける」点を強調する。「HANAによりデータマートは不要となる」と述べると同時に、「リプレースしていくのではなく、現在の複雑なITランドスケープが溶解する。ITは大きく簡素化が進み、統一されていく」とSikka氏は述べ、新しいエンタープライズの道筋を示した。