2月26日、AMDはRadeon RX 7900 GREを発表した。もっと正確に言えば、発表そのものは昨年7月に行われていたが、ただこれGlobal向けではなく特定地域向け、もっとはっきり言えば中国向け専用という扱いで、Global向けに展開される予定はなかった。これが変更になり、Global向けに投入されるようになったのが今年2月26日という訳だ。あるいはNVIDIAのGeForce RTX 4070 Superの対抗馬がすぐに用意できなかったので、GRE SKUを全世界リリースという形に変えたのかもしれない。

  • このRadeon RX 7900 GREのベンチマークテストの結果をお届けする

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表1に簡単にRadeon RX 7900 GREとその前後のSKUの製品スペックをまとめてみた。Radeon RX 7900 GREはNavi 31を利用する製品の末弟といったところ。CU数こそ多い(ので演算性能はNavi 32を使うRadeon RX 7800 XTよりは高い)ものの、MCDは4つに減っている関係でInfinity Cacheは64MBに削減されている。またMemoryもGDDR6 18Gbpsになっている関係で、実はメモリ帯域だけでみるとNavi 32ベースのRadeon RX 7800 XTの方が上、という逆転現象も起きている。このメモリ帯域の削減に合わせてか、動作周波数もGame Frequencyが1880MHz、Boost Frequencyで2245MHzと低めに抑えられている。まぁこれには良い側面もあり、Total Board Powerは260Wである。

■表1
Radeon RX 7800 XT Radeon RX 7900 GRE Radeon RX 7900 XT Radeon RX 7900 XTX
Die Navi 32 Navi 31
Compute Unit(Unit) 60 80 84 96
Ray Accelerator(Unit) 60 80 84 96
AI Accelerator(Unit) 120 160 168 192
Game Freq(MHz) 2124 1880 2000 2300
Boost Freq(MHz) 2430 2245 2400 2500
Single Precision Perf(TFLOPS) 37 46 52 61
Infinity Cache(MB) 64 64 80 96
Memory Speed(Gbps) 19.5 18 20 24
Memoy Bus Width(bit) 256 256 320 384
Memory Capacity(GB) 16 16 20 24
Memory Bandwidth(GB/sec) 624 576 800 960
TBP(W) 263 260 315 355

あとはどの程度の性能になるか? というのがポイントだ。AMDによれば、

1440p Gaming Performance:GeForce RTX 4070比で+16%、GeForce RTX 4070 Super比で同等

1440p Gaming with Raytracing Performance:GeForce RTX 4070比で+2%、GeForce RTX 4070 Super比で-12%

といったあたりで、Raytracingを多用しなければGeForce RTX Superと十分競合すると位置付けている。もうRaytracingの遅さはNaviの宿命みたいなものであり、次のNavi 4xでRay acceleratorが倍増でもされない限りはまぁこのままであろう。そんな訳で今回はこのGeForce RTX 4070 Superが仮想敵となるわけだ。GeForce RTX 4070 Superの性能は芹澤正芳氏のレポートが既に掲載されているのでご存じかと思うが、GeForce RTX 4070を一回り上回る性能とより向上した性能/消費電力比を誇る。流石にGeForce RTX 4070 Tiに届くほどには性能は向上していないが、このクラスとしては低めの220WというTGPも相まって魅力的な製品に仕上がっている。Radeon RX 7900 GREがこれにどこまで挑むことが出来るのかを見てみたいと思う。

評価機材

今回Radeon RX 79000 GREとしてはPowerColorのHellhound Radeon RX 7900 GRE(Photo01~09)である。GPU-Zでも問題なく認識された(Photo10,11)。Radeon Settingsでハードウェア情報を示したのがこちら(Photo12)で、GPU-Zの情報と一致している。ちなみに寸法は実測で320×120×48mm、重量は1275.6gで、昨今の重量級ビデオカードに慣れていると小さ目で軽いと感じてしまう。

  • Photo01: パッケージはいつものPowerColorという感じ。ただこの柄、うっかり評価機材の箱をぶち破ってしまったか! と誤解しそうで心臓に悪いので止めてほしい(特に右上)。

    Photo01: パッケージはいつものPowerColorという感じ。ただこの柄、うっかり評価機材の箱をぶち破ってしまったか! と誤解しそうで心臓に悪いので止めてほしい(特に右上)。

  • Photo02: 3ファン構成だが、中央だけ少し径が小さい面白い配置。ちなみに電源投入時にブルーで光るのも実にPowerColorらしい。

    Photo02: 3ファン構成だが、中央だけ少し径が小さい面白い配置。ちなみに電源投入時にブルーで光るのも実にPowerColorらしい。

  • Photo03: 裏面も一応カバード。フルカバードでは無いが、ほぼ面一になっているので入り組んだケース内で他のケーブルをひっかけにくいのは吉。あとBIOSのOC/Silenceのスイッチがブラケット付近に用意されているのも操作しやすい。

    Photo03: 裏面も一応カバード。フルカバードでは無いが、ほぼ面一になっているので入り組んだケース内で他のケーブルをひっかけにくいのは吉。あとBIOSのOC/Silenceのスイッチがブラケット付近に用意されているのも操作しやすい。

  • Photo04: 一応2.5slot厚。妙にでこぼこしてないのもケースに収める際に重要である。

  • Photo05: こちら側はほぼむき出し。ヒートシンクの構造が良く判る。

  • Photo06: 出力はHDMI×1、DisplayPort×3。一番左にHDMIが来るカードを久しぶりに見た気がする。

  • Photo07: ヒートパイプは5本。一応リテンションを止めるためのネジ穴も用意されている。

  • Photo08: 上面。補助電源は8pin×2。

  • Photo09: 底面、ギリギリまでヒートシンクが広がっている。

  • Photo10: GPUのDefault Clockは2013MHzに。というか表1に示したGame Clockの1880MHzは流石に低すぎる気もする。

  • Photo11: Base Clockは更に低い1555MHzだった。Power Limit Adjustmentは-10%~+15%。最大だと299Wで、ギリギリ300Wを切る辺りまでBoost可能である(性能がどこまで上がるかは不明だが)。

  • Photo12: コアクロック(Game Frequency)以外は表1の通り。

比較対象としてまずはRadeon RX 7900 XTとしてASUSのTUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GBを用意。またGeForce RTX 4070 Superの方はASUS TUF Gaming GeForce RTX 4070 SUPER 12GB GDDR6X OC Editionを用意した。

このTUF Gaming GeForce RTX 4070 SUPERの方はまだ記事で紹介していない(TUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GBの方は以前こちらの記事で紹介している)ので、ちょっと紹介しておきたい(Photo13~22)。見た目だけで言えば同社のTUF Gamingシリーズと非常によく似ているが、実際は一回り小さく(実測で300mm×125mm×60mm。ちなみにTUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GBは350×144mm×65mmだった)、重量も1184.8g(実測値:TUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GBは2157.9g)と軽量である。一回り小さいとはいえ、それでもまだ結構な大きさではあるので、小さなケースに収めるには苦労するだろうが、重量は(同社の重量級カードに比べると)恐ろしく軽いのが特徴である。またそもそもTGPが220Wと控えめな製品に3つのファンを取り付けている事もあり(しかも昨今GeForce系列には高効率な11枚フィンを採用している)、フル稼働時でもかなり騒音は控えめになっている(多分ファンの動作プロファイルはGeForce RTX 4070 Superに最適化されているのではなかろうか)。またTUFシリーズに共通の頑丈なバックプレート(Photo17で底面のプレートには、強度向上用に端にリブが設けられているのが判るだろうか?)が装着されており、カードの反りとか歪みを抑えられる様になっているのも、TUFシリーズらしい長期間の利用を念頭に置いた特徴として良いかもしれない。

  • Photo13: TUF Gamingシリーズとしてはパッケージは小型。

  • Photo14: 同径3連ファン構成。カード端(この写真で言えば左下)が少し盛り上がっているのも他のTUF Gamingシリーズと共通。

  • Photo15: 裏面はほぼフルカバード。BIOSの動作モード切り替えスイッチはカード中央に。

  • Photo16: ほぼ3スロット厚。もういっそブラケットも3スロットのものにした方が安定すると思うのだが。

  • Photo17: 非常に重厚感あふれるが、持ってみると意外に軽い。

  • Photo18: 出力はHDMI×1、DisplayPort×3。それは良いのだが、カードエッジからのはみ出しっぷりが凄まじいのが判る。横幅がギリギリのケースへの装着は難儀するだろう。

  • Photo19: リテンション用の穴もちゃんと用意されている。

  • Photo20: 電源コネクタは12VHPWR×1。

  • Photo21: ヒートパイプは4本の構成。

  • Photo22: 12VHPWRと8pin×2の変換ケーブルも付属する。

また同社のGPUカードで利用できるGPU Tweak IIIも利用可能になっている(Photo23~25)。動作状況の監視やOC設定などを全てGUIから設定できる。オーバーレイでの表示(Photo25)や、リモートマシンでの監視(Photo26)も可能である。

  • Photo23: メイン画面。デフォルトだとこの2つのウィンドウが横に繋がっていて、恐ろしく面積を喰う。一応こんな風に切り離しが可能ではあるが。リアルタイムで監視やロギングが可能。

  • Photo24: 表示項目も多岐に渡る。

  • Photo25: 左上にGPU Tweak IIIのオーバーレイを表示中。

  • Photo26: 手持ちのスマートフォンに飛ばして表示させた例。要するにGPU Tweak IIIにWebブラウザが内蔵されているので、相手はスマートフォンでなくてもWebブラウザが動けばなんでも行ける。ただしPCのファイアウォールを切っておかないと、外部からのアクセスを全部弾くので注意(最初しばらく悩んでしまった)。

その他のテスト環境は表2に示す通りである。ちなみにRadeon RX 79000 GREのドライバだが、テストが終わった後でAMDよりHelldivers 2に対応した修正版としてAdrenalin 23.40.19.01 feb16版が提供されたが、そもそもHelldiver 2をテスト項目に入れてないこともあり、今回はAdrenalin 24.1.1 WHQLのままとしている。

■表2
CPU Ryzen 7 7800X3D
M/B ASUS PRIME X670E-PRO WIFI-CSM
BIOS Version 2412
Memory Micron CMK64GX5M2B5200Z40×2
DDR5-5200 CL44 64GB
Video PowerColor Hellhound Radeon RX 7900 GRE ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XTX ASUS TUF Gaming GeForce RTX 4070 SUPER
Driver Adrenalin 24.1.1 WHQL RDNA GeForce Driver 551.52 DCH WHQL
Storage Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot)
WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
OS Windows 11 Pro 日本語版 23H2 Build 22631.3085

グラフ中の表記は

RTX 4070 Super:ASUS TUF Gaming GeForce RTX 4070 SUPER 12GB GDDR6X OC Edition
RX 7900 GRE :PowerColor Hellhound Radeon RX 7900 GRE
RX 7900 XT :ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GB

となっている。また解像度表記も何時もの通り

2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel

としている。

なおゲームに関しては、FSRやDLSS/XeSSなどのSuper Samplingも全て無効の状態で比較を行っている。Raytracingはゲーム毎に設定が異なるので、その都度説明したい。

◆3DMark v2.28.8217(グラフ1~3)

3DMark v2.28.8217
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark

  • グラフ1

  • グラフ2

  • グラフ3

まずは小手調べと言う事で3DMarkから。グラフ1がOverallであるが、テストによって性能の傾向が結構異なる。NightRaidとかFireStrike、TimeSpyなどに関してはRadeon RX 7900 GREがGeForce RTX 4070 SUPERを上回っているが、WildLifeとかSpeedWay、SolarBayなどは逆転している。WildLifeに至ってはExtremeは兎も角PerformanceではGeForce RTX 4070 SUPERがRadeon RX 7900 XTをも上回っているあたり、性能差はアーキテクチャの違いに起因しているとも言えなくもない。あとRay Tracingを利用するSpeedWay/Solar Bay/Port RoyalはやはりRadeon RX 7900 GREが一番遅い(SpeedWayとかSolarBayでは結構大差がついている)のは仕方ないところか。もっとも先に書いたようにRay Tracingが現在のNavi 31の泣き所な訳で、それでもここまで頑張ったと評すべきなのかちょっと判断に迷うところではある。

Graphics Test(グラフ2)も傾向は同じである。尤もPhysics/CPU TestとかCombined Testなどを絡めるのは初期のFireStrikeとかTimeSpy、NightRaidなどで最近追加されたものは全部Graphics Testだけでスコアを出しているからそれほど差が無いのも当然なのだが。ではPhysics/CPU Testで差があるか? というのがグラフ3である。同系のGPU同士だとあまり差が出ないのだが、NVIDIAとAMDが混在しているから、ドライバのつくりなどで多少差が出ることもあり得るのだが、結果はグラフの通り誤差の範囲であって、差は無いとして良いかと思う。