日本の技術力の粋がいくつも搭載されたHTV

セション2では「日本初の宇宙船 -HTVの挑戦-」と題して、JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 HTVプロジェクトマネージャの虎野吉彦氏およびJAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 HTVファンクションマネージャ(飛行運用)兼HTVフライトディレクタの山中浩二氏がHTVに関する講演を行った。

)編集注:虎野吉彦氏の吉の字は正しくは土に口の吉となります

HTVは16.5t(質量約10.5t+補給物資約6t)という日本最大の宇宙機で、スペースシャトル退役後の大型貨物をISSに輸送できる無人宇宙輸送機。虎野氏は、「HTV(技術実証機)の成功により、日本は有人宇宙技術の1部を手に入れることに成功した」と、その成果を表現する。

HTVの概要とHTVの成功による獲得した主な技術

時速2万8,000kmで飛行するISSと無人運転でランデブーを行ったHTVだが、ランデブー期間中も1万km程度の飛行をISSと行っていた。「その間の相対速度はほぼゼロ。ズレとしては1mm程度という非常に高い精度を実現した」(山中氏)で、「レーザでISSの位置を検知して、相対距離を維持していたが、こうした技術を活用して無人でランデブー、ドッキングを実現するという案は米国航空宇宙局(NASA)からも、そんなことができるのか、と言われたほど」(同)という高いハードルであったが、それでも実現せしめたことについては「手品ではなく、地味にひたすら作りこみを行っていった結果。日本の技術力を結集したからこそ、なんとかなったと思っている」(同)と、日本がこれまで築いてきた技術力とすり合わせ力の結果が成功につながったとした。

打ち上げられたHTVの様子。ISSのロボットアームでHTVを掴んだ瞬間は、つくば、ヒューストンの管制室ともにスピーカーが割れんばかりの歓声が沸き起こったとのこと。また、HTVを掴むためにロボットアームを操作していたニコラ宇宙飛行士が、その間にもつくばの寿司屋に連絡を入れており、つくばの管制室に宇宙からの出前が届いたという裏話も披露された

無人ながら軌道上の好きなところに行ける能力、ランデブー能力、有人安全対応のシステム技術(与圧部では人間も活動可能)、そして再突入の制御技術と、日本の技術力を結集したHTVについて、虎野氏は、「これらの技術は、ISSだけではなく、将来の月探査や有人輸送システムの実現に不可欠。HTVを改良することで、例えばH-IIBの改良したものとの組み合わせによる月輸送船や、HTV同士を組み合わせた宇宙ステーションの構築、そして有人ロケットも可能になる。特に月面にはJAXAとしても行きたいと思っているし、個人的には火星、そしてその先の広大な宇宙への進出を目指した開発を行っていきたい」と、HTVの技術をより進化させていくことで、日本という国やそこに住む人が宇宙でより活躍していける時代が来る可能性を示した。

HTVで得た技術を活用することで、月や火星、そしてそれよりも遠くの惑星開発の可能性なども見えてくる

有人宇宙開発は危機管理の意味でも重要

セッション3では「新たな有人宇宙時代の実現に向けて」と題してJAXA有人宇宙技術部の若田光一宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)などでの経験を踏まえた講演を行った。

JAXA有人宇宙技術部の若田光一宇宙飛行士

若田宇宙飛行士はSTS-72やSTS-92での活動を経て、2009年3月より同7月までのおよそ4カ月半、ISSの第18次/19次/20次ISS長期滞在員として宇宙で生活をした後、2010年3月からはNASA宇宙飛行士室ISS運用ブランチチーフに就任している。

ISSでは5回の船外活動(EVA)を行ったほか、ISS、きぼう、スペースシャトルの4種類のロボットアームを操作するなど、多彩な活躍を見せてくれ、4種類のロボットアームについては「きぼうのロボットアームはユーザフレンドリに作ってあり、使い勝手が良かった」(若田氏)と評価をした。

また、ISSでの生活については、「過去2回のフライトでは、6~7人のチームと1年以上前から一緒に訓練を行うなどによりチームワークを築いてきたが、今回は打ち上げ、長期滞在、地球帰還の間に5チームと一緒に仕事をできたということが、本当に貴重な体験となった」(同)と振り返った。

若田宇宙飛行士とともに長期滞在関連で関わった宇宙飛行士たち

さらに若田宇宙飛行士は、ISSでロボットアーム操作などの作業のほかに、さまざまな実験にも関わった。こうした微小重力下における実験は、地球の重力(1G)下において抑えられていた能力が発動する可能性を探ることが可能になるとするほか、自身を被検体にした骨密度の減少を防ぐ実験については、「(JAXAとNASAが共同で開発した)骨粗しょう症の薬と運動によって、非常に良い効果を得られた。通常、宇宙空間で動かないと、腰椎や大たい骨の骨密度は1カ月で1~1.5%程度低減してしまう。今回、薬の服用と運動により、宇宙に行く前よりも骨密度が増した」とし、地上では行うことが難しい実験の成果が、結果として地上での役に立つことを強調した。

ISSでは自身の身体も被検体にし、さまざまな実験が行われた

最後に、有人による宇宙開発について若田宇宙飛行士は、「日本は人間が24時間安全に宇宙で生活できる技術をきぼう、そしてHTVで手に入れた。有人宇宙開発は今後、技術のある国が責任を持って、それぞれの得意分野を生かし、それを高めていくことで、その成果をもって世界に貢献することができる。また、ISSに参加している国々の中で、アジアからは日本だけ、そういったことを踏まえて日本のプレゼンスを高める意味でも有人宇宙開発は重要だし、長期的に見れば、人類における危機管理にもつながると思っている。誰が有人宇宙開発を進めていくのかと言ったら、それは技術力のある国。日本はそういった国の1つなわけですから、しっかりと継続して行っていかなければいけない」と述べ、今後、日本が有人宇宙開発を進めていくことが将来における日本の国際的立場を向上させていくことにつながるとの見方を示した。