アップルが9月22日に、充電用コネクターをUSB-Cに変更した新しい第2世代の「AirPods Pro」を発売します。高い人気を誇るワイヤレスイヤホンはどこが変わるのか、解説を交えながら発売前の実機をレポートします。

  • USB-Cコネクターを搭載する第2世代の「AirPods Pro」をレポートします。発売は9月22日で、実売価格は39,800円です

AirPods ProがUSB-Cを採用した理由

アップルは、昨年秋のスペシャルイベントのあとに、第2世代のAirPods Proを発売しました。AirPods Proは初代のモデル以来、リスニングに不要な環境音を消去する「ノイズキャンセリング」と、周囲の環境音を内蔵マイクで取り込んで、リスニング中のサウンドとミックスして聴ける「外部音取り込み」の機能が、どちらも高評価を得ています。

今年発売される新しいAirPods Proは、この第2世代のモデルをベースにして、充電ケースのデジタルコネクターをLightningからUSB-Cに変更しました。

  • 汎用性の高いUSB-CコネクターをAirPodsシリーズとして初めて搭載しました

大きな理由はやはり、AirPods Proの最良の「バディ」であるiPhoneが今年のiPhone 15ファミリーから、デジタルコネクターを長く続けてきたLightningに置き換えてUSB-Cにしたからです。iPhoneはMacやiPadと同じUSB-Cケーブルで充電できるのに、AirPodsだけが取り残される…というわけにはいきません。今は筆者の予想でしかありませんが、おそらくアップルはAirPodsシリーズのほかのモデルについても順次、USB-C対応に切り替えるはずです。

USBデジタルコネクターは、iPhoneのカメラで撮影した高画質・大容量の動画ファイルの読み出しが速くなったり、iPhoneにさまざまなメリットをもたらします。AirPodsのユーザーにとっては、iPhoneのUSBコネクターに充電ケーブルを挿して、iPhoneからバッテリーを「おすそわけ」してもらえる機能が載ったことも朗報です。

  • USB-Cコネクターを搭載するiPhone 15ファミリーからAirPods Proが充電できます

iPhoneからUSB接続した外部機器に渡せるバッテリーの出力は、iPhone 15 Proシリーズが最大4.5W、iPhone 15シリーズが最大2.5Wです。AirPods ProはLightningコネクターの充電ケースのモデルも対応します。試したところ、Apple Watchの充電もできました。もちろんiPhoneのバッテリー残量に余裕があり、なおかつケーブルを持っている場合に限られますが、iPhoneがバックアップ用のモバイル電源として使えれば、AirPodsで心置きなく音楽を聴いたり、ビデオ通話ができます。

ロスレスオーディオ対応。ただしApple Vision Proとの組み合わせで

今年発売される第2世代のAirPods Proは、非圧縮・高音質のワイヤレス再生に対応します。ただし、対になる製品は2024年の発売を予定するヘッドセット型の空間コンピュータ「Apple Vision Pro」に限られます。

  • Apple Vision Proには空間オーディオに対応するサウンドシステムが内蔵されていますが、AirPods Proとの組み合わせでロスレスオーディオ再生が楽しめる魅力が加わります

AirPods Proのようなワイヤレスイヤホンでロスレス再生を行う場合、クアルコムによる独自のBluetoothオーディオのチップが実現するaptX Losslessのコーデックを使うか、または新世代のLE Audioの標準オーディオコーデックであるLC3のカスタム版であるLC3 plusを採用する道があります。ところが、アップルはそのどちらも使わずに「独自の無線通信規格」により、ロスレスオーディオ再生を実現するそうです。

鍵を握るのは、AirPods ProとApple Vision Proの両方に搭載する、アップル独自のオーディオ向けSiP(システム・イン・パッケージ)「Apple H2」チップであることは間違いありません。ところが、ロスレスオーディオと同時に実現する「超低遅延伝送」も含めて、技術の詳細は明かされていません。

ロスレスオーディオ再生の実力を試せる時期についても尚早であるため、来年Apple Vision Proが発売される頃にまた詳細に切り込みたいと思います。

高音質・強力なノイキャン、多機能はLightningモデルと一緒

ほかの部分については、外観やサウンド、主な機能など、第2世代のAirPods ProはUSB-C版とLightning版に大きな変化はありません。

例えば「音質」。AirPodsシリーズはさまざまなジャンル/タイプの音楽、映画や通話音声など、あらゆるサウンドを原音に忠実なまま再生するイヤホンです。

第2世代のAirPods Proでは、イヤホンの心臓部であるドライバーとアンプを新たに設計したことで、中立的でバランスのよいサウンドの「存在感」を高めることに成功しました。USB-C版のAirPods Proも試聴しましたが、まるで生の演奏を体験しているような、あるいは映画の舞台に飛び込んでしまったかのような、ディティールに富んだパワフルなサウンドが楽しめるワイヤレスイヤホンでした。

  • iPhone 14 ProでAirPods Proを試聴。LightningとUSB-Cのモデルで同じ音質に揃えています

「ドルビーアトモスによる空間オーディオ」のコンテンツ再生やステレオ音源の「空間化」、そして空間オーディオを再生中に、イヤホンを装着したまま顔の向きを変えても、空間の中に音像があるべき位置に定位する「ダイナミックヘッドトラッキング」のサポートも万全です。

ノイズキャンセリングも車のロードノイズから人の話し声、甲高い調理器具のモーター音などパワフルに消音します。外部音取り込みにリスニングモードを切り替えると、一瞬イヤホンが耳から外れてしまったのではないかと戸惑うほど周囲の音がクリアに聞こえてきます。

機能面もそのまま新製品に受け継がれています。ユーザーのiCloudアカウントに登録されているAppleデバイスの間で、AirPods Proのペアリング情報は共有されます。例えばiPadで動画を視聴中、iPhoneに着信した通話に応答するとAirPods Proの接続が自動で素速く切り替わります。Apple WatchやMacとの切り替えもシームレスです。

  • パッケージに付属するUSB-Cケーブル。編組タイプの耐久性の高い被服を採用しています

  • 添付されるイヤーチップはXS/S/M/Lの4種類

イヤホン本体と充電ケースはIP54相当の防水防塵仕様です。専用のシリコン製イヤーチップもXS/S/M/Lの4つのサイズを同梱します。ペアリングしたiPhoneから「イヤーチップ装着状態テスト」を走らせると、左右それぞれの耳の形に最適なイヤーチップのサイズが判定できます。人によっては、左右の耳穴の大きさが異なる場合も往々にしてあります。片側はM、片側はLという組み合わせの判定も行ってくれる便利な機能なので、AirPods Proによるサウンド体験を最大化するためにもぜひ活用しましょう。

アプデで追加!適応型オーディオの便利な使い方

日本時間の9月19日から公開が始まるiOS 17など、Appleデバイスの新しいOSの正式リリースとともに、AirPods Pro向けにも新しいファームウェアが公開され、3つの新機能が追加されます。

  • 第2世代のAirPods Proシリーズにソフトウェアアップデートで追加される3つの機能を紹介します

「適応型オーディオ」は、ノイズキャンセリングと外部音取り込みの「間」を取って、周囲の環境音の種類を判別しながらAirPods Proが自動で消音と取り込みのバランスを最適化する機能です。

ノイズキャンセリングはオンになるので、全体に一定の消音効果がかかります。その中で、例えば人の話し声やドアベル、屋外では自動車の走行音などは、コンテンツのサウンドを再生しながらでも聞こえるようになります。

反対に、換気扇やミキサーなど調理器具によるノイズは、それぞれを特定してノイズキャンセリングをかけます。

iPhoneやiPadの場合、設定アプリからペアリングしたAirPods Proのメニューに入ると「ノイズコントロール」の項目に、ノイズキャンセリングや外部音取り込みと並んで「適応型モード」が加わります。それぞれを選択するとモードが切り替えられますが、都度このメニューまでアクセスするのは面倒です。

  • AirPods Proの設定メニュー、ノイズコントロールの中に「適応型」モードが加わります

AirPods Proの左右イヤホンのステム(スティック状の部分)に内蔵する感圧式センサーリモコンを長押ししてノイズコントロールを選択できるようにしましょう。

先ほどのAirPods Proのメニューから「長押しした時の操作」を選んで、ノイズコントロールの切り替え操作を2段階以上、最大4段階から選択します。筆者は、外部音取り込みと適応型、ノイズキャンセリングの3つを設定しておけば便利だと思います。イヤホンから選択すると、各モードごとに違う音のチャイムが鳴るので、現在どのモードになっているのかがわかります。

  • スティックを押し込んだ時の操作を設定

視覚的に操作したい場合、iPhoneやiPadであればコントロールセンターからアイコンをタップして切り替える方法もあります。

  • AirPods Proを装着するとコントロールセンターのオーディオボリュームがAirPods Proの設定メニューに切り替わります

AirPods Proを装着したまま会話しやすくなる

「会話感知」の機能は、AirPods Proを装着したまま会話しやすくなる機能です。イヤホンを装着しているユーザーが話し始めると、声を検知して自動的にオーディオのボリュームを下げ、環境音を取り込みます。会話を止めて数秒が経つと、また再生中のオーディオのボリュームが上がります。

オフィスや自宅でビデオ会議中に、周りから話しかけられた時などとっさの応答ができる機能として会話感知は便利です。ただ、会話感知はAirPods Proのユーザーが発声しないと起動しないので、周囲の誰かから話しかけられる可能性が常にある場面では、外部音取り込みを使う方が理にかなっています。

  • 会話感知、パーソナライズされた音量はAirPods Proの設定から切り替えられます

もうひとつの「パーソナライズされた音量」の機能は、静かな場所から賑やかな場所まで、ユーザーの周囲の環境音量を自動で判定して、AirPods Proの音量を自動で最適化する機能です。静かなところで不必要に大きな音量で音楽を聴いて耳を痛めないよう、未然に配慮できる「からだ想い」な機能とも言えます。

屋外を歩きながら使ってみましたが、騒音量が変わった途端にAirPods Proから聞こえてくる音が急激に大小して、煩わしく感じられるようなことはありません。ただ、反対に静かな場所で不意に聴いている音楽が大きくなることがありました。

アップルの機能説明によると「機械学習を利用してさまざまな状況におけるあなたのオーディオの好みを理解し、時間をかけて学んだパターンをもとに自動的にサウンドを調整」する機能らしいので、もっと使い込めば音量の最適化が賢くなるのかもしれません。設定から機能をオフ(デフォルトがオフ)にすることもできますが、その実力が知りたいので、筆者はしばらくオンにして試そうと思います。

1日中、着けっぱなしにして使いたくなるAirPods Pro

AirPods Proのバッテリー容量は第2世代同士で変わっていませんが、充電が残り少なくなったらiPhone 15ファミリーで充電もできるようになりました。心強い限りです。

USB-C版の発売に伴い、これまでアップルが販売してきたLightning版のAirPods Proは生産を完了します。現在流通している在庫を売切り次第、Lightning版は購入できなくなりますが、Apple Vision Proと組み合わせた時に、ロスレスオーディオ再生も含めてフルパワーが発揮できるAirPods Proは1つのモデルに限られていた方が余計な混乱が生まれないと思います。

  • 左がLightning、右がUSB-CのAirPods Pro。イヤホン、充電ケースともに端子部分を除く外観は変わりません

ひとつアップルにリクエストをするならば、現在Lightning版のAirPods Proを所有しているユーザーの立場から、今後機が熟した頃にUSB-C版の充電ケースを単品販売してもらいたいと思います。

適応型オーディオや会話感知が加わったことによって、AirPods Proでコンテンツのサウンドを聴きながら、周囲とのコミュニケーションにも気を配りやすくなりました。新しい機能を試せば、おそらく多くのユーザーがAirPods Proを「1日中着けっぱなし」にしたまま使いたくなるはずです。