宇宙も「官から民へ」と秋葉氏

秋葉鐐二郎・宇宙科学研究所名誉教授(元所長)

さて、重要なのは「これから」の話である。秋葉氏の講演タイトルは「50年後の『おおすみ』は?」というものだったが、ここで言う「50年後」とは、「おおすみ」の打上げから50年後、つまりは今から10年後のことになる。

2009年は、若田光一宇宙飛行士による日本人初の宇宙長期滞在(3月~7月)、国際宇宙ステーションの日本モジュール「きぼう」の完成(7月)、無人輸送機「HTV」と大型ロケット「H-IIB」の初フライトの成功(9月)と、華々しいほどの成果を上げた日本の宇宙開発だが、今後については混迷の度合いを深めている。

宇宙基本法の成立を受け、設置された宇宙開発戦略本部であるが、政権が変わったこともあり、「政治主導」という本来の機能を果たしているようには見えない。大きなテーマである月探査を検討する「月探査に関する懇談会」も、2足歩行ロボットがどうのこうのと紛糾しており、残り4回の会合で、議論を尽くした上での結論を出せるのか疑問だ。そもそも、有人機の開発をするのかしないのかについては、議論すら始まっていない。

そういった現状への苛立ちもあるだろう。秋葉氏の講演の後半は、今後についての提言となっていた。現場の後輩に対する、叱咤でもあり、激励でもある。内容はかなりチャレンジングで、あとで登壇した的川氏からは「年寄りほど元気という宇宙研の伝統を発揮した」と評されていた。

秋葉氏は、現状の宇宙開発を「大きなロケットで大きな衛星をたまに打上げている」と表現し、これを「止めよう」という。アイデアの基本となるのは、軌道上での組み立てだ。「10トンを毎月1回上げても、1年で120トン程度にしかならないが、1日に10回とか100回も上げられれば、例え1回が1トンでも、何万トンという宇宙システムを構築できる。そうなれば、夢と言われ続けてきた月面基地や太陽光発電も視野に入ってくる」(秋葉氏)

次世代の宇宙活動。「小型化で数を稼ぐのがこれからの方向」と秋葉氏

そのためには、高頻度に安く打上げられるシステムが必要となるが、1つの候補として考えられているのが空中発射。飛行機でロケットを運び、上空で発射するシステムで、大きな1段目が不要になるほか、日本では、漁業問題を一挙に解決できるというメリットもある。また真南に打上げられるので、極軌道への投入能力を最大限に発揮できる(種子島や内之浦の射場では、東寄りに打上げてから南に曲げるのでロスが大きい)。

そして宇宙開発の在り方については、「民間が国にとって変わる時代になった」と述べる。高コスト体質の国による開発から、効率的で素早い民間による開発へ、という流れは、現実に米国で起きている。Scaled CompositesのSpaceShipOneは民間機による初の宇宙飛行に成功し、SpaceXのFalcon 1ロケットは人工衛星の軌道投入を実現した。

「そこで」と秋葉氏が切り出したのが、「1kgの小型衛星を100万円で打上げられる回収型ロケットを開発したチームに懸賞金を出す」というアイデア。SpaceShipOneの実現に繋がったX PRIZEの"日本版"とも言える構想で、懸賞金は1億円以上を想定、中間成果にも賞金を出し、期日は「おおすみ」の50周年となる2020年2月11日とする。

「おおすみ」50周年記念事業としてのアイデア

日本では、ホリエモンこと堀江貴文氏らのグループが独自のロケット開発をすでに始めているが(筆者のブログ参照)、米国に比べ、こういった動きは圧倒的に少ない。あとは北海道大学・植松電機のCAMUIロケットが有力なくらいだ。

秋葉氏の提案の狙いは、もっとプレーヤーを増やすことにある。「100万円で」と制限を付けたのもそのためだ。「このくらいなら個人でもできる。国民の誰もが参加できる」と秋葉氏。現在、民間が宇宙開発に進出するには、射場や法整備の問題など、さまざまな課題が残っているが、秋葉氏は「そのための環境を作るのは『公』の仕事。宇宙研あたりはそこで汗をかくべきだろう」と注文を付けた。