【海苔文化の再興に向け新たな挑戦!】山本海苔店社長・山本貴大が仕掛ける「おいしい海苔体験」

海苔が大不作で価格高騰

 コンビニ店頭から海苔巻きおにぎりが消え始めた─。海苔の価格が高騰しているからだ。ファミリーマートは25年度内に海苔なしおにぎりを10品増やす方針を示す。以前スーパーで10枚500円程度で売られていた商品が、今は1000円程度に跳ね上がっている。

 価格高騰の背景には3年連続の不作がある。生産量は1993年度の約110億枚をピークに落ち始め、近年は60億枚台まで落ち込んでいる。特に2022年度は48億枚と50年に一度の大不作と言われ、そこから3年回復せずに現在に至る。

 不作の原因はさまざまで、温暖化による海水温上昇や日照時間が長すぎるという問題も絡むが、老舗海苔専門店・山本海苔店社長の山本貴大氏は「それだけではない」と話す。それより深刻なのは生産者の減少であり、昨年が過去最多だったという。

 2024年の海苔業界全体の売上は不作による高騰で前年比15.4%増の2440億円。枚数で表現すると、コンビニなどで使われる業務用が70%、家庭用が28%、贈答品が2%として消費されている。現在の海苔1枚(19×21センチメートル)あたりの平均単価は、贈答用が約170円、家庭用が約60円、業務用が約30円となっている。

 海苔の生産は近海漁業のため地域の家族が担うことが多い。そのため漁業法では地域の生産者を守る目的で、相続権が一親等のみに限られている地域もある。

 しかし現代では担い手がおらず廃業の道を選ぶ生産者も少なくない。息子がサラリーマンになって都市部へ出てしまえば漁業権は漁協に返還される。皮肉にも漁業法の縛りによって、生産者を守ることになっていないという事態が起きているのだ。

 海苔は生育期間を伸ばして量を獲ろうと思えば獲れるが、生育期間を伸ばせば伸ばすほど香りや風味は落ちる。上質な海苔というのは、張り込んだ網から最初に摘む「初摘み」「二番摘み」を使用している。これらは色艶も味も香りも良く贈答用に用いられてきた。

 しかし、海苔の需要は近年大きく変化。かつてはお中元、お歳暮という巨大市場に支えられていたが、今やその習慣も希薄化。16%程度あった贈答市場が、今では2%まで縮小している。

 逆に増えたのは、おにぎり専門店やコンビニ用海苔。年間国内販売量は約50億個と、インバウンド含め毎日多くの人がおにぎりを購入している。生産者もこの需要の変化を受け、味や品質より量を確保する生産体制へシフトしつつある。これにより上質な海苔の生産量は年々減少の一途をたどっている。

 現に今年は同社の看板商品『梅の花』に該当する海苔は1枚も獲れなかった。「生産者が量を重視しおいしい海苔を作るのを止めてしまえば、世界からおいしい海苔が消滅してしまう」(同)と強く危機感を訴える。

 このことはコメ問題を取材した際にコメ農家や卸のトップが「量産化(大規模化)すればコメの品質は落ちる」と指摘していたことでもある。それがまさに海苔業界でいま起きているのだ。

「脱・お中元お歳暮」戦略の次の手は…

 同社は今年11月に日本橋再開発につき本社を移転する。これに合わせ、新たに挑戦するのは飲食事業だ。

「この変化をチャンスととらえ、176年間やってこなかった飲食に挑戦する。本当においしい海苔というものをお客様に体験していただきたい」(山本氏)

新店舗のイメージ、現在の本店から徒歩2〜3分の場所にオープンする

 同社は1849年創業で、日本橋を拠点とし、1950年からは主に贈答用の海苔を扱ってきたが、時代の変化に対応し、最近は家庭用とギフトの間の、お土産・プチギフト市場を攻めてきた。これまでとは発想を変え、空港、サービスエリア、駅ビルでも購入できる商品を開発し、売り場を拡大。

 また原料高ですべての価格が上がる中、看板商品『梅の花』シリーズも、海苔の品質は変えず、包装を簡易化し1500円~3000円の商品を投入。新たな市場を掘り起こしてきた。

 次なる戦略は、飲食体験を通じ、海苔の存在感を高めること。

「『梅の花』は1枚500円の海苔。このおいしい海苔を最もおいしく食べられるお店を作ることで、生産者がおいしい海苔をもっと作ろうと思えるようにしたい」(同)

 飲食店の全体像はまだ公表していないが、おにぎりブームの火付け役となったおにぎり専門店「ぼんご」(東京・豊島区)ともコラボを予定。手のひらサイズの海苔に一口ごはんを載せて、食べたときに海苔のパリッとした食感とくちどけを体感できるメニューを考案中だ。

 その他、日本橋老舗店の銘品とのコラボも示唆する。これまでなかった海苔をメインとした飲食店。海苔は脇役だが、主役の味をより引き立ててくれる食材。世界では健康志向、日本食ブームで栄養豊富な海苔という食材に注目が高まっている中でインバウンド需要も狙う。

 同社は2023年に歴史ある海苔店の髙岡屋(東京台東区・1890年創業)を完全子会社化した。髙岡屋はコンビニなど業務用卸を始め、メキシコ、米国(L.A.)、上海、ポーランドに工場を持ち、海外市場にも強みを持つ。消費地に近い工場で海苔を焼き、アメリカやEUの寿司屋などに卸している。

 髙岡屋との提携でグループ全体では約230億円の売上規模となり、山本海苔店自身も今後海外進出への道も大きく開かれたといえる。生産者の減少という問題を解決し、国内外で海苔文化をどう継承していくか。生産者と協調しながらグローバル戦略も睨む山本海苔店である。