以上のように説明すると、走行タイムですべてを決するようなイメージを持つかも知れないが、それは違う。前述したように、モデルの審査結果も重要となる。モデル審査とは、UMLなどのモデリング手法に基づく走行体を動かす設計図の良さを競うもので、大別して「モデルの書き方」、「追加課題」、「オリジナリティ」、「モデルの内容」の4点で審査される(画像19)。また、競技終了後には、審査員によるモデルに関してのワークショップも開催された。

画像19。ETロボコンでは、モデルに関しては秘匿せず、参加者全体で共有できる仕組みになっている。各チームは、画面のようなモデルの説明を用紙にまとめて会場に貼り出しており、参加者も観覧者も誰でも見られるのだ。もちろん、プレゼン能力も問われるわけで、審査員はそれらを見て得点をつけていく

最終的に、走行タイム(競技部門)と、モデル部門の評価の両方を合わせた評価が、総合順位となり、上位5チームと、6位相当の特別枠の計6チームが、チャンピオンシップ大会に進むことになる。なお東京地区は、最もチーム数が多くて唯一A、Bブロックがあるので、合わせて12チームがチャンピオンシップに進む形だ。

なお、各チームの得点の算出方法だが、走行競技とモデル審査はともに最低0点から最高1点までの間で導き出される。そして総合結果は、(2×モデル審査得点×モデル審査得点)÷(モデル審査得点+走行競技得点)の式を使う。単純に両部門の得点を足して2で割るという形で総合結果が出るわけではないのだ。これは、例えば走行競技で満点の1点を出して、モデル審査で最低の0点を出しても、もし足して2で割るだけだったら、0.5点を獲得できてしまうのを防ぐためである。走行競技もモデリングもともに高くないと総合結果で上位に進出できない仕組みなのだ。

また、モデリングに関してはただきれいなだけでは高評価されないようになってきている。実際に実装できるかどうかがポイントとなるのだ。またETロボコン実行委員長の星光行氏によれば、近年の傾向として、高評価されたモデリングを搭載した走行体が、走行タイムもいいという結果を伴うようになってきているという。

そして競技の模様だが、初日の方が完走率が高かった。初日はかなりの高確率で完走していたが、2日目は30%台となっている。これは、理由がないわけではない。会場の工学院大学の1階ホールは4階ぐらいまでの吹き抜けとなっており、大きな天窓のため(画像19)、天気がいいとコースはかなり外光の影響を受けるのだ。初日は曇天だったが、2日目は雲はあったが青空が普通に見えていたため、外光の影響が大きかったというわけである

画像20。天窓。2日目は普通に晴れていたため、時間帯で差し込む外光の量が変化。自律系の競技として考えた場合、時間帯によって環境が変化してしまうのは改善が必要となるだろうが、ETロボコンはあくまでも初級レベルの技術者を中級レベルに持って行くための経験を積ませる場として開催していることから、これを克服してほしいと実行委員長の星氏は語っている

ETロボコンは午前中が試走の時間帯で、13時近くから第1競技が始まり、第2競技は15時頃。晴天だと、陽光の差し込む角度がかなり異なるため、人の目には大きな変化はなくても、レゴ・マインドストームNXTの赤外線センサにとっては、センシング方法次第で大きく影響を受けてしまうというわけだ。そのため、2日目は試走では完走していたのに、本番ではまったく不安定になってしまった、というチームが多かったようである。

このことに対して、「ライントレース競技の一種なのにコースに外光が当たるなんて環境が悪すぎる」という意見があるのも事実だ(記者も最初はそう思った)。しかしETロボコンは、近年は大学生を筆頭に学生チームも多いが、本来は技術者育成を目的にした大会である。例えばだが、実際の業務における開発において、顧客に対して「センサが外乱に弱いから、絶対に一定の環境以外で使用してください」などといえるだろうか?

実際、強豪チームは外乱対策も施した上で参戦してくるわけで、「その日によって明るさが異なる」ことも、東京大会のETロボコンの条件の1つと考えた方がいいようである(つまり、同じETロボコン地区大会の中でも難易度が高い)。どちらにしろ、チャンピオンシップ大会のパシフィコ横浜はまた条件が異なるので、異なる環境に対応できるようにしておくことは必須といえそうだ。ちなみに、「マイマイ方式」と呼ばれるセンシング方法が外乱に強く、強豪チームの中には、それを採用しているところもある。

初日は、インコースがシーソーを超えたところが山場の1つで、その次が階段。アウトコースはルックアップゲートが山場のようだった。2日目は、どうも外光の影響なのか、第1コーナーまでたどり着けないチームも多く、中にはスタートすらできないチームもあった。ちなみに、両日ともにガレージインまで到達したチームは数えるほどである。

また、今年はBluetoothをスタート時に利用できるようになった点も特徴。スタート時に、スターターが指でタッチセンサを押して走行体は走り出すわけだが、走行体にとって人にタッチセンサを押されるのは体勢を大きく崩しかねないようで、スタートが楽になったといえる。

結果だが、初日のAブロックは、まず走行競技の第3位が「i468」、第2位が「HASH UFO」、第1位が「追跡線隊ICSレッド」。モデル部門が、シルバーモデル(第3位)が「StrayCab06」、ゴールドモデル(第2位)が「ハマロボ」、エクセレントモデル(第1位)が「HASH UFO」となった。そして記念大会ということで、今年だけは各地区第6位相当の第10回大会特別枠が設けられ、総合優勝から5位までの5チームとともにチャンピオンシップ大会に進むことに。東京地区Aブロックは「追跡線隊ICSレッド」が選出された。そして総合結果は、第5位が「i468」、第4位が「C:\新しいフォルダ(6)」、第3位が「ていくいっといーじー」、準優勝が「StrayCab06」、優勝が「HASH UFO」に決定した。

2日目のBブロックは、まず走行競技が、第3位が「松浦Lab」、第2位が「チームSUPRAパンダ」、第1位が「芝浦雑伎団」。モデル部門が、シルバーが「リターン オブ タムラ」、ゴールドが「チームSUPRAパンダ」、エクセレントが「田町レーシング」。第10回大会特別枠東京地区Bブロックが「ARASHI50」。総合結果は、第5位が「松浦Lab」、第4位が「eRush」、第3位が「芝浦雑伎団」、準優勝が「リターン オブ タムラ」、優勝が「チームSUPRAパンダ」となった。A、Bブロック合わせて、地区大会中で東京は最大の12チームがチャンピオンシップに出場することになる。

画像21。初日のAブロックの総合優勝を決めた、HUSH UFOの代表選手。HUSH UFOは走行競技で第2位、モデル部門で第1位と両方で好成績だった

画像22。2日目のBロックの総合優勝を決めた、チームSUPRAパンダの代表選手。チームSUPRAパンダも走行競技で第2位、モデル部門で第2位と両方そろっての好成績が総合優勝に到達した理由だ

今年の結果を見て前出の星実行委員長によれば、モデルのレベルの高さと走行競技での結果が結びつくようになってきたことが挙げられる、という。かつては、モデルはとてもきれいだが、実装できるのか疑問符のつくものも見受けられたようで、美しくも実用性のあるモデルが考案されるようになってきたということだ。なお、モデルはプレゼンテーションとしてポスター化して全チームが張り出してあり、トップクラスのチームのコンセプトなどを吸収することが可能。毎年、底上げしていける仕組みになっているのだ。

以上、ETロボコン2011東京大会のリポートをお届けした。チャンピオンシップ大会もリポートする予定だ。