宿場町、城下町として古くから栄える静岡県西部の都市、掛川市。「教育・文化日本一」のまちを目指す同市では、子供たちの豊かな未来を創造すべく、市民一丸となった教育活動が実践されています。この活動の核となるのが、「学力」の定義を共通化した「かけがわ型スキル」の存在です。

掛川市では、変化の激しい社会が予想される中、「困難な状況に立ち向かうための力」として「かけがわ型スキル」を策定。市民への周知と浸透、理解獲得に努めることで、地域と学校のそれぞれが統一した方針のもと、連続性を持った教育を提供しています。2014年には、掛川市教育情報化推進基本計画を策定し、「かけがわ型スキル」を構成する1項目である「情報の選択・活用力」を育むべく、教育現場にあるICTの環境整備を開始。さらに2015年からは児童生徒用デバイスにSurface Proを導入し、普通授業でのICT活用を推進したことで、情報の選択・活用力だけでなく、コミュニケーション力や思考力など「かけがわ型スキル」全般を育むことに成功しています。

静岡県掛川市にある公立小中学校の1つである、掛川市立大須賀中学校(2014、2015年掛川市指定ICT活用研究校)

プロファイル

古くは東海道の宿場町として、近世は掛川城を中心とした城下町として、文化を保ちながら繁栄を続けてきた静岡県掛川市。同市はこうした文化の維持に加えて、教育活動にも注力。「教育・文化日本一」のまちを目指すべく、6項目からなる「かけがわ型スキル」のもと、市民一丸となった教育の実現に取り組んでいます。

導入背景とねらい
ICTを「日常的に使用するもの」とすべく、PC教室にある児童生徒用PCのタブレットデバイスへのリプレースを検討

掛川市教育委員会 教育長 山田 文子 氏

社会情勢の変化は激しさを増しています。次代を担う子供たちには、「困難な状況に立ち向かう力」が求められているといえるでしょう。この力は知識、主体性、創造力といった多くの能力を複合したものであり、これらすべてを培った人材の育成は、学校教育の活動だけで果たせるものではありません。「教育・文化日本一」のまちを目指した取り組みを進めている静岡県掛川市(以下、掛川市)では、教育機関に加えて家庭や地域組織など、市民一丸となって教育に取り組むことで、「困難な状況に立ち向かう力」の育成を目指しています。

掛川市教育委員会 教育長 山田 文子氏は、掛川市で「学力」の定義を共通化し、また学校教育と地域のそれぞれが果たすべき役割を明確にすることで、市民一丸となった教育を実践していると説明します。

「掛川市では、2016年度に策定した『教育大綱かけがわ』において、子供たちの将来の目指す姿をかかげました。また、子供たちが夢や希望に向かい、困難な状況に立ち向かうための力として、思考力、問題解決力といった6項目からなる『かけがわ型スキル』を策定しました。そして、家庭や企業といった地域と学校、それぞれの場において "いかにして『かけがわ型スキル』を育むか" を明確化すべく、『かけがわ学力向上ものがたり』も策定しています。これらをできるだけ多くの掛川市民へ知っていただき、理解していただくことで、市民総ぐるみの『子どもたちの未来を創造する取り組み』を進めているのです」(山田氏)。

「かけがわ型スキル」を定めることで、地域と学校のそれぞれが統一の方針を持ち、連続性のあるアプローチで「困難な状況に立ち向かうための力」の育成が進められている

「かけがわ型スキル」を定めることで、地域と学校のそれぞれが統一の方針を持ち、連続性のあるアプローチで「困難な状況に立ち向かうための力」の育成が進められている

こうした「市民一丸となった教育」の姿は、掛川市の随所で見て取ることができます。たとえば、家庭教育を推進すべく掛川市教育委員会が実施する「かけがわお茶の間宣言」では、各家庭から10,000件近くにも上る「教育に向けた宣言」が寄せられています。約12万人という掛川市民の総数を考えれば、いかに多くの世帯がこの宣言を行っているかがわかるでしょう。

掛川市教育委員会 教育部長 笹本 厚氏

自治体と市民が共同して教育を提供するうえでは、学校と地域における教育に連続性を持たせることが求められます。そこではICTの重要度が大きく高まっていると、掛川市教育委員会 教育部長 笹本 厚氏は語ります。

「現在、ラインズeライブラリアドバンスというソフトウェアを利用して、家庭でもインターネットを通じた学習が行える環境を児童生徒に提供しています。これは家庭教育と学校教育に連続性を持たせること、また1人ひとりの学習状況に応じた教育を提供することを目指した取り組みであり、こうした試みはICTの発展があってこそ実施できているといえるでしょう。また、『かけがわ型スキル』の1項目に『情報の選択・活用力』があるとおり、掛川市の教育ではこうしたICT自体を活用するスキルの育成にも注力しています。2014年からは児童生徒用タブレット デバイスを導入することで、このスキルの育成を強化しています」(笹本氏)。

笹本 氏が語るとおり、掛川市では「掛川市教育情報化推進基本計画(以下、基本計画)」のもと、2015年にタブレットデバイスを導入。教育現場のICT環境を本格的に整備し始めています。こうした環境整備の背景には、情報の選択・活用力を育むうえでの大きな課題があったと、掛川市教育委員会 学校教育課 課長 佐藤 嘉晃氏は続けます。

掛川市教育委員会 学校教育課 課長 佐藤 嘉晃氏

「情報の選択・活用力を育むには、子供たちがICTを『特別なもの』ではなく『日常的に使用するもの』として捉える環境を整備しなければなりません。しかし当時、掛川市の各小中学校にはPC教室にしか児童生徒用PCを配備しておらず、その利用もPC教室に限定されていました。また、電子黒板をはじめとする他のICTツールも一部の普通教室にしか配備していなかったため、『ICT=特定の授業で利用するもの』という捉えられ方をしていました」(佐藤氏)。

ICTが「日常的に使用するもの」であるには、あらゆる授業で活用されなければなりません。しかし、その実現には、児童生徒へのデバイス配付、全普通教室への電子黒板の配備が必要です。当然ながらそのためには、膨大な投資と長期間の計画が必要です。さらに、これまで電子教材を利用してこなかった教員が急激なICT化に対応できるかという点も懸念され、容易に断行できるものではありません。

こうした背景を踏まえて、掛川市では先の基本計画を策定。数段階に分けたICT機器の導入を計画します。まず初期段階として、PC教室にある児童生徒用PCのサポートが切れるタイミングで、可搬性を備えたタブレット デバイスへのリプレースを実施。同デバイスを普通教室に持ち運ぶことによって、普通授業でのICT活用を早期にスモール スタートすることを構想したのです。

システム概要と導入の経緯、構築>

掛川市教育委員会 教育部 教育政策室 指導主事 柴田 勝明氏

Surface Proは、利便性と堅牢性、サポートのすべてを高い水準で備えていた

掛川市教育委員会では、児童生徒用PCのサポート終了を控えた2014年より、新たな児童生徒用デバイスの検討を開始。PC教室、普通教室のそれぞれで同一デバイスを利用する以上、あらゆる用途に適用できるデバイスを選定する必要があります。

掛川市教育委員会 教育部 教育政策室 指導主事 柴田 勝明氏は、この検討において、2in1タブレットデバイスに着目して機種選定を進めたと語ります。

「次期学習指導要領では、小学校の必修科目にプログラミング教育が加わることが示されています。キーボード入力を主体とするPC教室の授業は、今後ますます重要度が高まるでしょう。一方、子供たちが『日常的に使用するもの』としてICTを捉えるためにはその普通授業での活用が欠かせず、そこでは直感的な操作が可能なタブレット用途が適していました。2in1タブレットデバイスは、この双方の用途に対応することができ、掛川市が求める要件に最適だったのです」(柴田氏)。

掛川市教育委員会 学校教育課 指導主事 横井 和好氏

佐藤氏が触れたとおり、当時、掛川市にある多くの学校では、普通授業におけるICT活用が行われてきませんでした。普通教室でのICT活用は、そこで利用する電子教材や学習支援ソフトウェアがなければ推し進めることができません。そのため、児童生徒用デバイスは「電子教材が最適に稼動すること」を前提として選定を進める必要がありました。

この視点を背景に、デバイスが搭載するOSはWindows OSであることが適切だったと、掛川市教育委員会 学校教育課 指導主事 横井 和好氏は語ります。

「教員側がICTに慣れてもらいたいという思いがあったため、基本計画の初期段階では、教員自身に電子教材を作成してもらう形でコンテンツを拡充することを構想しました。電子教材を作成する教師用PCとそれを活用する児童生徒用PC間でOSに差異があっては、活用を妨げてしまう恐れがあります。また、多くの教員がMicrosoft Officeを利用して電子教材を作成することを想定したため、Windows OSを搭載したデバイスであることが前提条件でした」(横井氏)。

OSの差異は、児童生徒にも影響を及ぼします。柴田氏は「現在、多くの企業や組織では WindowsのPCが利用されています。未来を切り開く人材を育成するうえでは、現実社会に根差した教育が欠かせません。Windows OSを採用することは、小学校から社会人に至るまでに利用する ICT環境に連続性を持たせるという意味でも重要でした」と補足します。

静岡日電ビジネス株式会社 公共システム営業部 主任 泉 調氏

以上の方針のもと、掛川市では複数ベンダーの製品を候補に、比較検討を実施しました。2in1タブレット デバイスの導入は、基本計画の第一段階にあたります。ICTの導入でよく耳にする「導入したが利用されない」といった事態は絶対に避けなければなりませんでした。同市は「児童生徒にとって有効なツールとなるか」を検証項目として、作業を進行。その結果、Surface Pro(当時、Surface Pro 3)の導入を決定します。この理由について柴田氏は、次のように説明します。

「子供たちが『有効なツール』として利用するかどうかは、利便性にかかっているといえます。複数の製品を取り寄せて利便性に関する比較検証を実施しましたが、Surface Pro 3を利用して驚きました。他社製品と比べて、まず起動までの時間が圧倒的に速く、5秒ほど差がありました。起動時間のすばやさは、利便性もしかることながら、授業の円滑な進行にも大きく貢献します。タッチ操作とキーボード入力の精度も高く、Surface ProであればPC教室と普通教室、それぞれの場で有効に活用されるだろうという手応えを感じました」(柴田氏)。

また、このリプレースでデバイスの調達を担当した、静岡日電ビジネス株式会社 公共システム営業部 主任 泉 調氏は、Surface Pro 3が備える高い堅牢性も、掛川市において大きく評価されたと語ります。

「PC教室に配備するデバイスのリプレースは5年周期が一般的です。つまり今回導入するデバイスは、最短でも5年間の利用に耐え得るものでなければなりません。子共たちは日々、PC教室からデバイスを持ち運ぶこととなります。そこでは落下や衝突が多発するでしょうし、液晶とキーボードの着脱も多く繰り返されます。Surface Pro 3は筐体や接合部の堅牢性が高く、5年間の利用に耐えるだろうという安心感がありました。この点は、掛川市様にも評価いただいた大きなポイントです」(泉氏)。

さらに、マイクロソフトの提供するサポートの品質も、掛川市は高く評価したといいます。泉 氏はこの点について、「マイクロソフトはトラブル時の対応が迅速です。万が一故障した場合でも、1週間ほどで代替機が手元に到着します。掛川市様からは『本当に子供たちのためになるものを推奨してほしい』と要望を受けていましたが、Surface Pro 3は利便性、堅牢性、サポートのいずれの側面においても、自信を持って勧めることができる製品でした」と語ります。

導入の効果
Surface Proが、情報の選択・活用力だけでなく、「かけがわ型スキル」全般を育むうえで有効に機能

2015年、掛川市は、当時リプレースを控えていた6つの小中学校を対象にSurface Pro 3を導入。1校あたり40台のSurface Pro 3を配備しています。さらに翌年には、8つの小中学校に向けてSurface Pro 4を導入。現在、掛川市における多くの普通授業で、Surface Proを活用した授業が行われています。

佐藤氏は、学校教育でのSurface Proの活用が、情報の選択・活用力だけでなく、その他の「かけがわ型スキル」の育成においても有効に機能していると、笑顔で語ります。

「利便性の高さから来ているのだと思いますが、Surface Proに向けられる子供たちの関心は非常に高いといえます。この傾向は、ペン入力の精度が向上したSurface Pro 4でいっそう強まっています。デバイスを利用することで生まれる『楽しい』という感情は、ICTへの親近感をもたらすため、『ICT=日常的に使用するもの』という環境づくりに大きく貢献しています。また、グループ学習などでは、Surface Proが、グループ内の会話や子供たちの主体性を生みだすきっかけにもなっています。情報の選択・活用力だけでなく、コミュニケーション力や思考力など、『かけがわ型スキル』全般を育むうえで、Surface Proが非常に有効に機能しています」(佐藤氏)

掛川市立中央小学校(左)と掛川市立大浜中学校(右)における、Surface Proを利用した普通授業のようす。学習支援ソフトウェアを連携することで、子供たちの手元にあるSurface Pro上で問題の出題や解答の収集が可能。採点結果を即時に表示することで、授業内容をしっかりと理解しながら学びを進めることができる

こうした児童生徒の積極的な活用を受けて、教員からもSurface Proへの評価の声が上がっていると、横井氏は続けます。

「指導主事の使命は『安定した学校活動』の支援であり、ICT環境の整備以外にもさまざまな側面から学校活動を支援してきました。先生方から要望を受けることが多いのですが、Surface Proは現在のところ前向きな意見しか挙がっていません。これは、先生方もSurface Proが『教育において有効なツール』と認識していることの表れだと考えています」(横井氏)。

今後の展望
次期計画ではクラウドネットワーク技術の導入も検討。市民一丸で取り組む教育のさらなる発展を目指す

掛川市では2019年度を目標に、市内に31ある全小中学校へSurface Proを配備完了することを計画しています。また、基本計画ではこうした児童生徒用 PC に加えて、ネットワークやサーバーといったインフラ環境の整備も、2020年までにひととおり完了することを予定しています。

こうした基本計画の後に控えるのは、市民一丸となった教育提供の強化です。柴田氏は、基本計画の完了後、クラウドネットワーク技術を活用した、次期「掛川市教育情報化推進基本計画」を進めたいと、今後の構想を語ります。

「次期『掛川市教育情報化推進基本計画』では、『掛川市教育ネットワークシステム(KENS)』の構築、およびその運用を構想しています。これは、クラウドネットワークを活用し、市内のあらゆる学校、企業組織、そして家庭を相互に接続することで、『市民一丸で取り組む教育』のさらなる発展を目指すものです。『かけがわ学力向上ものがたり』で策定した学校、家庭、地域組織それぞれに求められる教育を、相互で共有、補完し合いながら発展させることで、『教育・文化日本一の掛川』を市民の皆様と一緒に作っていきたいと考えています」(柴田氏)。

続けて佐藤 氏は、KENS の実現に向けて、今後、マイクロソフトからの支援にも期待したいと語ります。

「2010年の話ですが、ICT環境整備の方針の策定についてマイクロソフトへ相談し、他の自治体が運営する先進校の視察に協力いただいたことがありました。実はその視察で得た情報が、現在進めている基本計画の根幹となっています。その後もマイクロソフトからは、定期的に有益な情報を提供していただいています。KENSの実現は技術的なハードルも高く、掛川市だけの取り組みでは限界があります。この限界を打破すべく、今後もマイクロソフトには、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、技術、アイデアの側面からの支援もいただきたいですね」(佐藤氏)。

「かけがわ型スキル」という指針のもと、自治体だけでなく、市民総ぐるみとなって子供たちの未来を考える掛川市。同市の取り組みは、他の自治体にとっても参考とする点が多いものでしょう。KENSをはじめとする掛川市の今後の取り組みが注目されます。

「利便性の高さから来ているのだと思いますが、Surface Proに向けられる子供たちの関心は非常に高いといえます。この傾向は、ペン入力の精度が向上したSurface Pro 4でいっそう強まっています。デバイスを利用することで生まれる『楽しい』という感情は、ICTへの親近感をもたらすため、『ICT=日常的に使用するもの』という環境づくりに大きく貢献しています。また、グループ学習などでは、Surface Proが、グループ内の会話や子供たちの主体性を生みだすきっかけにもなっています。情報の選択・活用力だけでなく、コミュニケーション力や思考力など、『かけがわ型スキル』全般を育むうえで、Surface Proが非常に有効に機能しています」

掛川市教育委員会
学校教育課
課長 佐藤 嘉晃氏

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