ソニーは5月17日、発表されたばかりのハイエンドスマートフォン「Xperia 1 VI」の体験会を開催しました。筆者はレビュー記事でも本機をご紹介していますが、この体験会に参加して新モデルでアピールされるカメラ機能/音楽機能を中心に担当者の話を聞き、体験することができたので、あらためて「Xperia 1 VI」のポイントをご紹介します。

  • 「Xperia 1 VI」と「Xperia 10 VI」

    「Xperia 1 VI」(左)と、同じく新モデルの「Xperia 10 VI」(右)。「Xperia 1 VI」は19.5:9のアスペクト比になりましたが、「Xperia 10 VI」は21:9のアスペクト比です

ディスプレイは明るく、サウンドはよりクリアに

「クリエーターと一緒に作り上げてきた」。同社のモバイルコミュニケーションズ事業部事業部長でイメージングエンタテインメント事業部事業部長も兼任する大島正昭氏は、「Xperia 1」シリーズについてこう話します。

  • 大島正昭氏

    モバイルコミュニケーションズ事業部事業部長の大島正昭氏

クリエーターの声を聞き、ニーズを捉えながら開発をしてきたという「Xperia 1」シリーズですが、昨今のSNSの縦動画など、クリエーターの新しいニーズを踏まえて、「Xperia 1」の象徴的な特徴であったディスプレイにおける21:9のアスペクト比を変更。解像度も4KからフルHD+になりました。

  • アスペクト比の変更について

    新たなクリエーターのニーズに応えるためにアスペクト比を変更。それならばこのスライドは、縦動画の写真にしたほうがよいのではないかと感じました

コスト面では有利になる変更であるはずですが、大島氏は「(コストは)高くはなっていない」と言いつつも、コスト面からの変更ではなく、クリエーターの要望に応じた変更だとしています。

  • 「Xperia 1 VI」を手に持つ 正面側

    「Xperia 1 VI」。持った感じは普通のスマートフォンです

  • 「Xperia 1 VI」を手に持つ 背面

    背面。こちらはメーカーモデル限定カラーのスカーレット。これまでカメラの周囲は黒1色だったのが、本体カラーに合わせた色になりました

  • 本体側面のシャッターボタン

    本体側面。シャッターボタンは従来通り装備。より大型化したそうです

ディスプレイパネルの変更によって50%の明るさ向上に加え、テレビの「BRAVIA」の画質を再現するためにAIを活用した画質調整技術を投入しています。実際、ディスプレイを見てみると明るさが向上していて、強い照明下でも明るさが異なります。画面内の一部分を個別に調整することで、明るい被写体がより明るく表示され、見栄えもよくなっていました。

  • 「Xperia 1 VI」「Xperia 1 V」と他社スマートフォン、「BRAVIA」で画質を比較

    「Xperia 1 VI」(手前中央)、「Xperia 1 V」(手前右)、他社スマートフォン(手前左)と「BRAVIA」(奥)での画質比較。スマートフォンサイズだと、多少の立体感の違いは感じますが、4KとフルHD+であまり差はありません。HD+への変更は、4Kコンテンツが思ったより増えなかったという面もあるそうです

  • 「Xperia 1 VI」と他社スマートフォンとの比較

    「Xperia 1 VI」(右)と他社端末(左)との比較。写真だと分かりづらいのですが、色味が「BRAVIA」に近い豊かさで、このように赤と緑の被写体だと明確に違いが分かりました

  • 強い照明下での「Xperia 1 VI」と「Xperia 1 V」の比較

    日向の太陽光を想定した、強い照明下での「Xperia 1 VI」(左)と「Xperia 1 V」(右)の比較。明るさも違いますが、苺のハイライトの部分で、明るさの再現性に違いがありました

  • 他社スマートフォンも加えての比較

    他社スマートフォン(左)も加えての比較。この写真だと他社スマートフォンが明るく見えますが、目で見た明るさは同程度。しかし色味の表現は「Xperia 1 VI」の方が豊かになっていました

サウンド面でもさらに性能が向上しました。これまでも従来比で音圧を上げるなどの改良をしてきた「Xperia 1」シリーズですが、今回はフルステージステレオスピーカーのユニットを刷新。低音域のレスポンスが向上し、大振幅時のひずみを低減したことでよりクリアになったそうです。

  • スピーカーの刷新

    サウンド面ではスピーカーを刷新。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)のエンジニアとチューニングをしているのは従来通り

「Xperia 1」シリーズのフルステージステレオスピーカーは、横持ちしたときに本体左右から流れるサウンドを左右均等にして、本体のみでも十分な音圧と音質を実現するよう開発されています。

  • フルステージステレオスピーカーのバランス

    「Xperia 1」シリーズのフルステージステレオスピーカーは、左右のバランスが均等になるように設計。空間の音圧を可視化してみると、左右均等に音が広がっていることが分かります

  • ユーザーから見たスピーカーのバランス

    こちらはユーザー側からスマートフォンを見たときの図。均等に広がっています

実際、正面に立つとスピーカーから広がるサウンドが心地よく体を包むように流れます。説明員が、外出先では外部スピーカーは不要と断言するように、単体でヘタなBluetoothスピーカーを使うぐらいなら、単体の方が高音質でサウンドを楽しめそうです。

従来通り、3.5mmイヤホンジャックも搭載しており、Audio ICを刷新して性能が向上しています。基板回路を見直して配線を変更したことで、左右チャンネルの音声信号が干渉して音質が劣化する現象を抑制。ヘッドホンから戻ってくる信号のグラウンド(GND)の抵抗も低減させました。これによって左右の信号間の干渉が約50%と半減したそうです。結果として、有線接続におけるサウンドの音質がよりクリアに改善されたそうです。

  • 有線ヘッドホンの音質向上

    有線ヘッドホンの音質も高音質化。ここまでのこだわりはXperiaならではでしょう

  • 音質設定のUI

    ちなみに音質設定のUIも改善され、簡単に設定できるようになりました。「おすすめ」では音楽アプリでDSEE Ultimate、動画アプリでDolby Soundが自動設定されます。「音質重視」では動画アプリでもDSEE Ultimateが設定され、「立体音響」では音楽アプリで360 Reality Audioの立体音響を適用するそうです

今回はスピーカーのサウンドを体験しましたが、音数が多い最近の曲の方が明確に違いが分かる印象で、高音から低音まで明瞭でクリアなサウンドになっていたように感じました。

  • スピーカーの機器比べブース

    ブース内で「Xperia 1 V」と「Xperia 1 VI」のスピーカーを聞き比べられました

テレマクロが楽しいカメラ

大きな変更となったのがカメラです。これまで「Photography Pro」「Videography Pro」「Cinematography Pro」という3アプリに分かれていたカメラアプリですが、それが「カメラ」アプリにまとめられました。

  • 3つのカメラアプリをひとつに統合

    3つのアプリが1つのアプリに統合されました

  • 新カメラアプリの詳細

    スワイプで機能を切り替えるUIは一般的なカメラアプリです

業務用シネカメラ「VENICE」のUIを採用するなど、本格的なシネカメラのように使える「Cinematography Pro」のUIなどは、さすがにクリエーターからも難しいという声が多かったそうです。

写真撮影に関しても、ミラーレスカメラ「α」に近いUIを採用していたのが、より一般的なUIとなりました。その代わり、画面上にタッチしてAF/AEをセットした時に、画面上に露出とホワイトバランスを調整するバーが表示されるUIになっています。

これは、Googleの「Pixel」シリーズで採用されていたものと似たUIで、ソニーでもUIをテストする中で評価の高かったこのUIを採用したそうです。ちなみに、これと反対に「Pixel」は最新モデルではこのUIが変更され、画面をタッチしてから撮影設定ボタンを押して露出などを調整する、というUIになっています。

  • 新カメラアプリのUI

    新カメラアプリでは、画面上のタッチしたところのAFとAEの調整が可能(左の「タッチ調整」)。露出補正とホワイトバランスのバーが表示され、素早くスライドで調整できます

  • 「Pixel 8 Pro」のカメラUI

    ちなみにこれが「Pixel 8 Pro」の現行のUI。画面をタッチしてAFをあわせた後、画面下の「設定」ボタンを押すと撮影設定の変更画面になるため、1ステップ余計に必要です

個人的には、元の「Pixel」のUI、つまり新しい「Xperia 1 VI」のUIが使いやすいと感じます。なぜGoogleがそれを廃止したのかは不明です。

ズーム倍率の表記も一般的なスマホカメラと同じになりました。このあたりはやはり一般ユーザー向けの変更でもありますが、クリエーターでも倍率表記に慣れている人もいるとのこと。

従来の「Photography Pro」で使われていた「α」に似たUIは、「プロ」モードとして搭載されました。ズーム倍率が焦点距離で表示されたり、P/S/Mのマニュアルモードがあったり、画面下部に露出補正バーが表示されるなど、「Photography Pro」の良さを残したUIになっています。

さらに、今後「プロ動画」モードも追加する予定だそうです。これはOSアップデートでの追加となり、UIとしては「α」のUIに似たものになるそうです。業務用シネカメラとは異なり、「α」のUIには慣れている人が多いというのがその理由のようです。

  • 「プロ」モード

    「プロ」モードでは、従来の「Photography Pro」に近いUIで撮影できます。特に常時表示される露出補正バーが使いやすい。同様のUIを使ったプロ動画モードも追加予定です

ちなみに、「Cinematography Pro」のようなProアプリをダウンロード提供するかどうかは、今後の検討だとしています。

もう1つのカメラの特徴は「テレマクロ」機能の搭載。望遠カメラのワイド端(85mm)を使い、デジタルズームを使うことで120~360mmの範囲でズームが可能。最短4cmまで近寄ってマクロ撮影ができます。

  • テレマクロの作例

    こちらはプロの作品ですが、こうした撮影ができるのはテレマクロならでは

テレマクロの撮影は、手ブレ/被写体ブレ/カメラを構えた体の前後のブレなどがあり、とにかく撮影が難しいのですが、うまく撮影できれば人間の目を超えた撮影ができるため、色々とチャレンジしたくなる楽しい機能です。動画が撮影できるのも面白い点です。

また、食事などを撮影するテーブルフォトでは、撮影時に影が入りやすいところをテレマクロだとそれが回避できるのも便利な使い道です。

  • 通常の料理撮影

    こちらは通常の料理撮影。このように影が入ってしまいます

  • テレマクロの料理撮影

    テレマクロにすると離れて撮影できるので影が入ることはありません

  • 苺をテレマクロで撮影した作例

    テレマクロでグッと寄った苺です

  • 花のめしべをテレマクロで撮影した作例

    こちらは花のめしべ

この望遠カメラは、新たなレンズユニットとなっており、35mm判換算焦点距離で85~120mmだったのが85~170mmと、より望遠に強くなりました。画質は多少落ちているようですが、スマホ画面で見てもデジタルズームよりは高画質を維持できるので、使い勝手のよいレンズです。

  • 16mmでの撮影例

    16mmの超広角で撮影

  • 24mmでの撮影例

    24mmのメインカメラでの撮影

  • 48mmでの撮影例

    メインカメラの2倍48mmでの撮影

  • 85mmでの撮影例

    望遠カメラのワイド端(85mm)で

  • 170mmでの撮影例1

    170mmでの撮影です

  • 170mmでの撮影例2

    170mmでは自然なボケ

  • ぼけモードの撮影例

    「ぼけ」モードで撮影するとより被写体を浮きだたせることができます

今回はポートレート撮影を体験できましたが、自然な描写の「Xperia」だけあって、過剰な補正もなく撮影できて楽しい体験でした。

  • 暗所での撮影例(非ナイトモード)

    暗所撮影した写真。このぐらいの明るさで撮れるようなら、ナイトモードにはなりません。「Xperia 1 VI」の場合、手動でナイトモードはオンにできず、かなり暗いシーンでないとナイトモードにならないようです。これは、より自然な描写をするためとのこと

  • 暗所撮影の様子

    こちらが暗い中で撮影している様子。見てのとおり、それなりに暗い状況ですが、左上のアイコンを見るとナイトモードは有効になっていません

  • ナイトモードがオンになった状態

    さらに暗い状況になってはじめて、ナイトモードがオンになりました。画面上部の月と星のアイコンがそれを表しています。前述のとおり手動でナイトモードをオンにすることはできませんが、ナイトモードのアイコンをタップすることでオフにすることは可能です

「α」にも搭載された姿勢推定技術も新たに搭載。人の体のパーツを検出して人物を追尾することで、被写体が何かに遮られても継続して追尾し続けられるようになりました。もともと一部の「α」シリーズに搭載された技術で、これをベースにセンサーやレンズなど「Xperia」にあわせてチューニングして搭載したそうです。

  • 姿勢推定技術とは

    AIで人体をパーツで認識して高精度に追尾する姿勢推定技術

  • 姿勢推定技術の働き1

    瞳AFで人物を追尾している状況

  • 姿勢推定技術の働き2

    木の陰に入ってしまったので追尾できなくなっています

  • 姿勢推定技術の働き3

    陰から出た瞬間にすでにAFが追尾できています

  • 人物追尾の過去モデルとの比較1

    過去モデルとの比較。とくに隠れたりしていないこの状態でも、精度が違います

  • 人物追尾の過去モデルとの比較2

    左は人で遮られた段階でAFが外れています。右は粘り強く追尾しており、人が現れるとすぐに追尾が継続しました

精度や検出速度は「α」と同程度とのことで、同じシーンで「α」と「Xperia 1 VI」の比較をして検証しているそう。こうした技術は、「α」チームと共同で開発しているとのことで、このあたりは、過去のインタビューにもあるとおり、事業部トップである大島氏がカメラと「Xperia」の双方を担当していることもあって、これまでよりも両部隊の融合が進むことも期待できそうです。


「『Xperia 1』シリーズと言えば細長高解像度ディスプレイ」という特徴が失われて、Proアプリに搭載された独自のUIも変化した「Xperia 1 VI」ですが、「Xperia 1」に求められている機能は維持しながら、より幅広いニーズに応えようとしているようにも見えます。

「まずクリエターに訴求し、さらに派生して(一般ユーザーに広げることで)昨年度以上の売上が達成できると考えている」と同社では話しており、新しいXperia 1 VIが市場で受け入れられるか注目されます。