野口聡一
宇宙飛行士。1965年生まれ。神奈川出身。身長180cm。1996年にNASDA(現JAXA)が募集する宇宙飛行士候補者に選定される。1998年にNASAよりミッションスペシャリストに認定。2005年7月のスペースシャトル「ディスカバリー号」によるSTS-114ミッションに参加。日本人宇宙飛行士として初めて、国際宇宙ステーションで船外活動を行う。ISS第22次/第23次長期滞在クルーとして、2009年12月以降のソユーズ搭乗を目指して現在訓練中。趣味は、ジョギング、野球、スキー、キャンプ
提供:JAXA

今年はガリレオが望遠鏡を使って初の天体観測をしてからちょうど400年にあたる「世界天文年2009」。また、日本時間3月12日には若田光一宇宙飛行士がスペースシャトルで国際宇宙ステーション(ISS)に向かい、JAXAの飛行士としては初めてISSでの長期滞在(約3カ月半)を開始予定、7月には国内で46年ぶりに観測できる皆既日食、夏には国際宇宙ステーションへの宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle: HTV)による物資輸送等を行う新型ロケット「H-IIB」の初打上げと、国内でも宇宙に関する話題が目白押しだ。

そして年末には、野口聡一飛行士がロシアのソユーズ宇宙船で、約半年というさらに長期のISS滞在に出発する。日本はもとより全人類にとっての科学の発展につながる重要なミッションだが、その一方、宇宙での生活がどんなものであるかというのも純粋に気になるところ。特にマイコミジャーナル読者であれば、身近なデジタル機器が宇宙でも使えるのか、興味があるのではないだろうか。

今回、2005年に2週間宇宙へ滞在した野口飛行士にインタビューする機会を得た。自らも「新しもの好き」と話す野口飛行士に、そのときの経験を振り返りながら、宇宙生活におけるデジタル機器の活用法を教えてもらった。

無重力での撮影法

野口飛行士が搭乗したミッションは、2003年のコロンビア号事故発生から2年以上が経過した後の、シャトル再開の最初の打上げだった。コロンビア号では、外部燃料タンクからはがれ落ちた断熱材の衝突が事故原因だったが、再開後のミッションでは断熱材の状態を確認するため、シャトルの上昇中に分離する燃料タンクをクルーがビデオカメラで撮影するという仕事が追加された。それを行ったのが野口飛行士である。

――前回宇宙へ行かれたときは、最初の任務が外部燃料タンクのビデオ撮影でした。

野口聡一(以下、野口)「僕はあのフライト全体のカメラ担当者でもありましたので、撮影はひとつの大きな仕事でした。もともと写真を撮るのは好きでしたが、任務として撮影を担当するということで、訓練の中でもカメラの細かい使い方を学びました。機材そのものに慣れておく必要もありますので、宇宙で使うものと同じ機種が訓練用に貸与されました。自分でいろいろと触ってみて、『このカメラでいい映像を撮るにはこう使うといいんだな』という感触は地上の準備の中である程度つかむことができました」

――そのとき撮影に使ったカメラというのは、地上で一般に使われている製品と同じものなのでしょうか。

野口「そのときの用途に合わせて一部手を入れているところはありますが、カメラとしての仕様自体は、一般に販売されているものと基本的に同じです。写真はデジタル一眼レフカメラ、ビデオはDVCAMで撮影しました。撮影に関して言えば、無重力では楽になることのほうが多いです。大きな望遠レンズを使うときでも、重さのせいで手が震えるということはありませんし、レンズの交換にしても、ビデオカメラの取り回しにしても地上に比べて楽ですね。ただ、無重力自体に慣れるまでの時間は少し必要でしたが。

提供:NASA

特に、最初の外部燃料タンクの撮影は無重力空間に出てまさに最初の仕事でしたので、頭で考えずとも身体が動くくらいに、『レンズを付けて、カメラを起動して、この位置に立って……』という手順を何度も何度も地上で練習しました。そしてその手順通りやったんですが、それでもカメラが中でテープを噛んでしまい、あわてて予備のカセットに交換するという事態がありました。いずれにしても、考えなくてもできるくらいになるまで追い込んだ訓練をするというのは、普通のカメラの使い方とは大きく違うところですね」

――地球を撮影した写真もかなりたくさんあったと思いますが、野口さんの著書などに掲載されていた写真を拝見すると、宇宙に浮かぶ青い地球という構図だけでなく、地上の陸や海そのものをクローズアップしたものも多かったように感じます。地球の撮り方について、何か考えはあったのでしょうか。

野口「宇宙に行った動機のひとつとして、自分の育った街や知っている街などを宇宙から見てみたいということが当然ありましたので、日本の姿をいっぱい撮りたいなとは思っていました。ただ、実際に宇宙に行ってみると、宇宙から見る地球というのは日本に限らず、本当に命の輝きに満ちた美しいものでした。陸地があり、海があり、見ていてまったく飽きない。それをどう撮ると綺麗に撮れるのか、滞在中毎日違うやり方で撮っているうちに2週間があっという間に過ぎた……という気がします。

野口宇宙飛行士が撮影した茅ヶ崎市の様子 提供:JAXA

ISSは秒速8kmで飛んでいてどんどん景色が変わっていきますから、うまく撮らないと思ったような写真にならないんです。ISSで長期滞在している宇宙飛行士に聞くと、滞在を始めて1カ月経ったくらいから地球の見方に慣れてきて、そこから急に写真の出来栄えが良くなると言っていました。僕も次回は写真の腕がちょっとは良くなるといいなと思っています」……続きを読む